読切(脚本)
〇墓石
ヒロイン((急募!人と幽霊を見分ける方法!!))
イケメンお兄さん「どうしました?」
ヒロイン「いえ、なんでも!」
ヒロイン(この麗しのお兄さんは、一体どっちなの!?)
〇ファンシーな部屋
ヒロイン(初めて姿を見かけてから今日で三日目)
ヒロイン(気になる相手に声をかける決心がつく頃合いではある)
ヒロイン「まぁ、普通ならね・・・」
ヒロイン(けれども彼の方がいらっしゃるのは墓地)
ヒロイン(どの墓石からも離れたところにいるけれど、祈るように両手を組んで、朝早くから夜遅くまでずっとそのまま)
ヒロイン(他にも人がいるのに、誰も近付かない)
ヒロイン「場所と行動を見れば、当たり前なのかも・・・」
ヒロイン(もしくは、誰にも見えていないのか)
ヒロイン(だとしても、今日の予報は雨・・・)
ヒロイン「まぁ、幽霊だったら逃げればいいよね!」
ヒロイン(シンプルな作戦が一番! 傘を持って早速向かおう!)
〇墓石
イケメンお兄さん「すみません。 私の行動でご心配をおかけしてしまったようですね」
ヒロイン「こちらこそ、傘をお渡しするためとはいえ、押しかけてしまってすみません・・・!」
イケメンお兄さん「とんでもない。あなたの優しさに救われました」
ヒロイン(柔らかく笑うのが似合う人だなぁ)
ヒロイン「そう、ですか?なら良かったです」
ヒロイン(けどやっぱり、どこか陰りを感じる)
ヒロイン「雨が降れば体も冷えますし、今日は早めにお帰りになったほうがいいかもしれませんね・・・」
ヒロイン(カマをかける、というほどでもないけど・・・)
ヒロイン「お家は近いんですか?」
イケメンお兄さん「家は、ちょっと遠いんです」
ヒロイン「では車で?」
イケメンお兄さん「いえ」
ヒロイン「それならやっぱり、今日だけでも少し早めにお帰りになりませんか?」
イケメンお兄さん「・・・」
ヒロイン(黙ってしまった!うざかったかな!?)
ヒロイン(生きている人だったら、邪魔をしてしまっただろうし)
ヒロイン(幽霊なら、帰る場所はないから帰れない、とか・・・?)
イケメンお兄さん「・・・帰ることができないんです」
ヒロイン「そっちか〜・・・」
イケメンお兄さん「そっち?」
ヒロイン「あ、いや、違くて! うーんと、私、車は持ってないので、タクシーとか呼びます? 番号分かりますよ!」
ヒロイン(口が滑った〜〜!!)
イケメンお兄さん「タクシーが何なのかは分かりませんが、どのみち私は、帰りたくても帰れないんです」
ヒロイン「そっ、あっ、そうなんですか・・・?」
ヒロイン(どうするのが正解!? 逃げるか!?逃げちゃおうか!? イケメンだけど!!)
ヒロイン(──いやまて、タクシー知らないって? 外国人なら、あり得る・・・?)
イケメンお兄さん「帰る方法がないんです。 とても遠いところから来てしまいまして。 どうやら、魔法でもない限りはダメみたいです」
ヒロイン(?)
ヒロイン「魔法ですか?」
イケメンお兄さん「はい」
ヒロイン(?)
イケメンお兄さん「歩いても、走っても、飛んでもたどり着けない世界から来たんです」
ヒロイン(???)
ヒロイン(・・・急募! 異邦人とイマジナリーワールド野郎を見分ける方法!!)
