異世界バックパッカー

月暈シボ

エピソード14(脚本)

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〇巨大な城門
ルシア「ふう・・・なんとか朝までに辿り着けたな! ここも私に任せてくれ!!」
成崎ユキオ「はあ、はあ・・・わ、わかりました」
  早朝の陽ざしの中、門の前に出来た順番待ちの列に並ぶと、ルシアは改めてとばかりにユキオに言い聞かせる。
  当然ながら彼に異存はなく、喘ぐ呼吸を落ち着かせながら承諾する。
  黒龍ブラムカから宝回収の依頼を受けた二人は、その後、雨上りで泥濘となった街道を夜間もひたすら歩き続け、
  当初の予定を一日ほど繰り上げてゴルドア街道に合流し、ナルーンと呼ばれる宿場街に辿り着いたのだった。
  ドラゴンによればこの街に彼の宝が待ちこまれているらしい。
  本来ならこのナルーンは通過地点でなかったが、
  事情が事情であるのでルシアはローゼルへ向かう旅を一時的に延期して、ブラムカの依頼を最優先課題としていた。
  当然ながらユキオもこれを了承し、協力を申し出ている。
  もっとも、彼に出来たのはルシアに置いて行かれずに、その後をひたすら追うだけだった。
  キャンプに備えて身体をそれなりに鍛えているユキオにとっても、夜通しの強行軍はかなりの無理である。
  呼吸器系だけでなく、腰を始めとする身体全体が悲鳴を上げていた。
  履いているトレッキングシューズも泥だらけになっていたが、
  蒸気を逃がす防水生地のおかげで中の足はなんとか靴擦れやマメを作らずに済んでいる。
  これが普通のスニーカーだったら、今頃は悲惨なことになっていただろう。
  山登りやキャンプでは『寝具と雨具、そして靴は妥協するな!』と言われているが、
  ユキオは奇しくもそれを異世界で再確認することになった。

〇巨大な城門
  ルシアがここまでしてナルーンへの到着を急いだのは、依頼主のドラゴンが宝回収の期限を三日後としたからである。
  これを過ぎたらブラムカは自力で宝を取り戻すとユキオ達に告げていた。
  つまり、ユキオ達が三日以内に依頼を達成できない場合、ドラゴンがこのナルーンにやって来るのである。
  ブラムカからすれば、自身の権利を護る行為に過ぎないが、
  街の住人にとってはとんでもない怪物の襲撃を意味している。無理する理由には充分と言えた。
  そんなドラゴンの襲来まであと三日を切ったナルーンの街は、皮肉にも人の営みで活気に満ちていた。
  街全体を取り囲む壁は、堅牢な石造りで高さは人の背丈の三倍はあり、手入れも行き届いている。街が繁栄している証拠だ。
  そして早朝にもかかわらず、出入口である門には街に入るため人々の長蛇の列が出来ていた。
  ルシアの説明によるとこの世界の街、少なくてもアレンディア王国に所属する、ある一定規模の街は、
  外敵への備えにより周囲を外壁で覆い、夜間は門を閉ざしているとのことだった。
  そして夜明けと共に門が開かれ、近隣の農村や行商人達が自身の商品を売りに街へやってくるらしい。
  ユキオ達はそんな人々が通行税を払う列に並んでいるのだ。

〇巨大な城門
成崎ユキオ「早く、街の危機を報せなくて良いのですか?」
  余計な口出しをするなと釘を刺されているユキオだが、前に並ぶルシアにそっと問い掛ける。
  列は順調に消化して行っているが、夜通し歩いてまで急いだ街への到着である。待ち時間の数分も惜しいと思ったのだ。
ルシア「・・・ああ。ユキオ、君の世界はどうだか知らないが、この世界の人間・・・」
ルシア「特にこの街の者はそう簡単に信用してはならないんだ。・・・残念なことに下位の兵士は賄賂で簡単に買収出来る」
ルシア「ここで私が身分を名乗って、この街の太守に報せたいことがあるとでも門番に告げたりしたら、」
ルシア「そこからドラゴンの宝を盗んだ賊に私達の存在が漏れる可能性がある」
ルシア「街から逃げられると更に厄介なことになるからな・・・下手なことは出来ない!」
  ユキオの疑問にルシアは耳元で囁くように答える。
成崎ユキオ「な、なるほど・・・そんなことが・・・余計なことを、すいません」
  日本でも稀に汚職警官という単語をニュースで聞くことがある。法整備された現代の日本でさえ、そんな輩が存在するのである。
  ドラゴンが空を舞い、人里からそれほど遠くない土地にさえ、オーガーのような怪物が跋扈するこの世界では、
  法の支配を完遂するのは不可能なのだろう。
  ユキオはルシアが災厄の事態に基づいて行動していることに感心すると共に、自分の浅慮を反省した。
ルシア「いや・・・かまわん。これからも疑問に感じたのならば、素直に聞いてくれ!」
  詫びるユキオにルシアは笑みで答える。
  彼女としてもユキオの質問はもっともであり、むしろ自分の判断を客観視する良い機会となったからだ。

〇巨大な城門
門番「お前達、ナルーンへの目的は?」
ルシア「ローゼルへの急ぎ旅の途中で、宿を求めている」
門番「そうか・・・」
門番「ん? そっちの奴は変わった服を着ているな。荷物も多いし・・・中を見せて貰おうか?」
成崎ユキオ「え! えっと・・・」
  しばらくして順番が巡って来たユキオ達に槍を手にした門番の一人が質問を浴びせ、
  ルシアに異世界人であるユキオの不自然さを指摘する。
  彼が着ているジャケットはフードの付いたアウトドア用のモノだが、この世界の縫製技術は基本的に手織りだ。
  なので、ニット状に織られたポリエステル製のジャケットはこの世界では目新しく映ったに違いなかった。
  ルシアからの警告でユキオは自身の正体を隠すように諭されている。
  LEDランタン等の現代アウトドアギアを見られたら、もっと面倒なことになると思われた。
ルシア「彼は東の・・・イルクク出身の旅人だ。服装が変っているのもそのためだ」
ルシア「ところで、直ぐにでも宿を見つけてこの泥を落としたいんだが・・・」
  反応に困るユキオの代わりにルシアが門番に近付き、それらしい嘘と共に何かを彼の手に素早く渡した。
門番「そんな・・・」
門番「うむ・・・いいだろう。通ってよし!」
  すると門番は一瞬で態度を軟化させ、二人に街中に入る許可を出す。
ルシア「・・・感謝する。行こう!」
成崎ユキオ「お、おう!」
  門番の豹変ぶりは出来の悪いコントのようでもあったが、ルシアは門番の気が変らぬ内にとばかりにユキオに告げ、
  二人は素早く左右に開かれた門を潜ってナルーンの街に入るのだった。

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