雪道スタック

オカリ

雪道スタック(脚本)

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〇雪山の森の中
  ──その日は最悪な気分だった
オッサン「くそっ!ダメか!」
オッサン「参ったな・・完全に動けん」
オッサン「レッカー呼ぶか? しかしこの大雪だ・・」

〇霧の中
オッサン「来れるかすら怪しいな」
オッサン「車にするんじゃなかった・・」
  いつだって後悔は遅れてやってくる

〇オフィスのフロア
  2週間前、俺に辞令が出た
  行き先は北海道・十勝
  営業所長が経費の一部を
  競馬に使い込んだ・・らしい
  もちろん懲戒解雇
  埋め合わせとして白羽の矢が
  立ったのが──
  ・・俺だ

〇居酒屋の座敷席
職場の同僚「おめでとうございます! 栄転じゃないですか!」
職場の同僚「いや〜羨ましいなぁ」
オッサン「おう、ありがとな」
オッサン「──よく言うぜ」
  遊びの旅行とは訳が違う
  大方、俺が独身で子供もいねぇから
  「コイツなら問題ないな」
  って押し付けやがった
  家庭がない分、仕事に
  身を捧げたってのに!

〇雪山の森の中
オッサン「どうすっかな・・」
  そんなワケで今、こんな雪山にいる
  転勤補助が5万しか出ず
  ムキになった俺は
  自家用車に荷物を詰め
  引っ越しを試みた
  結果はこのザマだ
  タイヤはスタッドレスなんだ
  雪道だろうが大丈夫だろって
  甘すぎる見通しに今更腹が立つ
オッサン「クソが・・見せもんじゃねーぞ!」
  苦戦する俺を横目に通り過ぎる車ども
  視線が気になって仕方がない
  苛立ちを右足に込めアクセルを踏み抜く
  雪で雑音がないせいだ
  タイヤの空転音はよく響いた

〇雪山の森の中
  また一台、車が通った
  僅かばかりの憐れみの表情
  かわいそうに、とでも言いたいのか?
オッサン「チッ、クソどもが・・」
オッサン「どいつもコイツも雪に埋もれちまえ!」
  なんて、叫んだ瞬間
  目の前を過ぎた車が停まって──
  中から人が出てきやがった

〇雪山
イケメン「・・」
イケメン「もしもし?もう家出た?」
イケメン「まだ? ・・ならよかった」
イケメン「ゴメン、こっちは遅れそうだ」
イケメン「うん、メド立ったら連絡するね」
イケメン「──ありがと」
イケメン「埋め合わせ、期待しといて!」
イケメン「さて・・と」
イケメン「行きますか!」

〇雪山の森の中
オッサン「なんだ?」
オッサン「まさか、俺の悪態が聞こえたか?」
オッサン「だからってワザワザ車から 降りて文句言いにくるか?」
  自然、身構える
  だが目の前の若者は
イケメン「完全にハマりましたね〜!」
イケメン「大丈夫ですか〜?」
  なんて、聞いてきやがった

〇雪山の森の中
イケメン「かなり雪に落ちてますね」
イケメン「もしかしてアクセル全開で エンジンふかしました?」
オッサン「脱出したいんだ、そりゃするだろ」
イケメン「実はNGなんです、それ」
イケメン「タイヤの下、わかります?」
オッサン「・・氷みたいになってんな」
イケメン「タイヤとの摩擦で雪が溶けたんです」
イケメン「さらに圧雪されツルツルに・・ こうなると厄介なんですよ」
オッサン「そういうもんか」
イケメン「とりあえず後ろから押しますね ハンドル操作お願いします!」
オッサン「・・・」
  地元の人間だろうか?
  手慣れた様子で雪を押し除けていく
イケメン「じゃ、押しますね」
イケメン「せーの!よいしょぉ!」
イケメン「もう一度!」
イケメン「掛け声に合わせて アクセルもお願いします」
イケメン「せ〜の!」
イケメン「もう一度!」
イケメン「もう一度!」
イケメン「・・嫌な音が鳴りましたね」
イケメン「反動つけるだけじゃキツいか・・」
イケメン「別の試しましょう! 少し待っててください!」
オッサン「お、おう」
オッサン「・・」
オッサン「いやに親切だな」
オッサン「後で金銭を要求する気か?」
オッサン「その時は、まあ」
オッサン「・・多少は払ってやるか」

