#05 真紅の桜(脚本)
〇洋館の廊下
佐倉真桜「貴様っ! お嬢様に怪我をさせたな」
北園家のメイド「ご、ごめんなさい。 手を滑らせてしまって・・・」
北園朝咲「ま、真桜・・・?」
北園朝咲「大丈夫だよ。 指をちょっと切っただけだから!」
北園朝咲「ほら、ね?」
佐倉真桜「貴様も同じ痛みを味わえば、二度と間違えないだろう」
北園家のメイド「ひっ!」
北園朝咲「真桜っ!」
食事用の銀のナイフが握られている真桜の手を朝咲が掴んだ。
佐倉真桜「お嬢様?」
北園朝咲「私の部屋で待機してなさい。 お話があります」
佐倉真桜「このメイドの処分はいかがいたしますか」
北園朝咲「いいから! 行って!」
佐倉真桜「・・・承知いたしました」
〇豪華なベッドルーム
佐倉真桜「不覚でした。私がついていればお嬢様にお怪我などはさせなかったものを・・・」
北園朝咲「ねえ、真桜」
北園朝咲「私のことを心配してくれるのはうれしいけど、もう二度とあんなことはしないで」
佐倉真桜「何か、お気に召しませんでしたでしょうか」
北園朝咲「来たばかりで緊張しているのはわかるけど、他のメイドを脅すようなことはしないでほしいの」
佐倉真桜「ですが、お嬢様に危害を加えるような者を放置するわけには・・・」
北園朝咲「・・・・・・」
佐倉真桜「・・・お、お嬢様?」
朝咲は真面目な表情で、真桜の顔を覗き込んでいる。
佐倉真桜「も、申し訳ありません。もう二度と、あのようなことはいたしません」
北園朝咲「・・・よしっ、決めた! 真桜に罰を与えます!」
佐倉真桜「はい、どんなことでも受け入れます」
北園朝咲「言ったね〜? じゃあ、明日から笑顔の練習!」
北園朝咲「それと、しばらく私と一緒に普通に生活してもらいます!」
佐倉真桜「え、笑顔・・・? 普通の生活?」
北園朝咲「とりあえず、明日は一緒に買い物に行ってもらおうかなぁ。夜留も一緒にね!」
佐倉真桜「承知いたしました。 全力でお守りいたします」
北園朝咲「違うってば。真桜の服を見に行くんだよ?」
佐倉真桜「わ、私のですか?」
北園朝咲「うん。笑顔の練習が終わるまで、仕事はさせないからね」
〇寮の部屋(ポスター無し)
北園夜留「真桜」
佐倉真桜「・・・・・・」
北園夜留「ま〜お〜!」
佐倉真桜「・・・!?」
佐倉真桜「お嬢様、どうされました?」
北園夜留「ご飯、冷めちゃう」
佐倉真桜「そうでしたね。すぐに片付けます」
北園夜留「大丈夫?」
佐倉真桜「少々、昔のことを思い出していました」
北園夜留「・・・真桜、昔に戻ったみたい」
佐倉真桜「え?」
北園夜留「あ、ううん、違う。 さっき、ぼうっとしてた時の顔」
北園夜留「初めて会った時の真桜に戻ってた気がして・・・」
佐倉真桜「・・・そう、ですか」
〇華やかな裏庭
榊原葵「・・・・・・」
善哉寺鏡日「一週間ぶりですわね、葵。 一体何をしていたの?」
宮島莉子「善哉寺様、私からお話させていただきます」
榊原葵「ううん、大丈夫。自分で言うよ」
榊原葵「善哉寺さん、私、もう無理です」
善哉寺鏡日「はあ、このわたくしをこんな場所に呼び出しておいて、何を言うのかと思えば・・・」
善哉寺鏡日「いったい何が無理だとというの?」
榊原葵「殺されたくないんです!」
善哉寺鏡日「・・・はい?」
榊原葵「このまま善哉寺さんのそばにいたら、みんな殺されますっ!」
榊原葵「わかりますか!? みんなです! 善哉寺さんも、みんな!」
善哉寺鏡日「ああ、もういいですわ。黙りなさい」
榊原葵「あ・・・す、すみませ──」
善哉寺鏡日「怖い思いをしましたのね」
榊原葵「・・・メイドも合わせて四人、殺されました。私は、ひとりだけ、に、逃げたんです」
善哉寺鏡日「ええ」
榊原葵「死ぬことが怖いんです」
善哉寺鏡日「そのようですわね」
榊原葵「ぜ、善哉寺さんは怖くないのですか?」
善哉寺鏡日「考えたこともありません」
善哉寺鏡日「もう話は終わりですわね? では、ごきげんよう。もう二度と、お話することもないでしょう」
榊原葵「・・・はい。どうか、お元気で」
善哉寺鏡日「さようなら、葵」
〇華やかな裏庭
善哉寺鏡日「要」
林要「はい」
善哉寺鏡日「葵と莉子は用済みです。 適当な奴を使って殺しておきなさい」
林要「かしこまりました」
善哉寺鏡日「失敗したらどうなるか、しっかり見せつけてあげませんと、ね」
〇寮の部屋(ポスター無し)
佐倉真桜「お嬢様、もう一時です。 勉強も頑張り過ぎれば毒になります」
北園夜留「あ・・・うん」
佐倉真桜「足音・・・?」
北園夜留「え?」
佐倉真桜「あ、いえ。 さあもうお休みになってください」
北園夜留「真桜、まだ寝ないの?」
佐倉真桜「明日の準備を済ませたら、私も寝ますから」
北園夜留「わかった・・・おやすみ、真桜」
佐倉真桜「おやすみなさい、お嬢様」
〇寮の部屋(ポスター無し)
佐倉真桜(さきほどの不審な足音・・・)
真桜はドアの覗き穴から外の様子を伺った。
〇おしゃれな廊下
宮島莉子「葵様! こちらです!」
榊原葵「なんでっ・・・! なんで私を狙うの!?」
佐倉真桜(葵・・・!?)
宮島莉子「善哉寺は初めから許すつもりなんてなかったということです」
宮島莉子「三時まで隠れられる場所を探しましょう」
榊原葵「うえぇ・・・もうやだよぉ・・・」
葵達が走り去っていった後、善哉寺の取り巻き数名がその後を追うように走っていく。
しん、と静まり返った廊下に足を踏み出した真桜の左手には、日本刀が握られていた。
〇綺麗な図書館
榊原葵「莉子!」
宮島莉子「大丈夫です、ここにいます」
宮島莉子「葵様、お怪我はありませんか?」
榊原葵「う、うん、私は大丈夫・・・だけど」
宮島莉子「ああ・・・あまり見ない方がよろしいかと」
葵の視線の先には、制服の少女とそのメイドの死体が転がっている。
榊原葵「り、莉子って、慣れてるの?」
宮島莉子「慣れてる?」
榊原葵「その、人を殺すこと・・・」
宮島莉子「まさか。慣れてなどいません。 初めてですよ」
榊原葵「そう、だよね」
宮島莉子「葵様を守るためなら、誰でも殺してみせます」
榊原葵「ありがとう、莉子」
榊原葵「・・・私、人を殺したんだよね」
宮島莉子「いいえ、葵様は殺してなどいませ──」
榊原葵「同じだよ!」
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