MAD・AGE

山本律磨

対決(3)(脚本)

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山本律磨

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〇戦地の陣営
狂介「お前・・・武人なのか?」
武人「決着をつけるぞ。棒切れ」
狂介「たかだか数日の牢暮らしで、随分性根が歪んだみたいじゃの」
狂介「棒切れに総督の座を奪われたんが、さほどに悔しいんか?」
武人「黙れ狂人」
狂介「お前ごときが奇兵隊を解散させるじゃと?」
武人「争いの無い平和な世に奇兵隊など不要だ」
武人「身分の隔てなく皆が笑って思いのままに暮せる面白い世を、戦ではなく話し合いで作るんだ」
狂介「狂ってしまったのはどっちだ?」
武人「くくく・・・」
狂介「なあ、俺達はずっと同じものを見てきたはずやろうが」
狂介「異人ども、徳川幕府、萩の家老、粟屋、侍ども。松陰先生、松下の連中・・・四郎」
狂介「それで出した答えが、その薄笑いか?」
武人「ほざけ」
武人「怒るしか出来ぬお前の言葉など、本当は誰にも響いてない」
武人「いい加減気づけよ。棒切れ」
狂介「・・・」
狂介「もうええ。ここまでじゃ」
武人「ああ、血と功名だけを追い求める俗物に付き合うのもここまでだ」
狂介「俗物は・・・」
狂介「お前じゃ武人!」
武人「狂介!」
  狂介、槍を構えると一気に武人に飛びかかってゆく。
  武人、柱を盾に槍を交わすも、やがて追い詰められ外へと飛び出す。
武人「来いよ。皆の前で決着をつけてやる」
武人「お前の器を奇兵隊の前で曝け出す!そして・・・叩き壊す!」
狂介「上等じゃ!やってみろ!」

〇城の回廊
  四方で煌々と篝火が燃えている。
  居並ぶ奇兵隊と諸隊。
  その間を駆け込んで来る武人。
  槍を手に武人を追ってくる狂介。
  男達が囲む人の輪の中で、対峙し睨みあう狂介と武人。
  太刀を抜き、叫ぶ武人。
武人「見よ、諸君!」
武人「これが君達の今の大将、奇兵隊総督だ!」
狂介「・・・」
武人「粟屋と何が違う?」
武人「君達を力で脅しねじ伏せる者と、功名目当てに君達を利用し死地に追いやる者の何が違う?」
狂介「だ、黙れ!戦いの最中ぞ!」
  間隔を保ち槍の突撃を回避しながら、武人は饒舌に喋り続ける。
武人「僕が目指すは皆が笑って暮せる平和な世だ。侍も百姓も手を携えて生きる世だ」
武人「破壊論者高杉とも、まして俗物のこの男とも違う」
武人「僕こそが維れ新たなる指導者だ!」
狂介「やかましい!」
  狂介の槍が武人の太刀を弾く。
善蔵「赤根さん!手加減なしじゃ!」
  武人に槍を投げる善蔵。
  武人、槍を受け取って構える。
武人「奇兵隊の戦いは終わらせる」
武人「さあ村へ帰らせてやるぞ、百姓!」
狂介「まだ終わらぬ。奇兵隊の戦いは、まだ終わらん!」
武人「・・・では語れ」
狂介「なに?」
武人「語れ山県。その血の巡りの悪い頭で考えてもっと語ってみろ」
武人「総督ならば隊士達を鼓舞してみせろ」
狂介「・・・」
武人「お前にとって奇兵隊とは何だ。長州とは何だ。日本とは何だ」
狂介「黙れ・・・黙れ黙れ!」
  乱れる狂介の攻撃を軽々と交わす武人。
武人「考えた事もないだろう。それがお前だ」
武人「欲しいものは名誉か?功名か?」
武人「高杉の尻馬に乗って戦ごっこをすれば成り上がれると思ったか?」
武人「歴史に名を刻めるとでも思ったか?」
  答えられないのは狂介だけではなかった。
  武人の言葉は、奇兵隊士たち一人一人に突きつけられているかのようだった。
  隊士達の顔が、次第に苛立ち歪んでゆく。
武人「・・・」
  そんな隊士達を一瞥し、再び狂介を睨みつける武人。
武人「学もなく志もなく、ただただ力に怯え力に屈し、頭を撫でられれば尻尾を振る」
武人「腹もふくれ牝の尻で一物を擦れば怒りも理想も消えて無くなる。まこと畜生だな」
  隊士達の顔色が、明らかに怒りを帯びてゆく。
武人「犬畜生が維新の戦にしゃしゃり出ようとするなど、お笑い草だとは思わぬのか」
狂介「黙れ!」
武人「うるさい黙れ、その繰り返しか。無学な凡百と共に戦った己が恥ずかしいぞ」
  攻勢に転じる武人、狂介を追い詰める。
  武人、狂介の足を払う。
狂介「クッ・・・!」
  倒れる狂介の眼前に武人の槍が突きつけられる。
武人「・・・」
  武人、狂介を見下ろし、告げる。
武人「大将なら語ってみよ。志士なら語ってみせよ。この国の行く末を。長州の未来を」
  隊士達もまた狂介の言葉を待つ。
武人「さあ語れ」

