第五話 決闘裁判(脚本)
〇宿舎
地方裁判所──
〇法廷
検察官「被告は木場山の山中にて、絶滅危惧種である妖怪の狒々を虐待しました」
有能そうな検察官が、雄弁に起訴状を読みあげている。
被告席に立たされているのは、文彦だ。
検察官「野生動物保存法違反の現行犯であります」
検察官「極めて悪質であり、厳重な処罰を要求します!」
裁判官「検察官が読み上げた事実について、なにか間違っているところはあるかね?」
青馬文彦「自分は虐待なんかしていません! こんな裁判はナンセンスだ!」
〇傍聴席
「Boo!! Boooo!!」
傍聴席にいるLS(自然保護団体 Land Shark)のメンバーたちは、文彦への怒りを露わにしている。
〇法廷
裁判官「静粛に!」
カンカンカン!!
裁判官が、日本の裁判所では使われていないはずの木槌を打ち鳴らす。
裁判官「弁護人の意見はどうかね?」
弁護士「ひ、被告は、きゅう、ふいに狒々に襲われて・・・」
弁護士「・・・あ、あくまで自衛のために防戦したの、のにすぎません」
弁護士「む、む、無実です」
検察官「被告の目的は、希少種である狒々を捕獲して、裏ルートでコレクターに売り飛ばすことであることは明らかです」
検察官「でなければ二ヶ月ものあいだ、山中で過ごしていた理由が説明できません」
裁判官「被告はなんの目的で山中にいたのかね?」
弁護士「ひ、被告はぶとうかで、山に入ったのは踊りの練習を・・・」
青馬文彦「〝舞踏家〟じゃなくて〝武道家〟!」
弁護士「し、失礼しました。ブドウの練習の間違いでした」
検察官「異議あり!」
検察官「昔の劇画じゃあるまいし、いまどきそんな時代錯誤な人間はいません!」
青馬文彦「山中での修業は武道家の基本です!」
裁判官「静粛に! 被告は許可なく発言しないように」
青馬文彦「・・・すいません」
裁判官「それでは陪審員の皆さん──」
弁護士「ま、待ってください。ま、まだ証人が到着していません」
裁判官「もう時間だ。あきらめなさい」
裁判官「では陪審員のみなさん、判決を」
6人の陪審員は、全員がクイズ大会で使うような札を手にしている。
(有)(有)(有)(有)(有)(有)
いっせいに札を上げると、全員一致で有罪という結果となる。
〇傍聴席
「イエース!!」
LSのメンバーたちは、勝ち誇ってハイタッチしたりしている。
〇法廷
裁判官「被告は有罪につき、懲役一年の実刑に──」
青馬文彦「待ってください! 自分はもうすぐ大事な大会があるんです!」
法廷警備員「弁護側の証人が到着しました」
裁判官「そうか。では入廷しなさい」
法廷にその威容をあらわしたのは──
青馬文彦(まちがいない!! 山中で死闘を演じた、あの狒々だ・・・!!)
裁判官「証人は証言台へ」
首輪に繋がった鎖を警備員に引かれ、狒々は証言台にむかって歩いていく。
〇傍聴席
リーダー「首輪は虐待だ!(日本語訳)」
LSのメンバーが、また的外れな非難の声をあげる。
〇法廷
狒々は大人しく証言台に立つ。人間の言葉がわかるようだ。
弁護士「ひ、ひひひ、狒々さん」
弁護士「あ、あなたは山の中で、ひひ、被告人から虐待を受けましたか?」
狒々「ヲォウ、ワォォウ、オゥ」
検察官「ただケモノがうめいているだけだ。 こんなもの証言にならない!」
裁判官「すぐに通訳者を」
──20分後。
狒々のそばには、一頭のゴリラと手話通訳者が立っていた。
弁護士「も、もういちど伺います」
弁護士「狒々さん、あ、あなたは山の中で被告人から虐待を受けましたか?」
狒々「ヲォウ、ワォォウ、オゥ、フヲフヲフヲ──」
やはりケモノがうめいているだけにしか聞こえないが──
となりで静かに耳を傾けていたゴリラが、その言葉を手話で表現する。
それを手話通訳者が読み取り、口頭で裁判官に伝える。
通訳「『彼との闘いは、戦士同士の正々堂々たるものだった』──」
通訳「『一方的な虐待などでは決してない。彼は尊敬できる戦士だ』以上です」
青馬文彦「狒々さん・・・!!」
裁判官「陪審員のみなさん、もう一度判決を」
(無)(無)(有)
(無)(無)(無)(無)(無)(無)
一人だけ有罪をあげかけたが周りを見てあわてて差し替え、全員が無罪の札をあげる。
検察官「こんな証言は無効です! こいつはただの猿だ!」
メンバー「その発言は動物差別だ!(日本語訳)」
検察官「やかましい! さっさと国へ帰れ、環境テロリストども!」
リーダー「ファッーク!!」
LSのメンバーたちと検察官は、つかみ合いの大喧嘩をはじめる。
裁判官「被告人は無罪。これにて閉廷!」
弁護士「初めて裁判で勝った・・・!!」
青馬文彦「狒々さん!」
文彦は狒々のほうに駆け寄ろうとするが、ワッと押し寄せる他の者たちに弾かれてしまう。
みんな、狒々をアイドル扱いして取り囲んでいる。
青馬文彦「早く帰って大会のしたくをしないと!」
〇行政施設の廊下
青馬文彦「いそげ! いそげ!」
???「青馬さん!」
駆け寄ってきたのは、手話通訳者の女性である。
青馬文彦「なんですか?」
通訳「狒々氏から伝言です」
青馬文彦「え!?」
通訳「『邪心を捨てて闘え』とのことです。伝言はこれだけです」
そう言うと、さっさと法廷のほうへもどっていく。
青馬文彦「邪心を捨てる・・・?」
青馬文彦「それはいったい・・・」
〇黒
つづく
次回予告
第六話 温泉宿と開会式
乞うご期待!!
通訳のゴリラが笑える! 早く大会が始まって欲しいです