特異地蔵譚

わらやま

フィボナッチ数列地蔵 オムニバス(脚本)

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〇古い畳部屋
おじいさん「ふぅー、引越しは大変じゃわい」
おじいさん「さて、昨日に引き続き、各種手続きをしに村役場に行くとするか」

〇山道
おじいさん「ん?」
おじいさん「おかしいな・・・。 この道は昨日も通ったが、こんな地蔵はなかったと思うのじゃが・・・。 まあ、見落としていただけかのう?」

〇山道
おじいさん「ぬ!?」
おじいさん「やはり一晩考えたが、初日はこの場所に地蔵はなかったはずだ。地蔵の新設などあるのか? 役場で聞いてみるか」

〇役所のオフィス
村役場職員「はい!これで、住民票登録は完了ですね!何度も足を運んでいただき恐縮です」
おじいさん「いやいや、どうということはない。それより聞きたいことがあるんじゃが・・・」
おじいさん「ワシの家と役場の間の山道に地蔵が昨日からあるんじゃが、あれはこの村で設置したのかのう?」
村役場職員「はぁ・・・。 いや、存じ上げないですねぇ」
村役場職員「可能性があるとしたら不法投棄ですかねぇ・・・? でも地蔵を不法投棄は流石にないか・・・」
おじいさん「うむぅ・・・。そうか。 村の物ではないか・・・」
おじいさん(では一体アレは誰が何のために・・・?)

〇山道
  翌日
おじいさん「な、なっ・・・!!」
おじいさん「地蔵が増えとる!? ど、どういうことじゃ!? しかもこの地蔵、見た目が全く同じじゃ!?」
おじいさん「誰かのイタズラにしては度が過ぎているぞ・・・」

〇山道
  さらに翌日
おじいさん「ぐ、ぐぅぅ・・・」
おじいさん「3体に増えとるのう・・・」
おじいさん(やはり3体とも見た目が全く同じじゃ。 これはイタズラなどではないぞ。 なんらかの超常現象じゃ!!)
おじいさん(明日も様子を見に来ねば)

〇古い畳部屋
おじいさん「この現象・・・。 もしかして・・・。 明日もし5体になっていたら、確定か・・・? 俄に信じがたいが・・・」

〇山道
おじいさん「!! やはりだ!! 5体に増えている!!」
おじいさん「これはフィボナッチ数列の増え方じゃ!!」
おじいさん「地蔵の数は・・・ 0、1、1、2、3、5 と推移しておる。 おそらくそうじゃ!!」
  フィボナッチ数列は、Fn+2 = Fn + Fn+1 (n ≥ 0)の漸化式で定義される数列です。
おじいさん「なんと奇怪な──。 さしずめフィボナッチ数列地蔵といったところか」
おじいさん「しかし、こんなものが近くにあると思うと気が気ではない・・・。 この地蔵・・・。奴に調べてもらうかの・・・」
  おじいさんはひとまず自宅の庭に地蔵を持ち帰りました。

〇平屋の一戸建て
  翌日、地蔵は8体に増えていました。
おじいさん「増え方がフィボナッチ数列準拠なのは間違いないのう・・・」
おじいさん「問題はいったいこれが何なのかじゃが・・・」
  おじいさんは、1体を車に乗せ、ある場所に向かいました。

〇研究開発室
研究員「いやぁ・・・。じいさんから地蔵を調べてほしいって言われた時はもうボケたのかと思いましたよ」
おじいさん「軽口は結構。して結果は?」
研究員「それがですねぇ。 何の変哲もないただの地蔵ですね」
おじいさん「ぬぬ、そうか」
研究員「一応解体もしてみましたが、中に何かあるわけでもないです」
おじいさん(うすうす予想はしとったが、地蔵自体は特殊なものではないんじゃな・・・)
研究員「強いて言うなら結構上質な石が使われてるので、買ったらいい値段するでしょうね」
研究員「これはアレですか?じいさんが買ったとかいう古民家にでもあったんですかい?」
おじいさん「ま、まあ、そんなとこじゃ。 今日は突然の依頼なのに引き受けてくれて助かったわい」

〇平屋の一戸建て
  翌日、地蔵は12体になっていました。
おじいさん「昨日研究所で壊した分は減っているのう・・・。とはいえこのままでは加速度的に増えるぞい」
おじいさん「場所もとるから早く全部破壊した方がいいかのう・・・ いや──待つんじゃ!!」
  その時、おじいさんの脳裏にあるひらめきが生まれました。
おじいさん「これはビジネスチャンスじゃ!! そのためには・・・」
  元商社マンの血が騒ぎました。

