第19話 理想と現実の間で(脚本)
〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
斎川理央「博士、生島さん、おはようございます」
小鳥遊遥「あ~・・・おはよ・・・」
斎川理央「どうしたんですか、博士。 いつにも増してよれよれですよ?」
生島宗吾「論文の追い込みだ」
小鳥遊遥「水族館のオープンにあわせて、生島さんと共著で学会誌に投稿することになってたんだけど・・・なかなか終わらなくて・・・」
生島宗吾「実験にかまけて、 執筆をおろそかにするからだ」
生島宗吾「研究は、論文を認めさせるところまでがワンセットだぞ」
小鳥遊遥「自分の執筆分が終わってるからって、 生島サンが厳しい・・・」
小鳥遊遥「大事なことなのは、わかってるよ~ ・・・うう」
斎川理央「最終投稿の締め切りはいつなんですか?」
小鳥遊遥「今日の午後~」
斎川理央「それ、あと一時間じゃないですか。 間に合うんですか?」
小鳥遊遥「大丈夫、大丈夫。あと一行書いたら終わりだから。ここをこうやって・・・と」
小鳥遊遥「できたー!」
喜びで立ち上がった次の瞬間、
小鳥遊の体がぐらりと傾いた。
小鳥遊遥「あれー?」
生島宗吾「無理のしすぎだ。後の処理はしておくから、ウチに行って風呂に入って寝ろ」
小鳥遊遥「はぁ~い」
小鳥遊は、
ふらふらと研究室を出て行った。
生島宗吾「さてと、誤字のチェックをしておくか」
斎川理央「本当に大丈夫なんですか? 今から誤字脱字をチェックするなんて、いくらなんでも間に合わない気がしますが・・・」
生島宗吾「締め切りは明日だからいけるだろう」
斎川理央「え? でも、博士はさっき、 今日の午後だって・・・」
生島宗吾「ああ、そういえば小鳥遊の奴、 締め切り日を一日勘違いしていたな」
生島宗吾「俺も疲れて『うっかり』訂正してやるのを忘れていた」
生島宗吾「いやー寝不足は怖いなあ」
斎川理央「・・・さすが生島さんです」
〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
生島宗吾「斎川さんの今日の用件は?」
斎川理央「広報関係の進捗報告と、 水族館の展示プランの確認ですね」
斎川理央「あ、そうそう、これも渡そうと思って」
斎川はバッグの中からチラシを一枚出してきた。
そこには、色鮮やかな深海生物の写真がたくさんプリントされている。
生島宗吾「Deep Sea Islandのチラシか」
斎川理央「あまり気分はよくないと思いますが、競合他社の傾向を見るのも必要だと思いまして」
生島宗吾「・・・なんだこれは」
斎川理央「す、すいません! 不愉快でしたね! 片付けます」
生島宗吾「いや、いいんだ。すまない」
生島宗吾「その・・・怒ったのは、 Deep Sea Islandの広告内容に対してだ」
斎川理央「そんなに気になる内容ですか? 普通に明るくてキレイなチラシですけど」
生島宗吾「明るすぎる」
斎川理央「ポップで明るいのは、いいことですよね?」
生島宗吾「Deep Sea Islandのメインは深海生物だろう」
生島宗吾「こんな風にフラッシュをたいて写真を撮ったら、 目がくらんで強いショックを受けるぞ」
斎川理央「暗い所で、いきなりストロボ撮影するようなものですか・・・」
生島宗吾「館内も全体的に明るすぎる。 人間は観賞しやすいだろうが・・・ 生体への負担はかなり大きいだろう」
斎川理央「うーん、そう言われると、チラシが虐待写真に見えてきちゃいました。 一度片付けますね」
生島宗吾「おそらく、チラシをデザインした担当者に、悪意はないと思う」
生島宗吾「深海生物がテーマでなければ、 水族館のデザインが明るいのは普通だ」
斎川理央「問題は、それを止められる実力者がいないってことですよね・・・ ちょっと切ないです」
生島宗吾「まあ、古生物水族館も、 あっちに同情している場合じゃないが」
斎川理央「うちには生島さんがいるじゃないですか」
生島宗吾「忘れたのか? 堺さんを満足させられなければ、俺はクビだ」
斎川理央「それは・・・」
生島宗吾「半分、発破をかけるつもりで出したクビ宣言だったんだろう」
生島宗吾「だが、奮起したところで結局期待に応えられなければ、宣言通り刑を執行する。 堺さんはそういう人だ」
生島宗吾「直接あの人のもとで働いているあんたならわかるだろう」
斎川理央「そう、ですね」
生島宗吾「演出に失敗したら、飼育員チームは解散。 経験者がいなくなった水族館では、 またばたばたと古生物が死んでいくだろう」
斎川理央「で、でも、 生島さんは頑張ってるじゃないですか」
斎川理央「レイアウトを改造したり、 装飾に手をいれたり!」
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古代の海……食べちゃう……あっ(察)