夢の終わり(脚本)
〇部屋のベッド
先輩「おはよう」
私「・・・え?」
目が覚めると、大好きな先輩がいた。
私「ど・・・ どうして先輩がここに?」
今朝、熱を出して学校を休んだ私。
薬を飲み、一日中ゆっくりと眠っていたおかげで
夕方になった今は体調もだいぶよくなっていたけど。
私(な、なぜか先輩が私の部屋に!)
大好きな人の姿を見て、私の体温は再び急上昇する。
私(ていうか私、パジャマじゃん!)
私(髪もボサボサだし!)
先輩と私は、付き合って一ヶ月も経たない新米カップルだ。
先輩はかっこよくて性格も優しいから、学校でも女子にモテモテで。
私(そんな先輩と私なんかが付き合えたのは、奇跡みたいで・・・)
私(たまに夢なんじゃないかって思う)
だから、この夢がいつ覚めてもいいように。
いつ夢が破れてもすぐに「最初からなかったこと」にして、
現実の世界に戻れるように。
私と先輩が付き合っていることは、学校の誰にも秘密にしていた。
私(私が「そうしてください」ってお願いしたんだよね・・・)
先輩「熱出したんだって?」
先輩「心配だからお見舞いにきたよ」
先輩「くる前に連絡したんだけど、寝てて気づかなかったみたいだね」
私「え・・・」
慌ててスマホを確認する。
私(ほ、ほんとだ)
私(先輩から「お見舞いにいくね」って連絡きてる)
私(気づいていればせめて着替えくらいはできたのに!)
でも、今さら後悔しても遅い。
先輩「思ったより元気そうでよかった」
先輩「やっぱり顔だけでも見にきて正解だったな」
先輩「デートはできなくても」
私「あ・・・」
今日、私と先輩は放課後デートの約束をしていたのだった。
私(私が熱出したせいで流れちゃったけど・・・)
私「す、すみません!」
私「デート、ドタキャンしちゃって・・・」
先輩「仕方ないよ」
先輩「でも、今日は本当に君に会いたかったんだ」
私「え・・・」
私(先輩がこんな顔するなんて・・・)
私「何かあったんですか?」
先輩「・・・友だちが、君をかわいいって言ったんだ」
私「え?」
先輩「みんなは俺たちが付き合ってること、知らないから」
私「あ・・・」
私(もしかして先輩 ヤキモチ・・・焼いてるの?)
先輩「ねえ」
先輩「そろそろ、ダメ?」
私「へ? な、何がですか?」
先輩「俺たちが付き合ってること、公言するの」
先輩「君は俺だけのものなんだって そろそろみんなにわかってほしいよ」
先輩がベッドに手をつき、顔を近づけてくる。
私(え・・・)
私(これって・・・)
私(キスされる!?)
私「だ、ダメっ!」
私は先輩の胸を押し退けた。
先輩「・・・どうして?」
私「だ、だって私、今汗でベタベタだし、ひどい格好だし・・・!」
私(はじめてのキスはもっとムードのあるときが・・・!)
先輩「え?」
先輩「・・・ああ、そっち?」
先輩「そんなの気にしなくていいのに」
先輩は再び私に近づくと、ベタベタした私の頬を両手で挟んだ。
先輩「かわいいよ、今日の君も」
私「う、嘘です!」
先輩「本当だよ」
先輩「熱で潤んだ瞳 ほんのり染まった頬」
先輩「おまけにパジャマ姿で・・・」
先輩「君、多分、自分で思ってるよりもかなり色っぽいよ?」
私「え!?」
驚く私の隙をついて、先輩はすばやく私に顔を近づけ──
唇を、重ねた。
私「・・・!?」
先輩「──奪っちゃった」
目を白黒させる私に、先輩はもう一度。
ちゅっ
私「せ、先輩、ダメ・・・! 風邪移っちゃいます・・・!」
先輩「いいよ、別に」
先輩はそれを態度で示すかのように、
私に何度も口付けをした。
私「だ、ダメ・・・!」
私「先輩、もう・・・!」
私「これ以上したら・・・」
私「熱上がっちゃう!」
先輩「やめてほしい?」
先輩「じゃあ、約束して?」
先輩「君が僕の恋人だってこと、もう隠さないって」
そして、先輩はまた私にキスを──
私「します! しますから・・・!」
先輩「本当に?」
私「本当です!」
先輩「・・・わかった」
先輩はようやくキスをやめてくれた。
・・・しかし、もう手遅れだった。
先輩の甘いキスに心を溶かされ、
再び上がってきた熱に冒されはじめた私は。
先輩「そう言ってくれてよかったよ」
先輩「もう少し続けてたら・・・」
先輩「きっと、我慢できなくなってた」
私「っ!」
先輩のその言葉に、ついに頭が沸騰し。
先輩「・・・あれ?」
気を失ってベッドに倒れてしまった。
〇綺麗な一戸建て
数日後。
先輩のせいで上がった熱が、ようやく完全に引いた頃。
先輩「おはよう」
私「おはようございます」
先輩が私を家まで迎えにきてくれた。
私「先輩、本当に風邪大丈夫だったんですか?」
先輩「うん 何ともなかったよ」
私の風邪が移ることもなかったという先輩は、
私「・・・ずるい 私ばっかり・・・」
先輩「ふふ」
上機嫌に笑って私の手を握り、歩き出す。
〇学校脇の道
手を繋いだまま登校すれば、
私たちが付き合っていることはすぐに学校中に広まってしまうだろう。
先輩「・・・君、俺がすぐ君に飽きると思ってたんでしょ?」
私「え?」
先輩「だから周囲に付き合ってることを隠してた」
先輩「違う?」
私「・・・」
私「そう、です」
私「だって、先輩が私を好きだなんて夢みたいで・・・」
先輩「夢じゃないよ」
先輩「今だってこんなに君が好きなんだから」
先輩が、繋いだ手を自分の胸に持っていく。
私「あ・・・」
私(先輩の胸、ドキドキしてる・・・)
先輩「これでわかった? 俺が君を振るわけないって」
先輩「本気で君が好きなんだ」
先輩「だから、安心して俺のこと・・・」
先輩「好きになって?」
私「・・・はい!」
夢じゃ、ないんだ。
私(先輩と私の関係は、夢なんかじゃなくて──)
紛れもない、現実。
夢のような不確実な時間は終わり。
私(今日からの私たちは──)
たしかな絆を紡いでいくんだ。
先輩と私ちゃんのやりとりが、甘くて可愛くて、ずっとニマニマしながら読んでいました!
先輩は、色々ずるいですよね。
素敵な物語ありがとうございました!
夢の終わりで、続きはリアルで…って素敵な作品ですね!
先輩がかっこよすぎてドキドキしました。
彼女が先輩にハマっていくところの描写とかすごくよかったです!
先輩の言動がすでに『男』な感じで、彼女がどんどんのめりこんでいく可能性がありそうな。確かに、こんな状況夢かもと思って誰にも言えないのわかりますね。素敵なキスの描写でした。