第15話 夢に触れる(脚本)
〇水族館・トンネル型水槽(魚なし)
生島宗吾「よい・・・せっと」
小鳥遊遥「お・・・重い~!」
斎川理央「こんにちはー・・・って、おふたりとも、何やってるんですか?」
生島宗吾「アノマロカリス用水槽の運搬だ」
斎川理央「え、水槽というよりはリヤカーっぽいですよ? 観賞には向かないように思いますが」
生島宗吾「これは移動用だ。研究室の生体3Dプリンタで再生したあと、 中に入れて大水槽まで運ぶ」
斎川理央「なるほど。 運ぶのをお手伝いしましょうか?」
生島宗吾「いや、女性に力仕事をさせるわけには」
斎川理央「手伝わせてくださいよ」
斎川理央「本来、こういう仕事は飼育補助スタッフと協力してやるべきでしょう」
斎川理央「それができないのは、 採用が遅れてしまった私の責任です」
生島宗吾「採用の件はトリトングループと競合していることが原因で、 あんたのせいじゃないと思うんだが」
斎川理央「いいえ、これはジョブコーディネーターの私の責任です!」
小鳥遊遥「なんでもいいから、 手伝ってもらおうよー。おーもーいー」
生島宗吾「小鳥遊、あんたはもう少し腕力をつけろ」
俺たち三人は協力して水槽を運ぶ。
研究室にたどり着くころには、
全員息があがっていた。
〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
小鳥遊遥「は~疲れた!」
小鳥遊遥「ねえ生島サン、実験は明日にしない?」
生島宗吾「却下だ。せっかく大水槽から海水を運んできたのに、二十四時間も放置していたら、水が悪くなる」
小鳥遊遥「それはわかってるんだけど、 データ確認にもう一日かけてもいいかなって思って・・・」
斎川理央「どうしたんですか、博士」
斎川理央「あなたが再生実験をためらうなんて・・・悪いものでも食べました?」
小鳥遊遥「食べてない。 ちょっと慎重になってるだけだよ!」
斎川理央「それは失礼しました。 ちょっと信じられないお言葉でしたので」
生島宗吾「前にも言っていただろう、今回の実験対象、アノマロカリスは再生が難しいと」
小鳥遊遥「難しい、じゃないよ! 超難しいの!」
斎川理央「はあ」
生島宗吾「DNAコードの作成はすんでいるから、 あとは生体3Dプリンタで書きだせばすむ話だと思うが」
小鳥遊遥「その書き出しが難しいんだってば」
小鳥遊遥「だって体長1メートルだよ?」
小鳥遊遥「今までの2センチとか10センチとかの、 ミニサイズの生き物とはケタが違うの!」
斎川理央「問題は、大きさなんですか」
小鳥遊遥「そう!」
小鳥遊遥「このマシンは、再生対象のDNAを持たせた幹細胞から各種体組織を培養し、 組み立てているんだ」
小鳥遊遥「ここで重要なのが、組み立てをする間、各細胞が生きていなければいけないってこと」
生島宗吾「生き物を作り出すのだから、 当然の条件だな」
小鳥遊遥「でもさ、想像してみてよ。安易に端からプリントして、心臓なんかの重要臓器を作るのが遅れたらどうなるか!」
生島宗吾「各部位の連携がうまくいかず・・・ 機能不全が起きる?」
小鳥遊遥「そーなんだよー」
小鳥遊遥「各臓器を生かしながら、体全部を組み立てるのは、時間との闘いなんだ」
生島宗吾「そこで大きさがネックになってくるわけか」
小鳥遊遥「今までの子たちは、小さかったから多少力業でもどうにかなったんだけどねー」
斎川理央「小さく再生しちゃダメなんですか? なにも、生まれたときから1メートルの巨体、ってわけじゃないんですよね」
小鳥遊遥「それも、解決策のひとつだと思うけど」
生島宗吾「今から幼体を育成していたら、 水族館のオープンに間に合わないだろう」
斎川理央「あー・・・」
小鳥遊遥「ひろこサンに、インパクトのある生き物を再生しろって言われてるしね。 できるかぎり大きくしたい」
生島宗吾「大きいということは、 それだけで強烈な個性だからな」
小鳥遊遥「3Dプリンタを最大限高速化して、 各細胞が生存できる最適な構成順序を設定」
小鳥遊遥「この条件で理論上再生可能なアノマロカリスの体長は・・・98センチ」
生島宗吾「悪くないサイズだ」
小鳥遊遥「でも、今までにない大きさでしょ? 何度計算してもちゃんと再生できるかどうか、確信が持てないんだよー」
斎川理央「本当にどうしたんですか、博士。 今までだったら、『理論上は完璧!』とか言って、実験してたでしょう」
生島宗吾「最近はそうも言えないようでな」
斎川理央「え?」
小鳥遊は子供のように口を膨らませて、
そっぽを向いた。
小鳥遊遥「だって・・・実験に失敗して、 死なせたらかわいそうじゃない」
斎川理央「・・・生島さん、私の頬をつねってくれますか。どうやら私は夢の中にいるようです」
生島宗吾「女性の頬をつねるのはセクハラになるからやらん。あと、そこの小鳥遊は現実だ」
斎川理央「人って、成長するんですねえ」
生島宗吾「それ自体は喜ばしいことだがな。 実験は進めなければ、水族館は完成しない」
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