〇雪山の森の中
イケメン「持ってきました〜」
オッサン「それ、座席の足元に敷く・・」
イケメン「ええ、フロアマットです」
イケメン「コレを滑り止めにしましょう!」
イケメン「タイヤの下に挟みまして・・」
イケメン「・・」
イケメン「これでよし!もう一度試しましょう!」
イケメン「アクセルはゆっくりめでお願いします!」
オッサン「わかった」
イケメン「せーのっ!」
オッサン「おっ?おお!?」
オッサン「抜けた!抜けたぞ!」
イケメン「いや〜出れましたね!」
イケメン「本当は専用の道具とかあれば 良かったんですけど・・」
イケメン「雑な方法ですみません」
オッサン「とんでもない!助かった!」
オッサン「さすが現地の人は色々知ってるなぁ」
イケメン「──ならよかった」
イケメン「じゃあ、僕はこれで」
オッサン「ちょっと待ってくれ!」
オッサン「コレはせめてもの礼だ 少ねぇけど取っといてくれ」
イケメン「わ、ありがとうございます!」
イケメン「ですが・・大丈夫です」
イケメン「お気持ちだけ、ありがたく」
オッサン「それじゃ俺が納得できねぇ!」
オッサン「レッカー代に比べりゃ安いもんだ」
オッサン「どうか受け取ってくれ」
イケメン「参ったな・・」
イケメン「そうだ!」
イケメン「では、代わりにこうしましょう」
イケメン「もし、雪で動けない車を見かけたら」
イケメン「──ぜひ助けてください」
オッサン「助ける・・」
オッサン「今日のアンタみたいにか?」
イケメン「面と向かって言われると 恥ずかしいですが」
イケメン「要は、そうです」
イケメン「・・というのもですね」
イケメン「僕、昨年に越してきたばかりでして」
オッサン「えっ!?」
オッサン「その割に随分と手慣れてなかったか?」
イケメン「実はですね・・」

〇雪山の森の中
  去年も同じ時期に大雪があったんです
  で、当時の僕もハマりました
  動けない、周囲に建物はない
  雪は降り積もるばかり
  いよいよヤバイって時

〇雪山の森の中
イケメン「・・同じだったんです」
イケメン「あの時、助けて頂いたことが 本当に嬉しくて・・」
イケメン「なので」
イケメン「──ぜひ、お願いしますね」

〇雪に覆われた田舎駅
  山を越えて道沿いに10キロ
  駐車場を見つけた俺は
  ようやく一息ついた
オッサン「・・ふぅ」
  思い返すのは、あの若者
  と、そこで
  ふと気がついた
オッサン「アイツ・・」
  車から降りる直前
  誰かに電話してたな
  服装も随分とオシャレだった
  デートにでも行くかのような・・
オッサン「いや、まさかな」
  見知らぬオッサンを助ける
  それは優先すべきことか?
  しかも苛立ちのあまり
  大声で喚いてたオッサンだ
オッサン「アイツ、損な性格してんな」
  フロアマットも本来なら
  俺のを使うべきだろう
  汚れるのも気にせず手伝って・・
オッサン「・・」
  ただ、
オッサン「──お礼代わりに誰かを助けろ、ね」
  裏表のない親切心ってのは
  どうも劇薬なようで

〇桜の見える丘
  ──来年の冬

〇山並み
  俺が雪道に慣れた頃

〇雪山
  もし車が埋もれたその時は──

〇雪山の森の中
「おぅい!大丈夫か〜!」
イケオジ「──手伝うぜ!」
  その時は、きっと──

コメント

  • 人助けのエピソードは心を摑みやすいとは思うのですが、なぜこんなに嫌味なく、スルッと心に入り込んでくるのか不思議な感じでした。まず、オッサンが人を疑う、人間らしさを醸し出す人間だった事。
    嫌味に押しつけられれる感じがなく、受けとめられるのは、小さな積み重ねだと思うのですが、表現におt

  • 面白かったです❤️
    九州人で専業主婦の私には、
    こんな男臭いtapnovelは一生書けません❣️
    暑さの恐ろしさなら分かるんですけどね‥
    ありがとうございました❤️😄

  • 今度人助けをしてみたくなる、そんな爽やかな作品でした。
    昔聞いた「非モテの味方は姫じゃなくて王子様」って話を思い出しましたw

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