クロと蛇神と、カノジョの秘密

春日秋人

第10話 『デート(上)』(脚本)

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〇試着室
  ~休日~
  ~ショッピングモール~
深白(みしろ)「見て見てー、クロくん! どうかなこれ」
深白(みしろ)「似合ってるー?」
九郎(くろう)「似合ってるよ」
深白(みしろ)「ほんとかなぁ? ほんとに思ってる?」
九郎(くろう)「本当だよ」
九郎(くろう)「一般的に言って深白は美人だからね。 なにを着ても似合うよ」
深白(みしろ)「え? 聞こえなかったかも」
深白(みしろ)「もう1回言って」
九郎(くろう)「なにを着ても似合うよ」
深白(みしろ)「おしい! その前!」
九郎(くろう)「深白は美人だからね」
深白(みしろ)「もうっ、もうっ」
深白(みしろ)「クロくんてば、もうっ」
九郎(くろう)「あ。深白、あんまり動くと──」
  ブチッ
九郎(くろう)「胸元のボタンが弾ける・・・って言おうとしたんだけど」
九郎(くろう)「遅かったね」
深白(みしろ)「────」
九郎(くろう)「と、これ跳んできたボタン。ちゃんと受け止めておいたよ。少し待っててね。いま店員さんを呼んでくるから」
九郎(くろう)「少し待っててね。 いま店員さんを呼んでくるから」
深白(みしろ)「あり、がと」

〇黒
  ~某所~
《燕》(スワロー)「いちゃいちゃいちゃ・・・」
《燕》(スワロー)「いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ・・・っ」
《燕》(スワロー)「むあー!」
《燕》(スワロー)「なぜ《鴉》(クロウ)とあの神娘(かみむす)が休日に2人でお出かけしとるんじゃ!」
《燕》(スワロー)「いや! わかっとる! あの神娘が誘ってきおったからじゃ!」

〇教室
深白(みしろ)「クロくーん。明日デートしよー」

〇黒
《燕》(スワロー)「わからんのは──」

〇教室
深白(みしろ)「た・だ・し! 明日はいつもの《ゲーム》は一切なしだよ!」
深白(みしろ)「難しいこと考えずに楽しもー!」

〇黒
《燕》(スワロー)「な・ん・で! じゃああああああああ!」
《燕》(スワロー)「えぇえぇ・・・」
《燕》(スワロー)「それでは本当にただのデートではないか」
《燕》(スワロー)「《鴉》も『わかったよ』とあっさり了承しおるし」
《燕》(スワロー)「無論、《鴉》には《鴉》の考えがあるんじゃろうがの」
《燕》(スワロー)「そもそも任務の開始当初は、とにかく情報を得るために近づくことを目的としておったわけじゃしな」
《燕》(スワロー)「お出かけ前に《鴉》が鏡の前で着ていく服を悩んでいたり、ワレにおかしくないかわざわざ確認したりしていたのも──」
《燕》(スワロー)「普段の《鴉》ならしない行動じゃったが、任務のためじゃ! そうじゃったらそうなんじゃ!」
《燕》(スワロー)「はぁ・・・それにしても、なんじゃろうな、このモヤモヤした気分は・・・」
《燕》(スワロー)「もしかしたらワレはあの神娘が羨ましいのかもしれん」
《燕》(スワロー)「弱いワレでは《鴉》の隣に立つことはできぬからの」
《燕》(スワロー)「2年前・・・《来訪者》事件・・・」
《燕》(スワロー)「任務の参加者が《鴉》を除いて全滅したあの事件から、《鴉》はチームと行動することがなくなった」
《燕》(スワロー)「唯一、小心者でいつも安全圏に閉じこもっておるワレだけが、《子機》越しにそばにいることを許され」
《燕》(スワロー)「・・・・・・」
《燕》(スワロー)「なにが相棒じゃ。くそ」

〇エレベーターの前
  ~ショッピングモール~
深白(みしろ)「ほらほら、クロくん、こっちこっちー」
九郎(くろう)「手を引っ張らないでよ、深白」
深白(みしろ)「えー? なんでー?」
深白(みしろ)「あっ、もしかしてクロくん」
深白(みしろ)「ししし、照れちゃったりしちゃってるー?」
九郎(くろう)「職業病ってやつかな。動きが制限されるから、片手が塞がってると落ち着かないんだよね」
深白(みしろ)「そんなことだろうと思ったけどね!」
深白(みしろ)「クロくんだなぁ」
深白(みしろ)「じゃあ、はい! これならいーい?」
九郎(くろう)「そうだね。袖をつまむくらいなら」
深白(みしろ)「じゃ、行こー」
深白(みしろ)「こっちこっちー」
九郎(くろう)「どこに行くの?」
深白(みしろ)「それはねぇー」
深白(みしろ)「デートっぽいとこ!」

〇テラス席
店員「お待たせいたしました」
店員「こちら『特製カップルドリンク』になります」
店員「どうぞ、ごゆっくり」
深白(みしろ)「わぁ~」
深白(みしろ)「見て見てクロくん、ハート型の2口(くち)ストローだよ。こんなの本当にあるんだね~」
深白(みしろ)「すごいデートっぽい!」
九郎(くろう)「僕にはよくわからないけど」
九郎(くろう)「これがデートっぽいの?」
深白(みしろ)「ししし」
深白(みしろ)「デートっぽいんだよー」
深白(みしろ)「いい? クロくん」
深白(みしろ)「この2口(くち)ストローはね、ひとりじゃあ吸えないんだよ」
深白(みしろ)「ふたりが協力することで、初めてグラスの中のドリンクを飲むことができるの。考えた人は天才だと思う」
九郎(くろう)「ふたりじゃないと使えない?」
九郎(くろう)「不便じゃないのかな」
九郎(くろう)「どうしてそんな欠陥品を・・・」
深白(みしろ)「いいから、飲も」
深白(みしろ)「飲んでみたらわかるかもしれないよ」
深白(みしろ)「ね、だからいっしょに──」
九郎(くろう)「でもこの構造なら僕はひとりでも飲めそうだ」
九郎(くろう)「試してみるね」
深白(みしろ)「え」
深白(みしろ)「ちょまっ」
九郎(くろう)「うん。飲みにくいけど、飲めるね」
深白(みしろ)「飲めちゃだめじゃん!」
深白(みしろ)「今の絵面ぜんぜんデートっぽくないよ!」
深白(みしろ)「目の前で取り残され感がやばい」
深白(みしろ)「ええぇ・・・」
深白(みしろ)「でもすごい。どんな肺活量なの?」
深白(みしろ)「よし! わたしも試してみる!」
深白(みしろ)「なんかクロくんだけできるって悔しいし!」
深白(みしろ)「くくく、神の力、見せてやんよ!」

〇テラス席
  ~3分後~
深白(みしろ)「だ、だめだー・・・」
九郎(くろう)「無理しないほうがいいよ」
九郎(くろう)「顔、赤くなってるよ」
深白(みしろ)「む、むりしてないし。へいきだし。かみだし」
深白(みしろ)「うー、あとちょっとのはずなんだけどなー」
深白(みしろ)「もう1ミリで口に飛び込んできてくれる!」
深白(みしろ)「・・・はず!」
九郎(くろう)「深白、残念だけどその認識は間違ってる」
深白(みしろ)「いーや吸ってみせる!」
深白(みしろ)「んー! んー! んー! んー!」
深白(みしろ)「──っ!?」
深白(みしろ)「ク、クロくん! やった飲めた。飲めたよ!」
深白(みしろ)「──ちょっ、クロくん!」
深白(みしろ)「クロくんもストローに口つけてるじゃん!」

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