@メンションマンション

藍川優

第一話 「メッセージ通知」(脚本)

@メンションマンション

藍川優

今すぐ読む

@メンションマンション
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇大きいマンション

〇高級マンションのエントランス
夏菜子「ふわぁ・・・小春遅いなぁ。 せっかく早起きしたのに」
  朝。私は自宅マンションのエントランスで友達の小春を待ちながら、あくびをかみ殺していた。
夏菜子(いっそ部屋まで迎えに行こうかな? いやいや、でも・・・)
  そんなことを考えていると、エレベーターホールからお父さんがやってきた。
夏菜子の父「夏菜子、こんなところでなにしてるんだ? 学校に遅れるぞ」
夏菜子「うん、そうなんだけど」
夏菜子「今日は友達と一緒に行こうって約束してて・・・」
夏菜子の父「そうか。 同じマンションの友達ができたんだな」
夏菜子の父「いいことだけど、一緒に遅刻するんじゃないぞ~!」
夏菜子「お父さんこそ、遅刻しないようにね。 いってらっしゃい!」
  お父さんを見送った後、私はスマホを手に取った。
夏菜子(小春の事だから、多分寝坊してるんだろうけど・・・)
夏菜子(一応『ネスト』で連絡入れとこ)
  『リンクルネスト』。
  通称『ネスト』は、このマンションのみで使われている独自SNSだ。
  自治会からの連絡や個人のやりとりまで幅広く使われている。
  ここに引っ越してきて一か月も経っていない私は、小春としかまだメッセージのやり取りをしていないけど。
  ピロンッ!
夏菜子「あ、ひょっとして小春?」
  『@302号室 三浜夏菜子 マンションの外に出てはならない』
夏菜子(なに、このメッセージ・・・?)
夏菜子(メンション付いてるから、てっきり小春かと思ったのに)
  送り主は『1309号室』。
  まったく知らない部屋番号だ。
  『ネスト』は登録名に住民の部屋番号が表示されるため、イタズラに使うことはできない。
夏菜子(・・・ちょっと不気味だけど、きっと誤送信かなにかだよね?)
  『ネスト』アプリを閉じた時、小春がこちらに走ってくるのが見えた。
小春「おはよう、夏菜子! 寝坊してごめん!」
夏菜子「遅いよ、小春! ・・・てか、やっぱり寝坊してんだ」
小春「あはは・・・。 目覚ましセットするの、忘れちゃって」
夏菜子「だったら、起きてすぐに連絡してよ~」
夏菜子「そうしたら、もっと家でのんびりできたのに」
小春「うぅ、次からは『ネスト』を送るから許して~」
夏菜子「・・・そう言えば、『ネスト』って、ずいぶん前から使われてるんだっけ?」
小春「うん。私が子供の頃から」
夏菜子「え? そんな前から?」
小春「そう! 今では当たり前だけど、メンション機能とかトークルームとか、当時は真新しかったんだよ!」
小春「確か導入したきっかけは『住民同士の交流を深めて、結束力を強くするため』だったかな・・・」
夏菜子「はぁ~結束力か」
夏菜子「隣近所の人の顔もろくに覚えてない私には難しいかも・・・」
小春「大丈夫だよ!」
小春「ここに住んで16年のベテラン住民、小春さんが色々レクチャーしてあげるから」
夏菜子「ありがと・・・。 小春がいてくれると、私も頼もしいよ」
夏菜子「あとはうっかり癖さえなければ、もっと頼れるんだけどな~」
小春「そ、それは言わないで~!」
小春「あ、ほら夏菜子、そろそろ学校行かなくちゃ」

〇黒
  『@302号室 三浜夏菜子
  マンションの外に出てはならない』

〇高級マンションのエントランス
小春「どうかしたの、夏菜子?」
夏菜子「・・・ううん、なんでもない」
夏菜子(・・・一瞬、エントランスから出るのをためらっちゃった)
夏菜子(あんなメッセージ、気にすることないのに)

〇マンションのエントランス
  小春とふたりでエントランスを出ると、玄関の前で秋雄さんと出くわした。
秋雄「おはよう、夏菜子ちゃん。今から学校かな」
夏菜子「秋雄さん、おはようございます!」
  秋雄さんは、引っ越してきた時から何かと親切にしてくれる。
  優しくて頼りになる私の憧れの人だ。
秋雄「あれ? 今日は小春も一緒なのか」
小春「・・・おはよう。秋雄くん」
秋雄「驚いたな」
秋雄「ふたりが同じ学校とは知ってたけど、もう仲良くなったんだね?」
夏菜子「はい! 引っ越してきてすぐに、小春から声をかけてくれたんです」
秋雄「よかった」
秋雄「小春は子供の頃から人見知りだから、ずっと心配してたんだ」
夏菜子「あの・・・ひょっとして、ふたりは幼なじみなんですか?」
秋雄「ああ。俺もここで育ったから、小春が赤ん坊の頃から知ってるよ」
小春「もう秋雄くん、夏菜子に余計なこと言わないでよ・・・」
秋雄「わかってるって」
夏菜子(秋雄さんと幼なじみかぁ。 ・・・うぅ、小春がうらやましい)
夏菜子「えっと、秋雄さんはこれから大学の講義ですか?」
秋雄「いや。今日は講義のない日だから、今から自治会のメンバーで集まって花壇の整備をするんだよ」
夏菜子「花壇って、中庭にあるあの大きな花壇ですか?」
秋雄「ああ。あの花壇は自治会が作ったものだから、親父が出張で海外にいる間は、俺が整備を手伝わないと」
夏菜子「大変ですね」
夏菜子「お父さんの代わりにマンションの整備なんて」
秋雄「いや、むしろ嬉しいよ」
秋雄「ここは、俺や小春にとって大切な場所なんだからね」
小春「・・・そうだね。 ここにはたくさんの思い出があるし」
秋雄「新しい住民の夏菜子ちゃんも、もう俺たちの家族みたいなものだ」
秋雄「困ったことがあれば何でも頼ってくれていいよ」
夏菜子(困ったこと・・・)
夏菜子(せっかくだから、さっき来たメッセージのこと、相談してみよう)
夏菜子「あの、『1309号室』って、いったいどんな人が住んでるんですか?」
  私がその部屋番号を口にした途端、ふたりの顔色が変わった。
小春「『1309号室』・・・?」
秋雄「・・・なんで君がその部屋番号を?」
夏菜子「それが、ついさっき『リンクルネスト』で『1309号室』からメンション付きの変なメッセージが届いて・・・」
秋雄「『1309号室』からメッセージ? まさか、そんなはずが・・・」
  秋雄さんが真っ青な顔で呟いたその時、さっき別れたはずのお父さんがこちらに向かってくるのが見えた。
夏菜子の父「おーい、夏菜子!」
夏菜子「お父さん? どうしたの?」
夏菜子の父「いやあ、部屋に弁当を忘れてな。 母さんから取りに来いって連絡が──」

〇黒
  お父さんが私に向かって歩いてくる。
  それと同時に、上から何かが降ってきた。
  お父さんの頭をめがけて、まっすぐに。
  グシャッ!
  まるでスイカを棒で叩いたような、鈍い音がした。

〇マンションのエントランス
夏菜子「・・・お父さん?」
  降って来たのは植木鉢だった。
  割れた植木鉢のそばで、お父さんは倒れたままピクリとも動かない。
  お父さんの頭から流れた血が、マンションの入り口を赤く染めていく・・・。
夏菜子「いやああああぁ! お父さん!」
  2話へ続く

次のエピソード:第二話 「ルール」

成分キーワード

ページTOPへ