MAD・AGE

山本律磨

高杉晋作の帰還(脚本)

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〇城下町
  かぶき者や芸者幇間の騒ぎに誘われ、狂乱する町民達。
  人々の喝采を受けながら、白壁の町を城に向かって一直線に行進する奇兵隊。
  隊士達の表情には、もはや笑顔も弛緩も無い。
  ただ狂信者の様な強く血走ったまなこで、おのおのが城を見据えている。
善蔵「・・・」
善蔵「狂っちょる・・・」
善蔵「どいつもこいつも狂っちょる」
四郎「あんたは正気だったんですか?」
武人「お前は正しかったのか?」
善蔵「ひいっ!」
  『どうした善蔵?』
善蔵「ひいいいいいっ!」
  錯乱する善蔵。
  隊列を離れ、町民を突き飛ばし、善蔵は逃げ去った。
  隊の先頭、馬上の狂介は一顧だにしない。
  ただ、暗く虚ろな面持ちで、しかし射るような眼光で前だけをじっと見つめている。
  ただ前だけを。
  もう前だけを。

〇屋敷の門
  椋梨家老が屋敷にて切腹したとの知らせを狂介が耳にするのはすこし後のこと。
  無論、それは彼のこれからの生涯において最早些事以外のなにごとでもなかった。

〇断崖絶壁
  日本海を睨む指月山の頂。
  萩城、詰丸。
  掲げられる『奇兵隊』『力士隊』『遊撃隊』『八幡隊』『御盾隊』など諸隊の旗。
  その数、千にも及ぶ諸隊の雑兵達が声一つ立てず整然と並んでいる。
  一文字三ツ星の毛利の旗をたなびかせて、騎馬武者に守られた輿が来る。
  輿が止まり雑兵の前に出てくる毛利公。
狂介「藩主毛利敬親公に対し奉り、捧げ銃!」
  奇兵隊、諸隊全員、銃を掲げる。
  遠く、海の向こうから汽笛が響く。
毛利の殿様「高杉も来たようじゃな」

〇沖合
毛利の殿様「これから長州は・・・日本はどうなるのであろう?」
狂介「・・・」
毛利の殿様「そうか・・・そうせい」

〇武術の訓練場
  しばしの後。
  おびただしい数の町民百姓が、志願兵となって並んでいる。
  その向こうでは、隊士達がこれまでよりもはるかに激しく厳しく、声を上げて練兵している。
  『齢三十以上はこっちに並べ!』
  『おい、命令には一度で従わんか!』
  『私語を慎め!おのれらは新たなる時代の新たなる侍なのだぞ!』
俊輔「おお結構結構。厳しくいこう厳しく」
俊輔「さてと・・・そろそろだな」

〇武術の訓練場
  居館の藁ぶき屋根の頂きにまたがり、ぼんやり空を眺めている狂介。
狂介「・・・」
俊輔「おーい山県さーん」
狂介「総督と呼べ」
俊輔「相変わらず器小さいですね~」
狂介「規律の問題である。我らはこの国の新しい軍隊の雛型となるやも知れんのだぞ」
俊輔「はっ!了解であります!」
俊輔「それでですね~山県さん。ここも手狭になりましたけ、吉田辺りに大きな陣屋を構えようと思うんですけど~」
狂介「任せる」
俊輔「あ、あと高杉さんが呼んどりますけ、お城まで来てください」
狂介「分かった」
狂介「た、高杉だと!」
俊輔「はい」
狂介「そうか。ようやく会えるのか」

〇草原の道
シンサク「塾へ戻るぞ。幕府から先生を取り戻す計画を練るんじゃ。お前らもついて来い!」

〇御殿の廊下
狂介「すまんの。随分遅れたの」
狂介「たが、うらは切れても根は切れぬもの」
狂介「さあ、ついて行くぞ晋作。これよりはお前とともに!」

〇城の会議室
狂介「御免仕る。奇兵隊総督山県狂介、参上致した!」
総髪の志士「やあ」
総髪の志士「おんしが山県サンかい?」
狂介「え?」
端正な志士「入りたまえ。山県総督」
狂介「あ、はい」
瓦版屋聞多郎「こんな格好ですんませんの」
俊輔「まあまあ、聞多さんは一番お忙しい役目なので」
狂介「俊輔・・・こちらは?」
端正な志士「無論、君と同じ志士である」
総髪の志士「それ以上でも以下でもないきに」
狂介「・・・」

〇城下町
おうの「儂と~お前は~焼山葛~」
おうの「うらは切れても~根は切れぬ~」
  『全ては、あの馬関での和平講和が始まりでした』

〇海辺
宍戸刑馬なる男「あめつちのはじめておこりしとき、たかまがはらになれるかみのなは、あめのみなかぬし、たかみむすび、つぎにかみむすび」
宍戸刑馬なる男「このみはしらのかみは、みなひとりがみとなりましてかくりみなりき」
四ヵ国連合司令「もういい!黙れ!」
通訳「モ、モウ宜シイ。分カリマシタ」
通訳「第一回ノ会談ハ終了トシマス。我々ハ良ク考エテ回答イタシマス」
  立ち上がる烏帽子の男。
  その前を将校達が立ちふさがる。
  よけもせず頭も下げず、傲然と将校達を睨みつけている烏帽子の男。
  水兵達の表情が怒りに満ちる。
  だが将校達は男に気圧されて道を空ける。
宍戸刑馬なる男「・・・フン。紅毛めが」
  と、水兵の一人が絶叫する。
  『我々の将軍を愚弄するな!この礼儀知らずの野蛮人め!』
俊輔「た、高杉さん!」

〇城の会議室
狂介「な、何を・・・」
狂介「お前は一体、何を言うとるんじゃ・・・?」
狂介「なら功山寺の決起は?いやそもそも、この挙兵は一体何なんじゃ?」
端正な志士「我ら長州正義派が人心を掌握し、この地を尊攘倒幕の魁とする為に起こしたもの」
狂介「・・・晋作は?」
瓦版屋聞多郎「風雲児高杉にはまだ死なれては困るんじゃ」
瓦版屋聞多郎「我らが江戸に攻め上り古き侍の世を変えるまで、雄々しく生き続けてもらわねばならんのじゃ!」
狂介「晋作は?」
俊輔「僕達はあの災いの全てを利用しました」
俊輔「高杉晋作という革命家を、華やかで完全無欠の英雄に仕立て上げ維新の旗頭へと奉じました」
俊輔「その一方で、不始末を起こした異国を恫喝し最新式の銃を手に入れました」
総髪の志士「わしはその手助けをした者じゃ」
狂介「晋作は?」
端正な志士「無論上様にも御承知おき頂いた」
端正な志士「山県君、ここからが本当の戦いだ。これよりは四境を囲む幕府、いや日本中との戦となろう」
端正な志士「だが長州は必ず勝つ。これは内密だが我らには巨藩薩摩の後ろ盾が」
狂介「教えてくれ・・・どこにいる?」

〇モヤモヤ
狂介「高杉晋作は・・・どこじゃ?」

〇城下町
狂介「・・・」
おうの「お!」
おうの「山県さ~ん。お~い、味噌徳利~」
おうの「行っちゃった・・・」
おうの「本当、面白うない男」
おうの「・・・」
おうの「松杉の~木の間の庵そなつかしき~」
おうの「世のうしろ田の~かたほとりにて~」

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