猫かぶり男子(脚本)
〇古いアパート
アルバイト帰りの近所の路地。
古いアパート。
霊が出るとか、猫が出るとか、
いろんな噂があるけれど──
ドンガラガッシャーン!!!!!!
犬崎明音「・・・・・・」
──現れたのは、人でした。
猫島優「・・・あいたたたた・・・」
しかも、イケメ・・・
もとい、超ドジっ子のお兄さん。
犬崎明音「・・・だ、大丈夫、ですか?」
猫島優「え? あ、あぁ、大丈夫大丈夫。 よくあることだから。あはははは」
アパートの外階段を落ちることがよくある・・・?
猫島優「・・・よいしょ、っと。 で、君はこの辺に住んでるの?」
犬崎明音「え・・・えぇっと・・・」
猫島優「ん? あぁ、聞かれたくないよね。 ごめんごめん」
猫島優「まぁ、でも、この辺よく通るなら また会うことがあるかもね──」
犬崎明音(・・・どういう意味だろう?)
〇学校の校門
──ん? あれは・・・
この間のドジっ子兄さん。
うちの大学で何してるんだろ・・・
猫島優「あっ! おーーーい!」
犬崎明音(げっ・・・)
猫島優「君、ここの子だったんだ! ちょうどよかった、図書館ってどこかな?」
犬崎明音「えっ・・・えぇっと・・・」
犬崎明音「あっちですけど・・・」
猫島優「えっ、どっちどっち? 面倒だから、一緒に来て!」
強引とさえ思える手段で、
私はまんまと・・・
──手を引かれた。
猫島優「僕、方向音痴なんだよね〜 あはははは」
犬崎明音(・・・・・・)
犬崎明音「よ、よくここまで来られましたね・・・?」
猫島優「うん。僕もそう思・・・」
バッシャーーーーン!!!!!!
猫島優「ぶはぁっ!?!?!?」
猫島優「・・・・・・」
犬崎明音「・・・・・・」
学生A「あ、ごめんなさーい」
偶然通りかかった道で水をかけられる──
なんて、漫画の中だけの出来事だと思ってた
猫島優「・・・水も滴るいい男、ってね。 ──思った?」
犬崎明音「思ってません」
自分が「いい男」だという自覚はあるんだな
猫島優「あーあ、びしょびしょだ。 仕方ない、今日は帰るかー」
猫島優「・・・君は?」
犬崎明音「はい?」
猫島優「君はまだ講義? それともバイト?」
犬崎明音「・・・いや、もう帰るだけ・・・」
猫島優「よし、じゃあ一緒に帰ろう!」
犬崎明音「え、なぜ・・・?」
猫島優「こんな格好で一人で帰るのは 寂しいでしょ? 付き合ってよ」
犬崎明音「・・・はあ」
私はまたしても彼の強引な手段でもって、
安易に頷かされてしまった──
〇商店街
猫島優「〜〜♪」
犬崎明音「・・・・・・」
道中、特に会話もなく
彼は水を滴らせながら鼻歌を口ずさむ
猫島優「──!!!!」
──と思いきや、唐突に私を抱き締めた
犬崎明音「えええええええっ!?!?」
猫島優「しっ──ちょっと黙って・・・!」
犬崎明音(はいいいい!?!?!?)
どのくらいの時間が経っただろう──
犬崎明音「・・・・・・」
彼がようやく体を離した頃には、彼の服を濡らした水の冷たさなんて一切なく、
ただ優しい温もりだけが私を包んでいた
猫島優「あ、ごめん・・・」
犬崎明音「きゅ、急にどうしたんですか・・・?」
猫島優「いや、ええっと・・・君が可愛くてつい・・・」
犬崎明音「か、かわいい・・・?」
猫島優「──うん、可愛い」
言われ慣れない台詞に、ついドキドキしてしまう
猫島優「──じゃあ、帰ろうか」
そう言って彼はそっと私の手を取った。
だけど、私はふと疑問に思う。
私が可愛いかどうかはともかく──
私はもっと大事なことを見ていない気がするのだ──
〇古いアパート
猫島優「すっかり暗いね」
犬崎明音「・・・・・・」
猫島優「お詫びに送っていくよ」
私はまだ握ったままの彼の手をするりと離した。
猫島優「どうしたの?」
犬崎明音「・・・なんか変だと思ってたんです」
猫島優「・・・何が?」
犬崎明音「あなた、猫かぶってますよね?」
猫島優「・・・え?」
犬崎明音「ドジなふりしてたのも、私を可愛いって言ったり抱き締めたりしたのも、全部──」
犬崎明音「嘘ですよね──?」
猫島優「・・・どうしてそんなこと言うの?」
犬崎明音「私、昔から鈍感で鈍臭くて危ないことに気が付かずによく怪我とかしてたから──」
犬崎明音「夜中の路地、大学での水掛け事件、さっきの商店街──」
犬崎明音「あなたは私が危ない目に遭いそうなのを知ってて、ずっと知らないふりをしてた」
犬崎明音「そうですよね?」
猫島優「──そうだね。 猫をかぶってたのは認めるよ ドジなふりしてたのも認める」
犬崎明音「・・・どうして言ってくれなかったんですか?」
猫島優「──言ったら、君が怖い思いをするだろ?」
猫島優「言わなくても、俺が守るつもりだったし」
犬崎明音「・・・・・・?」
猫島優「俺には昔から嫌なものばっかり見えてね」
猫島優「──でも、君だけは違った」
猫島優「明るくて無邪気でちょっと危なっかしくて──こんなにあったかい気持ちになったのは、ずいぶん久しぶりだった」
猫島優「知らないふりしてたのは、君を怖がらせないためだけじゃない。下心もあったんだよ」
猫島優「さっき商店街で後ろから近づいて来てた自転車から君を庇った時も──」
猫島優「自然に君を抱き締められる──なんて邪なこと考えてた」
猫島優「そういう意味でも、俺は猫をかぶっていたんだろうね──」
猫島優「下心があるのを知られたくなくて、でも君には近づきたくて──」
猫島優「だから、嘘じゃないよ。 俺は君だから守りたいと思った。 君のこともっと知りたいと思った」
犬崎明音「・・・・・・」
犬崎明音「・・・ごめんなさい」
猫島優「えっ、何が!?」
犬崎明音「あなたが嘘をついてるとか、私じゃなくても同じことしたんだろうとか、私、そういうことばっかり考えて──」
猫島優「──あぁ、君も、猫をかぶっていたんだね」
猫島優「大丈夫。俺といる時は、無理に笑わなくてもいいんだよ──」
そう言って私の頭を撫でてくれる彼の手は
とてもあたたかくて、優しかった──。
そう
私が見破った猫かぶり男子の正体は──
『私だけの白馬の王子様』
だったのかもしれない──
犬だって可愛いのに、かぶりませんよね、不思議。ミステリーな雰囲気もあり、独特な世界観も心地よかったです。感謝。
これは良い猫かぶり、と呼んだ後思わず言ってしまいました。どことなく不幸体質のヒロインちゃんが、この出会いで幸せになってくれることを願います。素敵な物語ありがとうございました!
素敵な猫被りですよね。
気づかないように守るなんて、すごいかっこいいですよ!
結局バレてはいましたが、あんなこと言われたら好きになってしまいます!