#02 灯りのない夜(脚本)
〇黒
お姉ちゃんは口癖のように『髪を切りなさい』と言う人だった
〇豪華な客間
北園朝咲「夜留、髪切った方がいいよ。 可愛い顔が隠れちゃうもん。ねえ、真桜?」
佐倉真桜「そう、ですね。夜留お嬢様がよければお切りになってもいいかと思います」
北園夜留「・・・夜留は、このままがいい。 目立ちたくない、から」
〇葬儀場
北園夜留「うえぇ・・・ひぐっ・・・」
佐倉真桜「・・・・・・」
葬儀客「階段から落ちたんですって」
葬儀客「新しい学校に行ったばかりだったんでしょう? 可哀想に・・・」
佐倉真桜(階段から落ちた、か)
佐倉真桜(ふざけるな。 どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ)
葬儀客「すごく優秀な娘さんで、将来が楽しみだったそうよ」
佐倉真桜(殺す)
葬儀客「優しくて、友達も多かったのに」
佐倉真桜(殺してやる)
北園夜留「真桜・・・真桜」
夜留の呼び掛けに気付き、真桜は我に返る。
佐倉真桜「夜留お嬢様。申し訳ありません。 考え事をしておりました」
北園夜留「真桜、ここにいて。どこにも行かないで」
佐倉真桜「はい、ここにおります。 もう、どこにも行きません」
北園夜留「・・・・・・」
佐倉真桜「夜留お嬢様。 後ほど、お話をさせてください」
北園夜留「・・・うん」
〇小さい会議室
佐倉真桜「申し訳ありません。 私が朝咲お嬢様を守れなかったばかりに」
北園夜留「・・・真桜は、悪くない」
佐倉真桜「いえ・・・」
佐倉真桜「夜留お嬢様、聞いてください」
佐倉真桜「朝咲お嬢様は、北園家のために峰ヶ丘学園の頂上を目指しておりました」
北園夜留「・・・うん」
佐倉真桜「夜留お嬢様、その・・・」
北園夜留「真桜・・・? なに?」
佐倉真桜「・・・・・・」
北園夜留「言って。私なら、大丈夫・・・だから」
佐倉真桜「恐縮ながら、朝咲お嬢様の跡を継いでいただきたいのです」
北園夜留「え・・・」
佐倉真桜「このまま終わってしまっては、朝咲お嬢様の想いが、無駄になってしまいます」
北園夜留「そう、だけど」
佐倉真桜「私ごときが差し出がましいことを言っているのは承知の上です」
北園夜留「でも・・・夜留、できない」
佐倉真桜「いいえ! 貴女にしかできないのです」
北園夜留「え・・・う・・・夜留、お姉ちゃんみたいに・・・できない」
佐倉真桜「夜留お嬢様、どうかお願いです。私は、あの人の死を無駄にしたくありません!」
立ち上がって大声を出す真桜。
夜留が声を上げて泣き出した。
北園夜留「ふぇ・・・えぐっ・・・」
佐倉真桜(私はなんてことを・・・)
佐倉真桜「も、申し訳ございません。 夜留お嬢様・・・お許しください」
佐倉真桜「先ほど言ったことはどうか、どうか忘れてください」
〇火葬場
善哉寺鏡日「あの、北園朝咲さんのご葬儀はここでよろしいのでしょうか」
北園夜留「へうっ!? う・・・」
善哉寺鏡日「・・・?」
北園夜留「え・・・えと、そう・・・です」
榊原葵「何この娘、善哉寺様が話しかけてるのに、失礼が過ぎるんじゃないの?」
榊原葵「はっきり案内してくれる?」
北園夜留「えう・・・あ」
善哉寺鏡日「みなさん、問題ありませんわ。 こういった場ですもの、無理もありません」
善哉寺鏡日「あら?」
善哉寺鏡日「貴女、朝咲さんの妹さんですわね? 前髪のせいで、顔はよく見えないけど、そうでしょう?」
北園夜留「え・・・あ・・・は、はい」
善哉寺鏡日「このたびはご愁傷様でした」
