第16話 水族館は誰のもの?(脚本)
〇水中トンネル
40年前
母「宗吾、いらっしゃい」
生島少年「お母さん、ここ何?」
母「ここは水族館よ。 世界のいろいろなお魚が見れるの」
生島少年「えー暗くてなんか怖いよ」
母「ほら、見て」
生島少年「え・・・」
母が指さす先を見上げると、ほの暗い水の奥から、巨大な魚が姿を現した。
それは、ゆったりと優雅に身を翻す。
生島少年「わあ・・・綺麗」
母「ふふ、そうね」
〇大水槽の前
小鳥遊遥「ふあぁぁぁぁ・・・ アノマロカリス、かっこいい・・・」
アクリルガラスに張りつくようにして、
小鳥遊は大水槽を見つめた。
その視線の先では大きなアノマロカリスが、ゆったりと泳いでいる。
生島宗吾「水に濁りは見られない・・・な。 ふむ、大水槽は落ち着いてきたか」
小鳥遊遥「ねえねえ、これからエサやりするんでしょ? 早く! 早く見せて!」
生島宗吾「わかったわかった」
服を引っ張る小鳥遊を押さえながら、
俺はポケットからトランシーバーを取り出した。
大水槽ホールの裏手、水槽の上で最近入ってきた飼育員が待機しているのだ。
生島宗吾「こちら生島。給餌準備はどうだ? どうぞ」
新人飼育員「ハイ! 準備完了ッス! どうぞ」
生島宗吾「いれてくれ、どうぞ」
新人飼育員「了解ッス」
ぽちゃん、と黄色い塊が水に投入された。
ただ水槽の中を泳いでいただけのアノマロカリスが、それに気づいて身を翻す。
エサに近づくと、二本の触腕を器用に使って掴み、口の前に運んだ。
堺ひろこ「へえ、あのエビみたいな腕は、 ああやって使うのね」
小鳥遊遥「ひろこサン!」
堺ひろこ「ひさしぶり、ふたりとも。水族館のシンボルになる生き物が再生できたって、 報告をもらったから来てみたの」
堺ひろこ「なかなか、 インパクトがあっていいじゃない」
小鳥遊遥「でしょー?」
堺ひろこ「エサは何を食べさせてるの? 見た目は黄色いゼリーみたいだったけど」
生島宗吾「近いですね。殻をむいたエビのすり身を、魚のゼラチンで固めたものです」
堺ひろこ「あらおいしそう」
小鳥遊遥「ちょっと薄味だけど、悪くないよ」
生島宗吾「ブロックが一個足りないと思ったら、 犯人はお前か!」
生島宗吾「エサを人間が食うな。 腹を壊しても知らんぞ」
小鳥遊遥「大丈夫だよーこれくらい!」
斎川理央「堺様、こちらにいらしたんですね。 荷物をお持ちしましたよ」
堺ひろこ「ご苦労様、研究室に運んでちょうだい」
生島宗吾「俺も手伝おう」
斎川理央「助かります!」
生島宗吾「よっと・・・結構重いな。 何が入ってるんだ?」
堺ひろこ「ふふ、イイものよ」
〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
堺ひろこ「まずはこれを見てちょうだい!」
堺は斎川に運ばせた箱の中から、
大きなポスターを取り出した。
躍動感あふれるアノマロカリスのイラストにPaleoriumと大きくロゴが入っている。
小鳥遊遥「すごい、かっこいい!」
斎川理央「さすが、堺様プロデュースですね! スタイリッシュですけど、適度に親しみやすくて、わくわくしてきます」
生島宗吾「これを駅前に貼ったら、 人目をひくだろうな」
堺ひろこ「これだけじゃないのよ。 グッズの試作品もたくさんあるの」
堺ひろこ「お菓子でしょ、文房具でしょ、 それからこっちが子供向けの食器。 アパレルのデザイン案もあるわよー」
斎川理央「デザイン違いの三葉虫マグカップがかわいい・・・思わず全部買っちゃいそうです」
堺ひろこ「そこが狙いよ」
小鳥遊遥「おもちゃはないの?」
堺ひろこ「フィギュアやぬいぐるみは、 今デザイナーに発注をかけているところよ」
斎川理央「あれは原型を作るのに時間がかかりますからねえ」
生島宗吾「プロデュースの準備は順調、ということか」
小鳥遊遥「飼育スタッフが増えて、生き物の飼育もスムーズになったし、いいことづくめだねー」
堺ひろこ「そんなわけないでしょ」
小鳥遊遥「えー?」
堺ひろこ「展示が地味、 っていう問題がひとつも解決してないわよ」
堺ひろこ「なんなの、あの殺風景な水槽は。アノマロカリス一匹しか入ってないじゃない」
小鳥遊遥「さっきはインパクトがあるって・・・」
堺ひろこ「一匹のデザインで見ればね。 大水槽全体で見たら寂しすぎるわ。 もっとたくさん入れられないの?」
生島宗吾「無理ですね」
堺ひろこ「理由を聞かせてもらえるかしら?」
生島宗吾「再生して初めてわかったのですが、 アノマロカリスは、 非常にナワバリ意識が強いんです」
生島宗吾「近くに他の個体がいれば、排除のため、 死ぬまで攻撃をしてしまうでしょう」
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