〇倉庫の裏
  3ヶ月後──。
運送屋「なあ、じいさん!! 今日の分はここにあるやつで全部でいいか?」
おじいさん「ああ!いつも助かるわい」
運送屋「じゃあまた2日後にくるぜ!」
おじいさん「よし!今日の分の出荷は終わりじゃ。一息つけるぞい」
  おじいさんはこの3ヶ月でとあるビジネスを始めて成功を収めました。
  それは地蔵を砕いて生成した石材を、素材屋に卸すビジネスでした。
  おじいさんは地蔵が一定の数量になる間にこの倉庫を購入し、削岩機械を導入。
  地蔵の解体と保管が行える環境を整備しました。
  また、商社マン時代のツテを活用して販売先を開拓、定期的に石材を卸す契約をとりつけました。
  フィボナッチ数列の特性と、解体した分はカウントされない特性を利用し、隔日で全て解体。
  安定した量の納品を隔日で行う生産システムを構築しました。
おじいさん「我ながらうまいビジネスを思いついたものじゃ。 これで今後の暮らしも安泰よ」

〇宿舎
運送屋「ほらよ。 今日の分の納品だ」
  おお!じいさんとこの運送屋!
  いつも悪いねぇ。
  こんな上質な石を安定供給してくれて助かるよ。
運送屋「そんなにこんな石っころが貴重なのか?」
  ああ!私も長いこと素材屋をやっているが、ここまで均一な品質の石材は珍しいよ。
  じいさんが住んでるあたりの採石場じゃ、こんな石は採掘できないはずなんだが・・・。あんたは何か知らないのか?
運送屋「俺はじいさんから渡された石を運ぶだけだからよ。何も知らねぇなぁ」
  そうか。まあ、ウチとしては相場より安価で上質な石が仕入れられるんだから、なんでもいいけどねぇ。じゃあまた2日後!よろしく
運送屋(そういや、あんまり気にしてなかったが妙に大きな倉庫があったな。言われると気になってきたぜ)
運送屋(今度早めに行って確かめてみるか)

〇倉庫の裏
  運送屋はいつもは夕方におじいさんを訪ねますが、この日は昼に到着しました。
運送屋「さてと、じいさんは・・・? いないな・・・。 好都合だ。ちょっと覗いてみるか・・・」
  運送屋は窓から倉庫に忍び込みました。

〇廃ビルのフロア
運送屋「な、なんだあ!こりゃあ!?」
  そこには倉庫いっぱいに敷き詰められた大量の地蔵がありました。
  加えて、その地蔵を解体するためであろう大型の削岩機械もありました。
運送屋「あのじいさん・・・。 どこからこんな大量の地蔵を・・・」
運送屋「これは・・・きっと・・・。 盗品だ・・・」
  地蔵が増えるところを見ていない運送屋は、地蔵がフィボナッチ数列準拠で増殖するという発想には当然至りません。
運送屋「俺は知らずに犯罪の片棒を担がされてたってことかよ!!」
  そこにおじいさんがやってきました。
おじいさん「さて、少し遅くなってしまった。 運送屋が来る前に削岩を終わらせねば!」
運送屋「おい!!じいさん!!」
おじいさん「な!?運送屋!! なんでこんな時間に!? いや、そもそもどうしてこの中に!?」
運送屋「これは一体どういうことなんだ!? なんだこの夥しい数の地蔵は!? あぁ!?事と次第によっちゃあ出るとこ出るぜ!!」
おじいさん(くっ、面倒なことになったのう)
おじいさん「あ、あえて言ってはなかったが、運んでもらっている石材は私が知り合いから譲り受けた地蔵を砕いたもので──」
運送屋「そんな適当な嘘が通じるかよっ!!」
運送屋「これはあんたがどっかから盗んだんだろ!?」
おじいさん(まずい・・・。 妙な勘違いをしているが、かといって本当の事は話せん。 クソ、致し方ない)
おじいさん「い、いくら欲しい・・・?」
運送屋「ほう、認めるのかよ」
運送屋「俺は知らずにあんたの犯罪行為を手伝わされたんだ」
運送屋「慰謝料と口止め料ってことで、 1000万円用意するんだったら、この事は黙っておいてやるよ」
おじいさん(1000万円だと・・・!? なんと強欲なやつよ。だが、このビジネスの内情がバレる方が面倒じゃ)
おじいさん「・・・わかった。 少し待っておけ」
運送屋「早く持ってこいよ」
  おじいさんは現金を用意するため家に戻ろうとしました。
  ですが、ある一つの考えが浮かびました。
おじいさん(今ここで1000万円を払ったところでこやつが人に話さないとは限らん)
おじいさん(それに今後も金を要求し続けてくるかもしれん)
おじいさん(そんなのはまっぴらごめんじゃ!!)
  おじいさんは覚悟を決めました。
おじいさん「ところで金を渡すにあたって一つ提案があるんじゃが」
運送屋「提案だぁ!?何の話だ!?」
おじいさん「お前さんにも重要なことだ。 それは──」
  話終わる前におじいさんは距離を詰め、隠し持っていた削岩ノミで運送屋に襲いかかりました。
運送屋「ぐ、ぐぁぁ!!何しやがる!?」
  おじいさんの一撃で運送屋は肩から出血しました。
おじいさん「お前に金は渡さん! 私の金も地蔵も私のもんだ!」
運送屋「目がイッちまってる!? やべぇ、殺される──!!」
運送屋「ハッ!!」
  追い詰められた運送屋はとっさにその場にあった地蔵をかかえあげ
運送屋「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
  思いっきり振りかぶりおじいさんの脳天を殴打しました。
おじいさん「ガハッ」
  おじいさんは倒れて動かなくなりました。
運送屋「ハァ、ハァ、やっちまった!! やっちまったぁぁぁ!!」
  運送屋は慌てふためき、その場から立ち去りました。
おじいさん「う、ううっ」
  おじいさんはかろうじて生きていました。
おじいさん「ハァ、ハァ、あい、つめ・・・ よ、よくも・・・」
おじいさん「ハァ、ハァ、だがそれより、 ま、まずい 今日の分の削岩、を、せねば、 地蔵が溢れ、て、しまう・・・」
  おじいさんは薄れゆく意識の中、必死に機械まで辿り着こうとしました。
おじいさん「ま、まずい・・・。 もう意識が・・・持た・・・な・・・・・・」
  おじいさんは気を失って倒れてしまいました。
  翌日
  大量の地蔵の下敷きになり圧死したおじいさんが発見されました。