榊原葵「あ〜、北園家のは双子だったんだっけ」
榊原葵「確か妹のほうは表に全然出てなかったと思うけど、引きこもりだったってわけかぁ」
北園夜留「あ・・・」
善哉寺鏡日「緊張してますのね、それはそうと、あのメイドさんはどちらに?」
善哉寺鏡日「わたくしたち、彼女とも友人なの」
北園夜留「え、えっと・・・式の準備中で。 裏、です・・・」
善哉寺鏡日「ふうん、そう。主が階段から落ちて傷心中でしょうから、慰めてあげようと思いましたのに」
善哉寺鏡日「朝咲さん、愛想だけはよかったから、大勢が来ているものかと思いましたが、そうでもないようですわね」
榊原葵「ほんとですよね、善哉寺様の怪我を利用して良い子ちゃんアピールしていたから、てっきり媚びを売るのが大得意だと思ったのに」
北園夜留「・・・・・・」
善哉寺鏡日「まあ、メイドも大事な時に主の側にいなかったぐらいですし、北園家の品格はこの程度ということでしょう」
北園夜留「あう・・・」
善哉寺鏡日「あらあら、姉の友人と会話もできませんの?」
善哉寺鏡日「残念でしかたありません。北園家とはいい関係を築けると思ったのですが・・・残されたご令嬢がこれでは、困りましたわね」
榊原葵「これじゃあ朝咲さんも浮かばれないだろうなぁ」
北園夜留「お姉ちゃんと、真桜・・・馬鹿にしないで!」
善哉寺鏡日「なんですの? 声が小さくて聞こえませんわ」
北園夜留「う・・・」
善哉寺鏡日「ふふ、貴女はお姉さんのような愚か者でないこと祈りますわ。それでは、ご機嫌よう」
北園夜留「お姉ちゃん・・・真桜・・・」
〇豪華なベッドルーム
佐倉真桜「お嬢様、お食事を持ってまいりました」
北園夜留「ありがとう・・・」
佐倉真桜「その、大丈夫ですか」
北園夜留「うん・・・大丈夫」
佐倉真桜「お嬢様! この間のことですが・・・」
北園夜留「ま、待って・・・い、言わないで」
佐倉真桜「え?」
北園夜留「真桜・・・私、決めたよ」
佐倉真桜「何を、でしょうか」
北園夜留「お姉ちゃん、『可愛い顔がよく見えないから、髪は切りなさい』って、いつも言ってた」
佐倉真桜「そう、でしたね」
夜留がハサミを取り上げ、伸びきった髪をバッサリと切り落としていく。
佐倉真桜「お、お嬢様!? 何を──」
朝咲と瓜二つの少女がそこに現れた。
佐倉真桜「あ・・・」
北園夜留「同じ顔なのに・・・夜留のことばっかり、か、可愛い・・・って言ってた」
北園夜留「お姉ちゃん、なんでも出来たのに・・・夜留、何もない」
佐倉真桜「そんなこと──」
北園夜留「ずっと、甘えてた・・・」
北園夜留「なんで、こんなに違うんだろうって思ってた」
北園夜留「夜留も・・・お姉ちゃんみたいに、なりたい」
北園夜留「でも・・・いままで、努力しなかった」
北園夜留「お姉ちゃんの・・・後ろに隠れて、ずっと、甘えてた」
北園夜留「真桜・・・私、がんばる。 夜留がお姉ちゃんの代わり、頑張るから」
北園夜留「学校で、一番になるから!」
佐倉真桜「お嬢様・・・」
佐倉真桜「私が夜留お嬢様を必ず守ります。 何があっても」
〇本棚のある部屋
佐倉真桜(まさか、北園家に仕えてから、これを振るう日が来るとは)
佐倉真桜「善哉寺、後悔させてやる」
真桜はそう言って、タンスから一振りの日本刀を取り出し、銀の刀身を眺めた。
まだ二話目ですがたまらなく面白いです!ファンになってしまいました。(笑)続きも楽しみにしながら読んでいこうと思います!駆け出しの下っ端のコメント、失礼致しました。応援します!