春を想う

冬木柊

春を想う(脚本)

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〇オフィスのフロア
  彼女が異動することになり、最後に昼食を一緒することになった。
朱「どこに行きますか?」
高村「まずここですね」

〇コンビニの店内
朱「?・・・、ここはコンビニなんです」
高村「ここでサンドイッチとかパンとか買ってください」
朱「外で食べるんですか?」
高村「そうです、お花見しながら」
朱「え?!、お店で食べたーい」
高村「ま、いいからなにか買ってください(汗)」
朱「えー。」
  彼女は中国人なので、冷たい弁当を食べる習慣がない。
  いや、中国人はそもそも弁当を作る習慣すらなく、観光でも店で温かいものを食べるのが一般的らしい。
  日本での生活が長いからサンドイッチやパンは食べるかと思ったが、どうも苦手らしかった。

〇川沿いの公園
  すぐ海に面した人工島。川と川が運河となり交差する。
  オフィスビルと倉庫とタワーマンションばかりのこの公園は会社から近く、花見客のいない穴場だった。
  コンビニで買ったビニールシートを敷いて、腰を下ろした。彼女は足を揃えて伸ばす。
高村「どうですか花見は?」
朱「うん、いいね!」

〇桜並木
  僕は用意した水筒を鞄から取り出し、同じく用意した紙コップにアッサムの紅茶パックを入れ、お湯を注いだ。
高村「どうぞ朱さん」
朱「ありがとうなんです」
  朱さんは普段、自家製の濃い烏龍茶を飲む。
  しかし、普通のレストランには日本人向けの薄い烏龍茶しか置いていない。
  だから彼女はレストランでは紅茶を頼む。
  朱さんは、淹れた紅茶に気をよくし、タマゴサンドを食べた。
  そして色々なことを話した。
  今の仕事のこと、異動先への不安と、そして期待。

〇桜並木
  桜はちょうど満開が終わろうとしていた。
  風が吹き、花びらは舞う。
  それは桜吹雪で、帰宅中黄色の帽子をかぶった保育園児たちに降り注いだ。
朱「日本人はなんでお花見するんですか?」
高村「え?」
  僕はそう言って、ちょっと考えた。

〇桜の見える丘
高村「桜は三月の終わりから四月の第一週に咲くんですよ」
高村「ちょうどその期間は、卒業式、入学式、入社式、それと会社でも異動とか大きな出来事が重なって」
高村「桜を見ると、そういう思い出が甦ったりするんじゃないでしょうか?」
高村「桜には、人それぞれの思い出が宿るんでしょうね」
朱「そうなんですか?」
高村「そうですよ、桜の樹は公園とか学校に植えられていて、実家に帰れば、自分が子供の頃に通った学校の桜を見ることができるんですよ」
高村「人や街はどんどん変わっていきますけど、 学校は変わらないじゃないですか?」
高村「桜はそうした変わらない思い出の場所に咲くというのもあるんでしょうね 中国も学校の場所は変わらないですよね?」
朱「うん?、中国は学校の場所も変わるよ」
高村「え?、そうなんですか?」
朱「そうだよ、 わたしが通った学校ももうないよ」
高村「そうなんですね・・」

〇桜並木
朱「高村さん、わたし、学校には傘を持たずに行ったんです」
朱「それで雨が降ると、男の子が傘を持って待ってくれていたんです」
高村「そうなんですね」
朱「でもいっつも、男の子同士でケンカになるんです、そういうのって、日本人にもあるのかな?」
高村「え?」
  返す言葉が思い浮かばなかった。
  なにをどう言っていいかわからなかった。
朱「・・・」

〇桜並木
  風が吹いた。
  桜の花びらが僕と朱さんに降り注いだ。
  朱さんが手に持っていた紙コップの紅茶に桜の花びらが浮かんだ。
  春の陽に朱さんの笑みがこぼれる。
高村「いつでも会いに行きますよ」

コメント

  • お話自体も、春の、桜の雰囲気をまとった感じで、幻想的な、謎めいた、不思議な世界を感じました。感謝。

  • 桜の儚げな雰囲気も相俟って、全体が優しい物語になっているなと感じました。微妙な距離感の二人が、とても良いなと思いました。
    素敵な物語ありがとうございました!

  • 二人の微妙な距離感がいいですね😆
    桜の季節のどことなく切ない空気感が伝わってきました☺️

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