〇大会議室
  おじいさんの怪死はあらゆる報道機関が大々的に報じました。
  謎の大量の地蔵に押しつぶされるという奇怪なニュースはワイドショーでも持ちきりでした。
  一方その頃・・・。
  内閣府直属
  特異地蔵対策課
  緊急会議にて
識者「やはり今回の事件の地蔵は、増殖型の特異地蔵で間違いないです」
識者「解体された石材を購入していた素材屋の証言も含めて判断すると、フィボナッチ数列地蔵でしょう」
阿僧祇防衛大臣「なんとか政府で確保出来ないだろうか。 国家防衛のための資材として活用したいのだが」
識者「無理・・・でしょうね。 大々的な報道もされていますし、衆目に晒されてしまっている」
識者「このタイミングで日本が大量の石材を使用すると、他国からは特異地蔵の活用とバレます」
識者「むしろ、今後の被害を心配した方がいいです。本日時点で推定1000体近くまで膨れ上がっていますからね」
阿僧祇防衛大臣「むぅぅ・・・。 では一体どのように?」
識者「簡単です。 今から2日間残存する地蔵を全て破壊するのです。フィボナッチ数列地蔵であれば、それで消滅します」
  かくして、この会議の決定により、自衛隊が派遣され、地蔵破壊作戦は敢行されました。
  幸い、おじいさんは全ての地蔵を倉庫で管理していたので、作戦は無事完了。
  地蔵が国土を埋めつくす最悪の危機は回避された────
  かのように思われました。

〇廃ビルのフロア
  3日前
運送屋「ハァ、ハァ」
運送屋「よく考えたら、じいさんの血痕と俺の指紋がついた地蔵を放置したらすぐ足がついちまう」
運送屋「この地蔵は誰にも見つからねぇ山奥に隠さねーと!!」

〇壁
  フィボナッチ数列は30項の時点で、
  その数は514229にものぼります。
  あの日から一ヶ月──。
  山を埋め尽くしたフィボナッチ数列地蔵は、人里に現れることとなるでしょう。
  ほら
  あなたの後ろにも・・・・・・

次のエピソード:モイスチャー地蔵 オムニバス

コメント

  • わああああ。

  • ついに読んでしまった、これが噂の地蔵!
    わたしも栗饅頭を想像したクチですが、地蔵は宇宙に飛ばせませんね、重すぎて😂

  • お地蔵さまーw なんと罰当たりなw
    でも砕かないと地球は地蔵の星になるのねwww

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