人間免許

星谷光洋改め、『天巫泰之』

人間免許の更新(脚本)

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〇荒廃した街

〇荒廃した街
  2065年、二月四日。今日は人間免許試験の更新日なので、甲信越地区の会場に来たところだ。
  誰もが不安そうに周囲をみまわしている。なかには泣き出してしまう若い女性たちもいた。
  世界でも有数の治安国家だった日本。

〇荒廃した国会議事堂
  たび重なる国内の紛争、テロによって、日本も、国会も朽ちてしまった。
  しだいに悪名高き犯罪国家と各国から非難されるようになり、政府は人間免許の法律を制定した。
  議員や免許センターの職員を問わず、すべての国民が人間免許の試験をし、免許を更新できなかった者は、

〇島
  東京都から数キロ離れた海のなかにある島に閉じこめられてしまうのだ。
  日本各地の免許センターと島とは、海底トンネルでつながり、センターの屋内から大型バスで島に移送されるのだという。
  島といっても、新潟県にある、佐渡市ほどの大きさで、地下施設のなか、人間教育という名のもとに、
  さまざまな学問や宗教、職業に関する訓練を実施する。
  そして三年ごと、誕生日前後一ヶ月内に人間免許を取得するために試験を受けるのだ。
  また、車の免許更新と異なり、仕事やほかのどんな用事よりも優先される。例外は家族や自分の不幸や事故のときのみだ。

〇地下室
  免許更新は、今回で三回目にもなる。
  いままではどうにか試験をクリアしてきたが、今回もクリアできるかどうかはわからない。
  試験に落ちれば最低三年間は島暮らしとなれば、真剣にならざるを得ないだろう。
  地下室に入った私は、重苦しい雰囲気に息苦しくなっていた。
  しかし、いつも思うのだが、人間免許制度ができたあとも、犯罪のニュースがあとを絶たないのはなぜなのか?
  教室にいる数十人も善人そうにはみえない。
  なによりも飲酒で免停になったり、暴力事件を犯したあとの試験においても免許を更新した知人もいた。
  いったいどんな基準で更新の有無を決めているのだろう。
  また、一年前に、俺にとっては善人を絵に描いたような両親がそろって島行きとなったときはとてもショックだった。
  人はみかけではわからない闇があるというのだろうか?
  両親が島に移送されたあと、俺の心のなにかが変化した。
  今日という日まで、自分からさまざまな本を読んだり、ヨガや瞑想をしたりで、修養することに努めた日々だった。
  地下室のスピーカーから鈴の音が鳴り、ようやく試験がはじまった。

〇作戦会議室
  ひとりひとり個室に入って、医師たちから催眠をかけられ、さまざまな質問をされるらしい。
  もちろん、目がさめたあとはなにを質問されたのか覚えてはいない。
  なるほどこの方法なら本当の姿が明らかにされるにちがいない。

〇組織のアジト
  催眠下で行われた試験が終わった。あとは俺も待合室で結果を待つだけだ。
  ひとりひとりに割り当てられた番号が呼ばれ、俺たちがゲートと呼んでいる部屋に個々に入ってゆく。
  更新不可とされたものは即、島に移送され、更新できた者だけがゲートから戻ってくるのだ。

〇研究機関の会議室
  そして俺の番号が呼ばれた。恐る恐る部屋に入る。
  なかは未来的な広い部屋で、メガネをかけた背広を着た四十代くらいの男が、椅子に座って俺を微笑みながらみている。
  その男の横には体格のいい、外国人の警備員らしき男が立っている。毎回見慣れた光景だった。
男「免許ナンバー、MZS5207682、楠谷太郎さん。島移送に決まりました。これからもがんばってください」

〇研究機関の会議室
  目の前が真っ暗になった。それにしても嫌みなやつだ。別名、犯罪者島でなにをがんばれというのだろう。
  しかし今さらなにを言っても仕方がない。これもみな因果応報というものなのだろう。

〇島
  目隠しをされたとたんに急激に睡魔に襲われ、しばらく寝ていたようだが、周囲のざわめき、歓声で目が覚めた。
  どうやら睡眠薬みたいなものを嗅がされていたようだ。
  「楠谷さん、着きましたよ」
   目隠しがとられた瞬間、大勢の人たちが拍手をし、花束をさしだしてきた。
  人々のなかには俺の両親もいた。俺の母親は泣いていた。
楠谷「これはいったいどういうことなんだい?」
  俺は親父にそう尋ねると、親父は、
楠谷の父「太郎、実は数年前から更新不可の人たちがほとんどになり、島の敷地に余裕がなくなってきたので、」
楠谷の父「島に収容した人たちをいったん日本各地の刑務所を再開して収容し、再教育をし、」
楠谷の父「この島には、更新の許可を得られた人たちだけが来ることになったんだよ。太郎、ほんとうにおめでとう!」
  と、満面の笑みを浮かべ、俺を抱きしめながら話してくれた。
楠谷の母「そうなのよ、太郎。この島は地下都市にもつながっているから、誰もやってこれないのよ」
楠谷の父「そうなんだよ。海底トンネル以外は通れない。島のまわりにはなにか、バリヤーみたいのがあるみたいだよ」
楠谷の母「地下都市に住んでいる私たちは、島からは世界各地に行ける船もでてるし、地下都市には日本にあるものはなんでもあるのよ」

〇海
  俺はいままでいた住んでいた日々を思っていた。いつのまにか、日本そのものが刑務所のような世界になっていたなんて。
  だけど、これで免許を更新している人たちの犯罪、事故が絶えないわけがわかった。

〇島
  fin

コメント

  • するっと読めるのに、読んだ後でズシッとした重みを持って考えさせられる。ショートショートの妙、そんなお話でした。
    人間としてどう生きるべきなのかは永遠の課題なんでしょうね。
    恐らく、時代が変われば求められる人間像も変わる。今は良かれと思っていた行いが、数十年後には悪とされるなんて事もありますし。
    考えさせられるのは、更新できない人が増えすぎたって所。自分の為、人の為、多様性、模範的。難しい・・・

  • 流刑地だと思っていた島が、実は許された人たちが住む場所だったとは…。
    でも、その思われていたほうが、なにかと都合がいいのかもしれません。

  • 行為そのものか、言論思想によるものか、更に人間の悪についての概念が不透明な世の中になれば起こりうる免許かもしれませんね。たまに動物をみていると、言葉や思想を持つことにひどく罪悪感みたいなものを覚えます。主人公の結果に同情しながらも、そういう私は、免許の更新ができるのか!?と身につまされる思いです。

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