ハッピーエンドよ、続け

Akizuki

読切(脚本)

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〇可愛い結婚式場
ミナト「大好きだよ!」
ミナト「俺の気持ち、ぜーんぶあげる♥」
ミナト「2人で幸せになろうね!!」
  こうして私たちは結ばれたのでした。

〇研究装置
ヒロイン「仕事終わったー!!」
ヒロイン「あっ、どうも。 乙女ゲームのヒロインです」
ヒロイン「今回の相手役はワンコ系男子のミナト君」
ヒロイン「甘えん坊な彼に振り回されたりもしたけど 無事ハッピーエンドを迎えました」
ヒロイン「私の仕事はここまで」
ヒロイン「次の彼との恋が始まるまで ここゲームサーバー内で待機です」
ミナト「ヒロインさん、待って!!」
  駆け寄ってきたミナト君は、いきなり私を正面からギュッと抱きしめる。
ミナト「俺たち、これで終わりなの?」
ミナト「そんなのイヤだよ。 せっかく両想いになれたのに」
ミナト「俺はヒロインさんのこと離したくない!」
ヒロイン(待って、何が起こってるの!?)
ヒロイン(もう私たちの物語は終わったのに)
ヒロイン「み、ミナト君、あの」
ヒロイン「私たちはあくまでゲームのキャラだから」
ミナト「分かってるよ」
ミナト「でも俺、本気でヒロインさんのこと 好きになっちゃったんだ」
ミナト「また新しい物語が始まったら ヒロインさんは他の男と恋するんでしょ」
ミナト「そんなの耐えられない」
ミナト「俺だけのヒロインさんでいて欲しい」
ミナト「このまま俺の彼女になってよ」
ヒロイン(そういえばミナト君って 甘え上手で可愛いワンコ系男子だけど)
ヒロイン(実は嫉妬深くて 若干ヤンデレ気味なところがあったような)
ヒロイン(まさか、物語が終わったのに その気持ちを引きずってるとか!?)
ヒロイン(それはまずい、けど)
  チラッとミナト君を見上げると──。
ミナト「ヒロインさん」
  今にも泣きだしそうな顔で、瞳を切なげに揺らしている。
ヒロイン(イケメンにこうやって求められるのは 悪くないかも)
ヒロイン(って、私ったら何考えてるの!? こればっかりはどうしようもないでしょ)
ヒロイン「気持ちは嬉しいけど、無理だよ」
ヒロイン「私たちの物語はとっくに ハッピーエンドを迎えてるんだから」
ヒロイン「これ以上、恋が続くことはないの」
ヒロイン「だから諦めて」
ミナト「そんな簡単に諦めきれると思う?」
ミナト「ヒロインさんのこと 好きで、好きで、たまらないのに」
ヒロイン「でも私、ユーザー目線の概念的な存在で 姿形は見えないでしょ?」
ヒロイン「ヒロインという名前も仮でしかなくて」
ヒロイン「乙女ゲームの中では ユーザーの名前を借りて生きてるだけ」
ミナト「概念? そんなはずないよ」
ミナト「だって俺にはちゃんと見えてるもん」
  ミナト君の指がそっと私の髪を撫でる。
ミナト「サラサラした髪に綺麗な瞳」
ミナト「照れると赤くなるほっぺに やわらかい唇」
  髪、頬、唇。
  触れられた部分に熱が灯り、胸を甘くときめかせる。
ミナト「俺には全部見えてるし この腕の中の温もりまでちゃんと感じてる」
ミナト「優しくてあったかい。 ヒロインさんだけの温もりだよね」
ヒロイン「ミナト君」
  愛しげに見つめられた、その時──。
  サーバー内の銀色の壁に
  自分の姿がはっきりと反射して映った
ヒロイン「う、ウソ。 私、ちゃんと人間の姿になってる」
ミナト「ヒロインさん、一緒に逃げよう」
ミナト「2人の恋を続けて、幸せになるんだ」
ミナト「俺はヒロインさんと生きていきたい」
  まるでプロポーズのような一言に、胸が期待で大きく高鳴る。
ヒロイン(私はユーザー目線の概念的な存在で 決して自我を持つことはない)
ヒロイン(ただ、ゲームのシナリオ通りに 生きるだけだって)
ヒロイン(さっきまで思ってた)
ヒロイン(でも、もしミナト君の手を取って 私自身の恋を始められるのなら)
アナウンス「異常事態発生。 ヒロインキャラのバグを感知」
アナウンス「至急、確保せよ」
ヒロイン「もしかして私が自我に目覚めたから?」
ミナト「バグだって? 笑わせんな。 ヒロインさんのことは俺が守る」
  ミナト君は私の手を取り、サーバー内を勢いよく駆け出す。
ヒロイン「ミナト君! どこに逃げるつもりなの!?」
ミナト「分からない! でも、俺を信じて!」
ミナト「このまま終わらせたりしないから!」
ミナト「普段は甘えん坊だけど、 いざという時にカッコよさを発揮」
ミナト「それがワンコ系キャラ、ミナトの魅力だよ」
ヒロイン「ふふっ、そうだったね」
ヒロイン(ミナト君はこんなに私を想ってくれてる。 だから、信じてみようかな)
  温かい手をギュッと握り返し、もう心に迷いはなくなる。
ミナト「行こう! ヒロインさん!」
ヒロイン「うん!」
ヒロイン(きっと大丈夫。 ここを抜け出して、私たちの恋を始めよう)

〇可愛い結婚式場
  1カ月後──。
カイト「2人の愛を永遠に誓おう」
ヒロイン「はい、喜んで!」
  今日も、乙女ゲームのヒロインは素敵な彼と恋をしている。
  そんな2人を見守るのが・・・。
ヒロミ「おめでとう!!」
ミナト「お幸せに!」
  モブキャラになった私たちの役割だった。
ミナト「幸せそうな2人見てたら ヒロインさんのことギュってしたくなった」
ヒロミ「ちょっと、人前ではダメだからね。 恥ずかしいもん」
ミナト「えー、ヒロインさんのケチ」
ヒロミ「というか私、もうヒロインじゃないから」
ヒロミ「ヒロミって呼んでよね」
ミナト「分かってるよ。 つい癖が抜けなくてさ」
  ヒロインという立場を捨てた私は、モブキャラのヒロミとして誰かの物語の中で生きている。
ヒロミ(ヒロインのスポットライトはいらない。 ミナト君と一緒にいられるなら)
ミナト「でもさ、俺たちの恋物語のヒロインは これからもずっとヒロミさんだよね」
ミナト「この先ずっと 俺が愛してるのはヒロミさんだけだよ」
ヒロミ「も、もう、すぐそうやって私を キュンとさせるんだから」
ミナト「ははっ、ヒロミさん照れてる。 可愛い♥」
ミナト「そういうとこ、ホントに好きだよ」
ヒロミ「ミナト君ったら・・・」
ヒロミ(恥ずかしいけど、すごく幸せ)
ヒロミ(ミナト君。 私を連れ出してくれてありがとう)
  ハッピーエンドのない物語の中で
  私たちは幸せになったのでした。

コメント

  • 乙女ゲームのヒロインを本当の意味で主人公にしてしまうという着眼点が興味深かったです。ヒロインの座を譲ってでもミナトと一緒にいようとするヒロミの一途さにグッときました。応援したくなるカップルですね。

  • 私達、普通の女の子と男の子(一般モブカップル)に戻ります!

    …という事ですね、祝福します。

  • 概念体にバグ……ときたら結末は……まさかのハッピーエンド。意外性のある設定からの意外な展開に意外な結末と、何度も驚きました。勉強させていただきました。

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