作家先生の不器用な愛情表現(アプローチ)

配線がらり

作家先生の不器用な愛情表現(アプローチ)(脚本)

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〇桜並木
あなた(はあっ、はあっ、 一体どこに逃げたの・・・?)
あなた(あっ、いた!)
あなた「先生!小野寺先生ー!」
小野寺恭介「おや、貴女ですか。こんにちは。 今日はどうされたんですか?」
あなた「いやいや、今日伺いますって伝えてましたよね!?どうなんですか、原稿の進捗は!?」
小野寺恭介「・・・」
小野寺恭介「そんなことより見てください。 見事な桜ですね」
あなた「あからさまに話を逸らさないでください!」
あなた「どうするんですか、もう締切4日も過ぎてますよ!」
小野寺恭介「なんだ、まだ4日でしたか。 焦って逃げ出す必要なかったな」
あなた「“まだ”じゃないっ! そしてやっぱり逃げてたんですね!」
小野寺恭介「ははは。貴女は元気がいいですねえ」
あなた「もうっ!いいから帰りますよ!」

〇空
  ミステリー小説界の売れっ子作家・小野寺恭介先生の担当についたのは、半年ほど前のこと。
  私自身小野寺先生のファンだったこともあり、最初は担当になれたことを純粋に喜んでいた。
  でもその喜びは、ものの1ヶ月で脆くも崩れ去った。
あなた(まさか先生が、こんなに締切を守れない人だったとは・・・)
  締切間際になると決まって逃げ出す小野寺先生と、追いかける私。
  担当になってからというもの、振り回されっぱなしの毎日だった。

〇古風な和室(小物無し)
  小野寺の仕事部屋
あなた「さあ、観念してください。 私はここで見張っていますから」
小野寺恭介「嫌だなあ。僕、人の目があると集中できないんですよねえ」
あなた「もうっそんな文句言ってないで・・・」
あなた「すみません!電話が・・・」
小野寺恭介「ああ、丁度よかった。 どうぞご対応ください」
小野寺恭介「じっと見張られているより、余程進めやすいですから」
あなた「で、では失礼して・・・」
  ピッ
加藤「『もしもし、加藤ですけどぉっ!』」
加藤「『もう俺ダメですぅ! 先の展開全然思い浮かばなくって!』」
  大きく取り乱している電話先の人──加藤先生は、先月うちの出版社に持ち込みで来てくれた新人作家だ。
  その作品に光るものを感じた私は、彼の面倒を見ることになったのだけど・・・
加藤「『もうおしまいだぁ!やっぱ俺作家向いてないんだぁ!』」
あなた(こっちはこっちで、問題児なんだよな・・・)
加藤「『君ももう呆れてますよね?ううっつらい、担当編集にも見限られた・・・』」
あなた「落ち着いてください、見限ってませんよ!私は加藤先生の才能に惚れたんですから!」
小野寺恭介「!!」
加藤「ほ、本当に?」
あなた「本当です!先生なら絶対面白い作品作れますから、一緒に頑張りましょう!」
加藤「『あ、ありがとう。俺、期待に応えられるようもうちょっと頑張ってみるよ!』」
  ピッ
あなた(はぁ、何とか持ち直せたみたい・・・)
小野寺恭介「・・・」
あなた「あっごめんなさい!うるさかったですよね!」
小野寺恭介「妬けますね」
あなた「え?」
小野寺恭介「加藤先生。貴女を惚れさせるなんて、大したものだ」
あなた「あ、あはは。聞こえてましたか。お恥ずかしい・・・」
小野寺恭介「・・・これは、遊んでる場合ではないな」
あなた「はい?」
小野寺恭介「急で申し訳ないのですが、貴女にひとつお願いがあります」
あなた「は、はい」
  真剣な表情に、どんな願い事が飛び出してくるのかと身を固くする。
  が──
小野寺恭介「この原稿が上がったら、一緒に食事に行きませんか?」
あなた「・・・食事、ですか?」
  続いた言葉に、拍子抜けした。
小野寺恭介「ええ。ご褒美があれば、仕事も頑張れますし」
あなた(まあ小野寺先生相手なら、 経費も問題なく落ちるよね・・・)
小野寺恭介「あ、もちろん僕の奢りですので」
あなた「えっ。 それじゃあご褒美にならないんじゃ・・・?」
小野寺恭介「そんなことありませんよ。貴女との食事は、僕にとってそれだけ価値がある」
  ──それって。
あなた(って、何期待してるの! 相手は小野寺先生だよ!? そういう意味じゃないって!)
  でも、それではどういう意味で?
  考えがまとまらない私を見透かしたように、小野寺先生はフッと微笑んだ。
小野寺恭介「貴女の推理で概ね合っていますよ。それでも確信が持てないというなら・・・」
あなた「なんです、これ?」
小野寺恭介「前担当とのメールでのやりとりの一部です。目を通してみてください」
あなた「はあ・・・」
  言われた通りに目を通すと、そこには衝撃の事実が書かれていた。
  『原稿のご送付、ありがとうございます!』
  『小野寺先生にはいつも締切を守っていただいて、大変助かってます』
あなた「え、ええ!?」
  小野寺先生が、締切を“いつも”守っている!?
小野寺恭介「はは、良い反応ですね」
あなた「なんですかこれ、今と全然ちがうじゃないですか!」
あなた「どうしてこうなっちゃったんですか!?」
小野寺恭介「わかりませんか?」
小野寺恭介「そうまでしても、構ってもらいたかったんですよ。今の担当さんに」
あなた「っ・・・!」
小野寺恭介「本当はもっとこの時間を楽しんでいたかったのですが・・・」
小野寺恭介「遠回りしてるうちに横から掻っ攫われてしまったら、元も子もありませんからね」
小野寺恭介「ここからは、可及的速やかに進めます」
小野寺恭介「・・・というわけで。お願い、聞いていただけますか?」
あなた「・・・」
あなた(えーと、一旦整理しよう。 先生は実は今まで締切を破ったことがない人で、破るようになったのはここ最近・・・)
あなた(何で破るかといったら担当に構ってもらいたかったからで、その担当というのが・・・)
  私?
  見えてきた真実に、顔の熱が上がっていくのを感じる。
小野寺恭介「いかがでしょう?」
あなた「・・・えっと」
あなた「・・・わ、私なんかでよければ、喜んで・・・」
小野寺恭介「よかった。それではその日に恥じぬよう、 精一杯務めなければね」
  向けられた笑顔に、心臓が大きく跳ねる。

〇桜並木
  食事の日には、精一杯のおしゃれをしていこう──
  そう心に誓った私だった。

コメント

  • 面白い!テンポが良く、意外な展開もありつつ、しっかりキュンとするお話でした😆
    小野寺先生の口調がいいですね、しっかり声優さんの声で脳内再生されました
    エセ文豪っぽさ、わかります 笑

  • 小野寺先生かわいいです😆
    こんなアプローチをされたらドキドキしちゃいますよね。
    作家先生×担当者はロマンです。
    乙女ゲームをやってる気持ちで楽しく読ませて頂きました。

  • まさかの構ってちゃんでしたか!言葉遣いと雰囲気からのギャップにやられてしまいました。
    恋に心踊らせる、ヒロインの〆の言葉が可愛かったです。この後の食事ではどうなったのかなぁ、なんてニマニマしながら妄想が捗ってしまいました。
    ごちそうさまでした~

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