後宮!功夫娘娘物語

秋山ヨウ

第四話『初めての影武者』(脚本)

後宮!功夫娘娘物語

秋山ヨウ

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〇皇后の御殿
  玉兎は下働きの宮女から一足飛びに昇格を果たし──
  皇后・崔甜果(さいてんか)付きの侍女となった。
  その初日から、玉兎は試練に直面する。
皇后「玉兎。今日一日、わたくしと入れ替わってみなさい」
玉兎「はいっ! ・・・はい?」
皇后「今日一日、わたくしと入れ替わるの。 初めての影武者よ」
麗華「娘娘! いきなり入れ替わるだなんて、もしもバレてしまったらどうされるおつもりですか!」
小宝「そうですよ、娘娘! この野蛮な小娘が娘娘の代わりを務めるなど!」
玉兎(ええと・・・先輩侍女の麗華(れいか)さんと、宦官の小宝(しょうほう)さんでしたっけ)
玉兎「あのう、お二人のご心配ももっともかと──」
皇后「・・・一つ覚えておいて、玉兎」
皇后「わたくしがやれと言ったら、やるのよ。 それがどんな理不尽な命令でも、絶対に」
玉兎(さ、殺気!? く、口が勝手に動いて・・・っ)
玉兎「は、はい・・・やります」
皇后「ふふっ、お利口さんね。それでいいのよ」

〇皇后の御殿
  麗華の手によって、皇后そっくりの化粧を施された玉兎。
  鳳凰を象った簪が、彼女が何者であるかを示している。
麗華「いいこと、玉兎。言葉遣いや表情には十分注意するのよ。しゃべりすぎないよう、気を付けて」
玉兎「はいっ! わかりました!」
麗華「私や小宝のことも「おまえ」と呼ぶの。 徳妃さまに対しても、敬語を使ってはだめ。頭を下げるなんてもってのほかよ」
玉兎「はいっ! わかりました!」
麗華「・・・本当にわかっているの!?」
玉兎「わ、わかっています! 娘娘のメンツを汚したりしませんーっ!」
  胡乱な目で玉兎を見ると、麗華は徳妃について教えてくれた。
  大貴族の娘で、父親は吏部尚書(りぶしょうしょ)。
  有り余る権力と財産を武器に、四夫人の一人である徳妃となったのだという。
麗華「徳妃さまは姫金糸(ききんし)さまと言うの。今年で十六歳、娘娘は金糸と呼ぶわ」
玉兎「玉兎と同い年なのですね! 娘娘とは仲良しなのですか?」
麗華「まさか。徳妃さまは陛下に恋をしているの。あの方にとって、自分以外の妃はみんな敵よ」
玉兎「敵!? ・・・戦う必要が?」
麗華「掴み合いなんてしないわよ。でも、自慢話は軽い挨拶で、嬉々として嫌がらせをしてくるわ」
小宝「娘娘なら簡単にあしらってしまうが、おまえにそれができるかどうか見ものだな!」
玉兎(うう、今になって緊張してきました。 何とか乗り切れればいいのですが・・・)
麗華「・・・肩の力を抜いて。いざとなれば私たちが助けるから、大丈夫よ」
小宝「なっ、麗華! おまえ、新入りが来たらいじめてやると言ってたじゃないか」
麗華「うるさいわね! 緊張をほぐしてあげないと大失敗するかもしれないでしょう」
小宝「た、確かにそうだ。玉兎、大丈夫だ!」
玉兎「麗華さん、小宝さん・・・とっても心強いですー!」
麗華「さあ、そろそろよ。もう玉兎ではだめ。 あなたは今から皇后娘娘よ」
玉兎(演技なんてしたことがありませんが・・・これは形意拳(けいいけん)と思ってやるしかありません! いざ娘娘拳ですっ)
玉兎「・・・ええ、麗華、小宝。 徳妃を迎える準備はできていて?」
小宝「娘娘・・・!? いっ、いやいやこれは玉兎・・・だよな!?」
麗華「あなたが混乱してどうするのよ? 娘娘、歓待の準備は万事問題ありません」
小宝「わ、私は徳妃さまの出迎えをしてくるぞ!」

〇皇后の御殿
  侍女を大勢従え、自らの美貌を見せつけるかのような華美な服装の妃が、皇后の前で頭を垂れる。
  たくさんの簪や歩揺が揺れ、しゃらりと音を立てた。
徳妃「徳妃が皇后娘娘にお目にかかります。 今日もご機嫌麗しゅう」
玉兎「楽にしなさい、金糸」
玉兎「なんだか今日は顔色がいいわね。 いつにもまして華やかだこと」
徳妃「あらぁ、おわかりになってしまいます? 実家に頼んで、今流行りの紅を送ってもらったんですの」
徳妃「とーっても高価なうえに希少なものだから、差し上げられなくて残念ですわっ」
玉兎「あら、そう。別に気にしていないわ」
徳妃「あぁ娘娘、申し訳ありません!」
徳妃「手に入らないものの話をするなんて、あたくし気が利かなくて・・・おーっほっほっほ!」
玉兎「気が利かないなんて、そんなことはないわ。麗華、金糸にお茶を──」
徳妃「お待ちになって! 良い茶をお持ちしたんですの! ささやかな贈り物ですわ」
麗華「こ、このお茶は・・・!!」
玉兎「まあありがとう。 麗華、いただいた茶を淹れてちょうだい」
麗華「ですが、娘娘・・・」
徳妃「・・・何ですの? あたくしの持ってきたものが気に入らないと?」
麗華「・・・失礼いたしました。 それでは少々お待ちください」
  麗華が深々と頭を下げる。その拍子に、玉兎の耳元に囁き声が届いた。
麗華「・・・このお茶は娘娘が口にしないものなのよ。うまく誤魔化して!」
玉兎「ええ・・・っ!?」
徳妃「どうしましたの、娘娘?」
徳妃「もしかしてあたくし・・・うっかり! 娘娘のお嫌いなお茶を持ってきてしまったかしらぁ?」
玉兎「い、いいえ! 今日はこのお茶が飲みたい気分だったの。ありがとう、金糸!」
徳妃「・・・・・・」
玉兎(あうう、いけません・・・! なんだか怪しまれているような気がします!)
徳妃「娘娘・・・もしかして──」
玉兎「ななな、何かしら?」

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