#10 淑女の戯れ(脚本)
〇寮の部屋(ポスター無し)
夜留が目を覚ますと、見慣れた自室の風景といつもと変わらぬ真桜の姿がそこあった。
北園夜留「あれ・・・」
佐倉真桜「おはようございます、お嬢様」
北園夜留「夜留の部屋?」
佐倉真桜「はい」
北園夜留「・・・そうだ、昨日は小春さんのところに行ってた」
佐倉真桜「そうでしたね」
北園夜留「・・・勝手なことをしてごめんなさい」
佐倉真桜「いいえ、お嬢様が謝ることはありません。 私が悪かったのですから」
佐倉真桜「・・・私の帰ってきて欲しいという言葉を聞いて頂き、ありがとうございました」
北園夜留「あんなに思い詰めた真桜の声、初めて聞いたから」
北園夜留「・・・でも、小春さん、怖い人じゃなかったのに」
佐倉真桜「失礼いたしました。 昨晩は焦っておりました」
佐倉真桜「学園内とはいえ、夜の間は私のそばにいていただきたかったのです」
北園夜留「うん、わかってる」
北園夜留「小春さん・・・あとで、謝らないと」
佐倉真桜「・・・お嬢様、小春様は本日転校されました」
北園夜留「え?」
佐倉真桜「急な知らせでした」
北園夜留「でも、昨日、なにも言ってなかった!」
佐倉真桜「そうでしたか・・・申し訳ありません」
佐倉真桜「私が呼び戻したばかりに、お話の機会を逃してしまったのかもしれません」
北園夜留「・・・・・・」
佐倉真桜「お嬢様──」
北園夜留「チェス、楽しかった・・・」
佐倉真桜「・・・・・・」
佐倉真桜「今度、お嬢様がよければお相手していただけますでしょうか」
北園夜留「・・・! うんっ!」
佐倉真桜「ありがとうございます」
北園夜留「えへへ・・・真桜、きっと負けちゃうよ」
佐倉真桜「それは、やってみるまで分かりません」
佐倉真桜「ああ、お嬢様、そろそろお召し物を替えましょう。授業に遅刻してしまいます」
北園夜留「はーい」
〇お嬢様学校
午前の授業を終えた夜留と真桜が中庭を歩いている。
お昼休みを過ごす生徒たちの賑やかなお喋りがガヤとなって響いていた。
佐倉真桜(上品に笑うこの少女たちが、夜には人を襲う狼になるとは、この光景からは想像もつきませんね)
佐倉真桜(今日に至るまで、この学園ではどれだけの少女とメイドが命を落としてきたのでしょうか)
佐倉真桜(血を吸って育った草木に囲まれ、今日も偽りの平和を演じながら過ごす私たちは一体──)
北園夜留「真桜、今日は外で食べない?」
夜留は、俯いていた真桜の顔を覗き込むようにして、つぶやいた。
北園夜留「・・・? 真桜?」
佐倉真桜「・・・お嬢様は、今日も素敵です」
北園夜留「え・・・ま、真桜、どうしたの」
佐倉真桜「申し訳ありません。変でしたか?」
北園夜留「う、うん、変。 真桜、そんなこと言わないよ」
佐倉真桜「いいえ、言います」
夜留が訝しげな表情で真桜を見つめる。
佐倉真桜「昼食は外で、ですね」
佐倉真桜「では食事を用意して参りますので、お待ちください」
北園夜留「・・・あ、夜留、購買行ってくる」
佐倉真桜「購買? 買い物なら私が行ってきます」
北園夜留「大丈夫、夜留が行く。すぐそこだから」
佐倉真桜「そうですか。 ではこの辺りのテラス席で合流しましょう」
北園夜留「うん、わかった」
〇お嬢様学校
北園夜留「真桜見て!」
夜留がチェス盤を両手で差し出した。
佐倉真桜「ああ、チェス盤を買ってきたのですね」
北園夜留「うんっ! 教えてあげる」
佐倉真桜「ふ、お手柔らかにお願いします」
北園夜留「わ、笑った・・・」
佐倉真桜「はい?」
北園夜留「お姉ちゃんの一件以来、真桜の笑顔、見てなかったから、びっくりした」
佐倉真桜「ああ・・・」
佐倉真桜「申し訳ありません。 ご心配をかけてしまっていましたね」
北園夜留「よかった・・・安心したぁ」
佐倉真桜「適度に笑うよう、心がけてまいります」
北園夜留「む、無理はしなくて、大丈夫」
佐倉真桜「かしこまりました。無理はしません」
北園夜留「うん! じゃあ、夜留は黒の駒」
佐倉真桜「では、私は白を動かすのですね」
善哉寺鏡日「あら? あらあら、従者とチェスをしていますの? 夜留さん」
通りかかった善哉寺達が夜留の前で立ち止まった。
真桜はゆっくりと瞼を閉じて、小さく息を吐く。
善哉寺鏡日「わたくしに声をかけてくださればよかったのに。いつでもお相手しますのよ?」
北園夜留「あ、あの・・・夜留は真桜と──」
佐倉真桜「お嬢様、そろそろ教室に戻りましょう。次の授業の予習を済ませておかなくてはなりません」
北園夜留「あ・・・う、うん」
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これからどんな展開になるのか楽しみです!どっちが勝つのか!(ドキドキ!)