〇古いアパートの居間
狂介「お、俺は・・・」

〇城の回廊
狂介「異人に媚びへつらう徳川幕府を誅滅し・・・」
狂介「み、帝を奉じて諸藩が一丸となり・・・」
狂介「せ、世界に通じる・・・新たなる・・・国造りを」
狂介「ひっ!」
武人「お前は寺子屋のワッパか?」
善蔵「ひゃははは!」
  わざとらしく笑い声をあげる善蔵。
  だがその場に集う男達は誰一人同調することなどなく、ただ黙って狂介の答えを待っている。
善蔵「チッ・・・!」
武人「お前に聞いとるんだ狂介。誰かの言葉やない。お前の言葉だ」
松陰先生「なあコスケ。僕は君に聞いちょるんじゃ。誰かの言葉じゃのうて、君の言葉を聞かせてほしいんじゃ」
狂介「先生・・・」
狂介「・・・」
武人「・・・」
狂介「国の行く末なんぞ・・・知らんわい」
狂介「俺はただ、今の長州が好かんだけじゃ」
  十文字槍の柄先を掴んで立ち上がる狂介
武人「悪あがきを」
  武人、槍を払い狂介を倒す。
  狂介、なおも武人を睨みつける。
狂介「異人に、侍に、日本中に、世界中に頭踏みつけられたまま手なんぞ携えられるか」
  狂介、再び槍を掴む。
狂介「槍を返せ・・・俺の槍を」
武人「こんな棒切れで何が出来る」
  武人、十文字槍を奪い、その柄で狂介を討ちすえる。
武人「中間ひとりこらしめるが関の山か」
  狂介もまた、打ち据えられるたびに槍を掴み、必死で食らいつく。
武人「放せ!」
狂介「俺は馬鹿じゃけ。槍しかないけ」
  槍をその手に掴んだまま、立ち上がる狂介。
狂介「やけど同じ馬鹿でもお前とは違うぞ」
狂介「俺は忘れん。四郎のこと、松陰先生のこと」
狂介「侍に踏みにじられ続けたこれ迄のこと全部、はぁ一生忘れんけえの」
  互いに槍を掴み、奪い合う狂介と武人。
狂介「お前らが侍の世で笑って暮しちょっても、俺は、俺だけは怒り続けるけえの」
武人「狂介・・・!」
狂介「この国の未来は、この俺の怒りから作っちゃるわ!」
  狂介、槍を奪いそのまま柄で武人を殴り飛ばす。
武人「グッ・・・!」
  思い思いの気持ちを込めて狂介を見つめる隊士達。そこにもう軽蔑はなかった。
武人「本当に・・・」
武人「小さい男やの」
狂介「所詮は一介の武弁じゃ」
武人「そんなんじゃ友など出来んぞ」
狂介「いらぬ世話じゃ」
武人「そうだな」
  武人、隊士の列に駆けると銃を奪って狂介に向ける。
狂介「そんなに総督の座が惜しいのか」
狂介「そこまで堕ちたか!」
武人「くくく・・・仕上げはこれからだ」
俊輔「赤根さん、もうやめて下さい。銃を向ける相手が間違うちょります!」
  隊士達もまた、俊輔に同意し、叫ぶ。
  『侍はまだおる。日本中におるんじゃ!』
  『今、侍共と戦わねば僕達は一生虚仮にされ続けるんです。日本中に!世界中に!』
武人「百姓がものなど申すな!」
俊輔「赤根さん・・・」
武人「隊士諸君、山県を征伐しろ!山県は日本の未来を捻じ曲げる男だ!」
  だが、隊士達は誰一人動かない。
武人「俊輔」
俊輔「・・・」
武人「善蔵」
善蔵「・・・」
武人「平次!紋太!吉良冶!」
武人「この小人ども!日本人同士血を流す気か?萩を焼け野原にする気か!」
武人「この馬鹿どもが!近視眼どもが!」
狂介「武人・・・」
武人「口を挟むな俗物めが!」
狂介「武人・・・お前も本当の言葉を喋ってくれ」
武人「・・・!」
狂介「俺と一緒に怒ってくれ。一緒に狂ってくれ」
武人「・・・」
狂介「・・・」
武人「そうか・・・分かった」
狂介「武人・・・」
武人「奇兵隊よ!山県を討て!狂人を殺せ!」
狂介「お前・・・」
武人「貴賎平等!天下泰平!皆が笑って暮せる未来のためだ!」
武人「侍百姓みなが手を携える世のためだぞ!」
武人「剣は己でなく弱き者のために振るうのだ!」
武人「憎しみからは何も生まれぬぞ!」
武人「憎悪は身を滅ぼすぞ!」
武人「強き者より優しき者が幸せになれるのだ!」
武人「さあ、怒りなど捨てて笑って萩へ戻ろう! 我が奇兵隊よ!」
武人「笑え!笑え!ははははは!」
武人「・・・」
狂介「武人・・・夢まぼろしはもう終わりじゃ」
武人「・・・」
武人「ああ・・・どうやらそのようだな」
武人「夜明けか・・・」

