太陽に溶けたストロベリー(脚本)
〇教室
昼休みの校内。外は快晴で、青々と差し込んでくる光が清々しい。
友人とご飯を食べたり、グループで遊んだり、一人で読書したり。
思い思いに好きなことをして過ごす時間。
入学して一か月の私も、ようやくこの高校の雰囲気に少し慣れてきた。
周りを見る余裕も出来て、中庭の新緑が眩しいことにも気づいた。
〇中庭
小さな中庭を通って向かうのは自動販売機のコーナー。
ホットやコールド商品は勿論、定期的に商品が一部入れ替わるので利用する生徒も多く、数台設置されている。
食後に冷たいものが飲みたくて買いに来たら、先客が居たようで人影が一つ。
ただ、その背の高い後ろ姿には見覚えがあった。
「橘先輩、こんにちは」
同じ放送委員会の先輩、橘陽向さん。
私はジャンケンに負けて放送委員会になってしまって、不安なまま初めての顔合わせに参加したのが先月のこと。
隣に座った先輩が橘先輩だった。
入学してから同級生としか話したことが無く、先輩と話すこと自体が初めてで緊張していた私に優しくて明るく話しかけてくれて、
とても安心したのはつい最近の出来事だ。
橘 陽向(たちばな ひなた)先輩「おー。お疲れ」
爽やかに笑って自然に声をかけてくれる。
人見知りがちなところがある私だけど、気さくに語りかけてくれる先輩はとても話しやすくて。
憧れと、ほんの少しの好意があった。
でもきっと叶うはずが無いと分かり切っているから、これは恋ではない。
今こうして少し話せるだけで嬉しいのだ。
橘 陽向(たちばな ひなた)先輩「この自販機でさーオススメある?」
先輩は自販機の前で立ち尽くして悩んでいるようだった。
私も同じように自販機の前に立ち、先輩が好きそうなものは何だろうと一瞬だけ見回したけど、分からなくて。
「んー、そうですね。私はやっぱりイチゴオレですかね」
結局自分が好きな物をチョイスした。私がここに来たのも、イチゴオレを買いに来たからだ。
背の高い先輩と目を合わせるように、少しだけ視線を上げながら答えた。
橘 陽向(たちばな ひなた)先輩「そっか、んじゃイチゴオレにしーよぉっと」
私の返答を聞くと先輩は躊躇わずにボタンを押した。
ガコンと音を立てたよく冷えたイチゴオレを先輩は身をかがめて取り出す。
大きい先輩が小さくなるその様子が少しだけ可愛いなと思った。
私が選んだものを買ってくれた嬉しさに密かにはにかんでいたら、
先輩は手に取ったイチゴオレを私の前に差し出した。
橘 陽向(たちばな ひなた)先輩「ん、あげる」
思っても無かった先輩の言葉に分かりやすく驚いた声を上げてしまう。変な声出ちゃったかも。
「え?!先輩が買ったんじゃないんですか?!」
橘 陽向(たちばな ひなた)先輩「当たりが出てさ、どれにしようか悩んでたんだよ。良かったら貰って」
そう言うと先輩は先に買って手に持っていたアイスココアを開けてから一口飲むと、
橘 陽向(たちばな ひなた)先輩「じゃあまた委員会で」
爽やかに笑って手をひらひらと振って去っていった。
〇中庭
姿は見えなくなってから、少し遠くで先輩と友達たちが話し出したような笑い声が聞こえる。
思いがけず頂いたイチゴオレを両手で大事に握りしめると、手のひらの熱がじんわりと冷たいイチゴオレに伝わっていく。
ストローを差して控えめに飲むと、優しいまろやかさで、甘酸っぱくて。
初めての恋の味がした。
先輩に芽生えた始めてのヒロインの感情の表現がとても素敵でした。憧れ、少しの好意からスタートし、可愛いと色んな変遷を経て『恋の味』と表現に至るのですね。甘酸っぱくて、ちょっとドキドキする……青春の恋の始まりの予感に、私もドキドキしてしまいました。いつか二人が結ばれますように✨
話せるだけで満足、気持ちすごくわかります!
欲張りたいけど、自分には自信ないし、でも…って思いの最上級系が話せるだけで満足なんじゃないかなぁと。
青春はいちごオレの味かもしませんね。
この物語を『イチゴオーレ』のコマーシャルに使ってほしいほど、爽やかな新緑の季節の風景が想像に広がりました。きっと今どきの学生たちは実際には、話す口調もちがうのだろうけど、こういう綺麗な言語の描写が読んでいてとても心地いいです。