Paleorium~古生物水族館の飼育員~

芝原三恵子

第12話 ボクが生み出したモノ(脚本)

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芝原三恵子

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〇駅前広場
斎川理央「あれ、生島さん?」
生島宗吾「斎川さんか」
斎川理央「生島さんがお昼に駅前まで出てくるなんて、珍しいですね。 どこかのお店でランチですか?」
生島宗吾「いや、買い出しの帰りだ。 記録用ノートを切らしてしまってな」
生島宗吾「斎川さんは、水族館に行くところか?」
斎川理央「ええ。いつもの博士のご機嫌伺いです。 せっかくですから、一緒に行きましょう」
斎川理央「荷物、半分持ちましょうか?」
生島宗吾「いや、女性に荷物を持たせるわけには・・・」
  ゴオン! ゴオン! ゴオン!
  突然の轟音が会話を遮った。頭を揺らすような衝撃に、思わず顔をしかめる。
生島宗吾「な、何事だ・・・?」
斎川理央「あー、ビル工事の音ですよ」
斎川理央「駅をはさんで向かい側に、大きなショッピングモールができるそうなんです」
生島宗吾「そうか・・・気づかなかったな」
斎川理央「生島さんが駅前を通るのって、 朝早くか夜遅くですからね、 気づかないのも無理はありません」
生島宗吾「水族館の近所が賑やかになるのはいいことだな」
斎川理央「駅の反対側、 というのがちょっと惜しいですけどね」
生島宗吾「なかなか都合よくはいかないな」

〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
小鳥遊遥「すう・・・すう・・・」
斎川理央「博士―、起きてください」
生島宗吾「小鳥遊、寝るな!」
小鳥遊遥「うひゃあっ!」
小鳥遊遥「あ・・・あれ? 生島サン? 斎川サン?」
生島宗吾「まったく・・・留守番くらいできる、 というから任せてみれば、 ぐうすか居眠りとはな」
小鳥遊遥「あはは、 お弁当食べたら眠くなっちゃてさー」
小鳥遊遥「でも、仕事は片付けて観察ノートはつけておいたから!」
生島宗吾「それくらい当たり前だ」
斎川理央「生島さんが観察ノートをつけているのは知ってましたけど、 博士も記録するようになったんですね」
小鳥遊遥「見て見て、すごいでしょ」
斎川理央「うわあ・・・きちんと整理されてて、 見やすい・・・本当にこれ、 博士がご自分で書いたんですか?」
斎川理央「縦横無尽に書かれてて、博士以外に解読できないノートを作っていた方と同一人物とは思えないです」
小鳥遊遥「そこまで言うことなくない?」
生島宗吾「あんたは自分の適当さを自覚しろ」
斎川理央「このノートは、やっぱり生島さんの影響、ですよね?」
生島宗吾「ああ。専門だった体組織分析の研究ノートはともかく、 生物の観察記録は素人だったからな」
生島宗吾「これくらいは自分で・・・ん?」
斎川理央「どうされました?」
小鳥遊遥「記録はおかしくないよね?」
生島宗吾「いや、そこは大丈夫なんだが、俺が出ている間に、三葉虫の脱皮が始まったと書いてあるんだが」
小鳥遊遥「あ、そうだった! ごめん、言うのを忘れてた」
生島宗吾「脱皮の様子を記録すると言っていただろう。ビデオはセットしたのか?」
小鳥遊遥「それはやった。でも、思ったより時間がかかるみたいだったから、 先にごはんを食べて・・・」
斎川理央「寝ちゃってたんですね」
生島宗吾「・・・・・・」
小鳥遊遥「もうそろそろ終わってるはずだよ、 見てみよう! ねっ」

〇古生物の研究室
斎川理央「はいはい。 確かこっちでしたよね・・・あれ?」
生島宗吾「まだ終わってなかったみたいだな」
  三葉虫は古くなった殻の中から三分の一ほど顔をのぞかせていた。
小鳥遊遥「おっかしいなあ」
生島宗吾「どうした」
小鳥遊遥「ボクが食事をとり始めた時から、 状況が変わってないや」
生島宗吾「それは、何分前だ?」
小鳥遊遥「えっと・・・かれこれ、一時間くらい?」
生島宗吾「まずいな」
  ぴり、と俺と小鳥遊に緊張が走る。
斎川理央「ふたりとも、どうしちゃったんですか? 脱皮してるだけ、ですよね?」
生島宗吾「時間がかかりすぎている。脱皮の途中で何か問題があったのかもしれない」
斎川理央「え、そんなことあるんですか?」
生島宗吾「表皮を丸ごと脱ぎ捨てるんだ、 トラブルは起きて当然だ」
小鳥遊遥「・・・・・・」
生島宗吾「実際、 脱皮に失敗する節足動物は少なくない」
生島宗吾「もともとの個体数が多いから、 あまり目立たないがな」
小鳥遊遥「・・・生島サン、 このままだとイチローはどうなる?」
生島宗吾「死ぬ」
小鳥遊遥「・・・ウソでしょ?」
生島宗吾「こんな風に殻をつけたままでは身動きがとれないだろう」
生島宗吾「殻から這い出す体力がなくなった時点で、死ぬ」
小鳥遊遥「やだ! やだよ!」
小鳥遊遥「ボクのイチローが死ぬなんてやだ!」
小鳥遊遥「生島サン、どうにか助けられないの?」
生島宗吾「すぐに同じ個体を再生できるから、 死なせてもいいんじゃなかったのか?」
小鳥遊遥「そんなわけないでしょー! 生島サンのバカ―!」
生島宗吾「・・・・・・」
生島宗吾(自分が言ったセリフだろうに)
斎川理央「あの、 それで助ける方法ってあるんですか?」
生島宗吾「ないわけじゃない」
小鳥遊遥「ホント?」
生島宗吾「三葉虫は今、 体のどこかが殻にひっかかっている状態だ」
生島宗吾「それを人間の手で物理的に取り除いてやれば助かるかもしれない」
小鳥遊遥「わかった、やろう! すぐやろう!」
生島宗吾「待て」

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