〇城の回廊
  空が白け、長かった夜が明ける。
  武人、銃を狂介に向ける。
  その指が引き金を引く刹那・・・
狂介「武人!」

〇古いアパートの居間
松陰先生「コスケは真っ直ぐな男ですね」
タケト「はい・・・」
松陰先生「タケトは優しい」
タケト「違います・・・」
松陰先生「そうかな?僕は人を見る目だけはあるんですけどね」
松陰先生「これは・・・」
タケト「違うんです」
タケト「その絵は槍なんです」
タケト「いつかきっと、強い槍になるんです」
タケト「棒切れやない・・・」
タケト「俺のせいじゃ。俺のせいで・・・」
松陰先生「ふむ。君だけがその棒の行く末を知っているんですね」
タケト「棒の行く末・・・」
松陰先生「ならば、その日がくるまでずっと一緒にいてあげなさい」
松陰先生「ただの木切れが強い槍となるのを、君が助けてあげるのです」
タケト「は・・・はい!」
松陰先生「長生きしなさい」
松陰先生「大人になったら面白いですよ。年をとったらもっと面白いはずですよ」
松陰先生「長生きしましょう。友を助け友と一緒に。いつまでもみんなで。この地で」
コスケ「タケト。一緒に帰ろう」
コスケ「あれ?お前、泣いちょるんか?」
タケト「お前こそ!」
コスケ「泣いちょらんわ!生まれてから一回も泣いたことないわい!」
タケト「俺は前世から泣いたことないわい!」
コスケ「ワシは前々々世から泣いたことないわい!」
松陰先生「ははははは」

〇城の回廊
狂介「泣いているのか?」
武人「ははっ・・・」
武人「泣いとらんわ」
狂介「・・・」
俊輔「赤根さん!」
狂介「裏切者は打ち捨て野に晒すべし!」
  武人の亡骸を見下ろす狂介。
  武人の眼は見開かれたまま、ただ空を見つめている。
  夜明けの空を、ただ静かに。
狂介「言、行を顧みず志に突き進む。即ち狂」
  昇る朝日が狂介と隊士達を照らす。
狂介「我らはこれより萩へ攻め上り、御殿を俗論家老よりお救いたてまつり京へ至り帝を奉じ、江戸幕府を討ち滅ぼす」
狂介「狂え」
狂介「狂え!狂え!狂え!」
狂介「昔を壊すぞ!今を作り変えるぞ!」
狂介「狂え!狂え!狂え!狂え!」
  狂介に呼応するように、朝日に向かって猛る隊士達。
  狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!
  猛りはやがて、鬨の声へと変わる

〇血しぶき
  狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!
  狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!
  狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!狂え!

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