エピソード5『隻腕のヒトの物語』(脚本)
〇洋館の一室
【2033年、イバラキ。『ヒト腹 創』】
『ペスト』のワクチンは、未だボクらの手に無い。
『フォーチュン』が扱う『ペスト』に、より強い耐性を得られるよう、ボクたちはより良い食事を選んだ。
その管理担当を、ボクは実の姉である『祈』に任せた。
祈「みんなぁ、お夕食出来たよぉ!」
姉の言葉と持ってきた大皿、温かな料理に皆が声を上げる。少ない資金からひねり出した究極の贅沢が、姉の手料理だった。
みれい「わぁい♪ 『祈』大好きぃ♪」
楽々「『祈』! 私の嫌いなもの入れてないでしょうね?」
祈「それはどうかなぁ?」
姉は笑いながら自身より少し背の高い彼女、妹のような『楽々』の疑惑を否定しない。
楽々「総隊長~、『祈』がイジメルよぉ~!」
そして『楽々』からボクへの報告《ちくり》だ。本を片手に、じゃれつく『楽々』をあしらう。
貴重な食料を味わう為に、ボクもキッチンの自身の席へと向かった。
タタミ「今回はわたしも一緒に作った」
楽々「た、『タタミ』が? あんた料理なんか出来たわけ?」
タタミ「頑張った。みんなぁ、いっぱい食べて大きくなぁーれ」
料理を頑張ったという『タタミ』が、その幼い胸部を強調する。
だが、その頬に付いたチーズがつまみ食いの産物であることは疑いの余地がない。
楽々(まぁ、あんたが1番小さいんだけどね)
『楽々』の言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、手を広げたままの『タタミ』は尚も頬を動かしている。
ジョーカー「それは私も呼ばれていいのかね?」
『ジョーカー』は定期的に、うちの本拠地、『ヒタチナカ』の廃屋へ顔を出してくれている。
金銭は払っていないがボディガードのような事をしてくれている。それに皆が感謝し、そしてそれ以上に、彼を心から慕っていた。
祈「はい! 『ジョーカー』さんも是非食べていってくださいね♪」
『ジョーカー』が姉の言葉にそっと微笑む。
スプーンを片手に、ボクは前々から聞きたかった事を彼に問いかけた。
ツクル「『ジョーカー』、その腕はかなり前からソレなのかい?」
ジョーカー「・・・・・・ほう。これに気づいたのか、キミは」
ジョーカー「まだ家族にも気づかれていなかったんだがね」
と『造られた手』を直し『ジョーカー』が笑う。
ジョーカー「腕のいい技師にやってもらった。もう、かなり昔の話だよ」
良い人に直してもらったんだろう。撫で思い出すように緩めるその横顔はとても優しいものだった。
タタミ「『みれい』、何を書いているの?」
食事を終えた『みれい』を追って『タタミ』が建屋奥の『みれい』の机、その上の薄汚れたノートPCを覗き込んでいる。
みれい「う、うわ! ちょっと! 『タタミ』覗かないでよ!」
楽々「なになに、『・・・・・・戦士は独りだった。』って、『みれい』小説書いてるの?」
みれい「ヒッ!!」
『みれい』が言葉にならない悲鳴を上げる。『タタミ』の反対側から『楽々』が覗き込んだからだ。
『みれい』も必死に隠すが、こんな小さな家では隠せるものも隠せない。
観念して『みれい』はノートPCを降ろした。かなり本気で項垂れている。
みれい「あ、うん。私バカだけど、ちょっと夢だったりしたんだよ、 ・・・・・・小説家」
楽々「それであのおっさんを主人公に? 何てタイトルなの?」
『みれい』の背もたれを揺らし『楽々』が訊ねる。若干頬を染め『みれい』が頭をかいてみせる。
みれい「ははは、こんなのどうだろ」
乾いた笑い。建屋端のダイニング、そこで『祈姉』と共に黙々と食事を摂る『ジョーカー』を眺め、『みれい』が話した。
みれい「たった1人で闘い続ける戦士を謳った話なの。・・・・・・『独りの戦士』って云う」
それは幼馴染である彼女の一抹の夢だったのかもしれない。『みれい』の瞳はPCの照り返しを受け、誰よりも煌めいていた。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
和やかな団らんの雰囲気もまたよしですな(≧▽≦)🍀和みましたm(_ _)m🍀