高嶺の花だったのは過去の話でしょ?

国見双葉

エピソード3 開戦前(脚本)

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〇ファミリーレストランの店内
  ここは、とあるファミリーレストラン。
  平日の昼過ぎだというのに、繁華街であるからか、店内はそれなりに多くの人で賑わっていた。
相川 薫「ほ、ホントに私なんかで大丈夫なんでしょうか!?」
笹川「大丈夫大丈夫。昨日ちゃんと説明したじゃないか。君は隣に居てくれるだけでいいって」
笹川「あれ?なんか今の、プロポーズっぽくなかった?」
相川 薫「ふ、ふざけないで下さい!こちとら心臓が止まりそうなくらい緊張してるんですから~!!」
笹川「ごめんごめん。でも、ホントに大丈夫」
笹川「相川さんは、自分が思ってるよりもずっと価値のある大人だよ」
相川 薫「さ、笹川さん・・・」
  薫は笹川の力強い言葉に、思わず涙しそうになった。社会人になってこんな風に自分を評価されたのは初めての事だった。
笹川「今のとこ、「大人」じゃなくて「女性」の方がポイント高かったかな?」
  と思ったら、やはり社会はそんな甘くなかった。笹川の突然の裏切りに、出かけていた涙がスッと引っ込む。
相川 薫「何なんですかもう!?私の感動返して下さい!!」
笹川「はっはっは」
相川 薫「笑って誤魔化さないで下さい!!」
  こんな茶番のようなやり取りをしていると、店員がスタスタと二人の席に駆け寄ってきた。
店員「すいません。お連れの方がお見えになりました」
笹川「いよいよ、だな」
相川 薫「いよいよ、ですね・・・」
  二人の間に、緊張感が漂う。それもそのはず。これからの『あかつき』の未来を占う交渉が、今この場で始まろうとしていたからだ。

〇雑誌編集部
  一日前
相川 薫「それで、私にやってもらいたい仕事というのは?先に申しておきますと私なんかが出来る仕事なんて限りがあると思いますけど・・・」
笹川「ははは。そう卑屈にならないでよ」
笹川「実は明日、とある人物とうちの雑誌で作品を書いてもらえないか交渉することになっていてね」
笹川「その交渉の場に僕と一緒に同行して欲しいんだ」
相川 薫「ど、どうして私が!?」
笹川「それは今から順を追って説明するから落ち着いて。そう牛みたいに荒い鼻息を立てずに」
相川 薫「た、立ててませんよ!?セクハラ!いや、セクハナです!!モー!」
笹川「あ、相川さん?鼻息の件は謝るから、本当に落ち着いて?」
相川 薫「あ、はい。すいません。落ち着きます」
  思いのほか鋭い笹川の目つきに、薫は我に返り、彼女のロースが縮こまった。
笹川「まずはその人物の名前なんだけど」
笹川「『南雲泰雲』 この名前に、聞き覚えは無いかい?」
  どこかで聞いたことのあったかなと、薫は曖昧に頷いた。
  けれどその名前に、薫は不思議と親近感を感じた。
笹川「某ネット小説投稿サイトで今爆発的な人気を得ていて、出版業界ではもう知らない者は居ないと言われるほどなんだけど」
  笹川がここで南雲泰雲について簡単にまとめた資料を渡してくれて、薫はそれに目を通した。
  彼の多くの作品はすでに映像化されているものが多く、そのほとんどが薫も知っているようなここ最近流行ったものばかりだった。
相川 薫(うわ、『夏恋』もこの人なんだ。私この作品めっちゃ好きなんだよな~)
相川 薫(去年連ドラで放送された時はテレビにかじりつくように見てたっけ)
相川 薫「てか、こんなに凄い人ならなおさら私なんかじゃダメじゃないですか!?」
相川 薫「プレッシャー半端ないんですけどお~」
  縋るように訴える薫に、笹川は優しく微笑みかけた。
笹川「ちゃんと意味はあるから大丈夫だよ。何でも、南雲先生はまだ若い青年で君と同世代くらいらしいんだよ」
相川 薫「私と、同世代!?」
笹川「そう。だから綺麗で品もある君が隣に居てくれるだけで南雲も警戒心を解いてくれると思ってね。ちょっとこれは女性蔑視かな?」
相川 薫「いいえ!私なんて、若さと外見くらいしか取り柄が無いので・・。 同行するのは構いませんが、本当に大丈夫でしょうか?」
  例え同世代だからと言って、相手はそこら辺にいるような男でなく、若き天才作家である。
  自分ごときが同行したくらいで、果たして警戒心を解いてくれるだろうか。
  そんな価値が自分にあるとは思えない薫の胸の内は不安でいっぱいだった。
笹川「ありがとう!!恩に着るよ!!実を言うと、もしネットでしか作品を投稿しない南雲の連載がうちで決まったら──」
笹川「出版業界がひっくり返るほどの大ニュースになるからね。なんでもこうして出版社が直接交渉に臨むのも初めてのことらしくて」
笹川「絶対に失敗出来ない交渉だったんだよ!! ここまで来るのもかなり大変で・・・。うう、思い返しただけで涙が出てきそうだよ」
相川 薫(ちょちょちょこれって、とんでもないほど重要な初仕事なんじゃ・・・!!)
  笹川の話に、背中が冷や汗でびっしょりになるほど薫の不安は絶頂を迎えた。
笹川「でも相川さんが来てくれるなら安心だね。やっぱり若い男の子は同年代の綺麗どころに弱いから。じゃあ明日はよろしく!」
笹川「頼りにしてるよ!!」
  薫の胸の内など知らない笹川は上機嫌で編集部の面談室を後にした。
相川 薫「・・・」
相川 薫「とりあえず今から、美容室予約しとこ・・・」

次のエピソード:エピソード4 教室の端っこで

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