イケメンお兄さん「あはは!そんなに固まらないで」
ヒロイン「いやぁ・・・はは・・・」
イケメンお兄さん「嘘ではありませんが、困らせるわけにもいきませんね。 忘れてください」
イケメンお兄さん「ここにも、もう来ません。 そろそろ、自力で窓を作る方法を試さなければ・・・」
ヒロイン「窓?」
イケメンお兄さん「なんでもありませんよ」
ヒロイン「あの、窓なら!私、作れます!」
イケメンお兄さん「・・・え?」
〇ファンシーな部屋
ヒロイン「──さて、やるだけやってみましょうか!」
イケメンお兄さん「本当に、できるでしょうか」
ヒロイン「ここまで来たら、腹をくくるしかない! そんな言葉が日本にはあるんですよ」
イケメンお兄さん「・・・たしかに。その言葉のとおりですね」
イケメンお兄さん「やはり、この出会いは奇跡です。 改めまして、心よりお礼を申し上げます」
ヒロイン「頭を上げてください! 私にとっては、王子様に頭を下げられるほどのことではありませんので!」
ヒロイン(そう、儚げな爽やかイケメンの正体はなんと、別の世界から来た王子様であった・・・)
ヒロイン(幽霊だとかイマジナリー野郎だとか、失礼にも程があったな・・・!)
イケメンお兄さん「王族だからこそ、礼儀や人としてあるべき姿を重んじるべきだと胸に刻んでいるのです」
イケメンお兄さん「王族のみが使える魔法の力が諍いの種となったとき、玉座を継ぐ妹が自らではなく私をここに逃したことには意味があったはずです」
イケメンお兄さん「その真意を知るため、民の命を守るためにも、私は一刻も早く帰らなければならなかった」
イケメンお兄さん「ですが、この力は有限です」
イケメンお兄さん「ここが元いた場所とは別の世界であると分かったとき、どの程度の魔法で帰ることができるのか、確証もないままには動けなかった」
イケメンお兄さん「あの墓地で、失われてしまったかもしれない命に祈りを捧げることしかできませんでした」
イケメンお兄さん「だからどうか、私の感謝を、心を、受け取ってください」
王子様は跪き、私の手を取り指先にキスをした──
ヒロイン「王子様!?」
イケメンお兄さん「ふふ、また固まってしまいましたね」
ヒロイン「もう! 感謝は成功してからにしてください!」
イケメンお兄さん「ええ、そのときにはもう一度」
イケメンお兄さん「では、このまま始めさせていただきます」
私達は手を取り合い、王子様は国の風景を思い浮かべた──
ヒロイン(魔法の力で私に流れ込む情景からは 風や空気の匂いを感じる)
ヒロイン「では、やってみます」
ヒロイン(いつからか私は、頭で浮かべた先に繋がる窓を開くことができた)
ヒロイン(誰にも言ったことはないから、他人の記憶で窓を開くのは初めてだ)
ヒロイン(それでも、やらなきゃ!)
ヒロイン(!)
ヒロイン(手の震えがバレたのか、ぎゅっと強く握られた・・・)
ヒロイン(好きになっちゃっても、責任取ってくれないくせに・・・)
ヒロイン(でもおかげで、いつもみたいに窓の形を縁取る余裕ができた)
ヒロイン(キスをするスキなんてあげませんよ)
ヒロイン(手を離して、そっと背中を押そう)
ヒロイン「さぁ、いってらっしゃい、王子様!」
ヒロイン(王子様の背中が、窓の向こうに消えてしまった・・・)
ヒロイン「・・・急募。王子様に出会える方法」
──窓も、ひとりごとも、跡形もなく消えていった。
ヒロインさんの特殊能力で、無事にイケメンさんは助かりましたが、帰ってしまう事に対する寂しさがありました。どこかでまた二人が出会えたらいいなと思います!素敵な物語ありがとうございました!
窓を作って異世界に送ることができる彼女の特殊能力は凄い。彼を助けることができて本当に良かった。イケメン王子様とまた逢えるといいな。
イケメンさんが墓地にずっと一人でいたら、そりゃあ正体が気になりますよね!
ヒロインさんの一般人としてのツッコミ風疑問がテンポよく楽しんでいたところ、まさかのカミングアウトに驚きです。