始まり 〜HIMA〜(脚本)
〇村の眺望
アタシは、絶対東京に行くの!!!
の・・・の・・・の・・・
自分の声が木霊した
ヒマ「やってらんない、こんなど田舎・・・ アタシは東京の高校に行くんだから!」
いやアンタ、どうやって生活していくつもりよ
ヒマ「東京におばあちゃん家あるでしょ。 この前連絡したら、いつでも来ていいって言ってくれた」
・・・はぁ。いい加減にしなさい。
そもそもアンタ偏差値50もないのに、どの高校に受かるっていうのよ
ヒマ「うっ・・・と、とにかく、アタシは高校生になったら東京に行くんだからね!」
〇古いアパートの部屋
ヒマ「はぁ〜・・・」
畳の上に寝転がって、携帯を取り出す
好きなモデルのInstagramを見ると、今日もキラキラの日常がアップされていた
ガーリーな雰囲気のカフェ、色とりどりのスイーツ、オシャレなネイル、新作のワンピース、韓国コスメ・・・
ヒマ「いいなぁ。ここには、何もない」
自動で綺麗に加工されるカメラアプリで、モデルと同じポーズで写真を撮った
ヒマ「あぁっ、もう! まずこの黄土色の壁が映えないのよ!!」
携帯を座布団に叩きつけると、一回跳ねて、そのまま畳の上に落ちた
〇渋谷のスクランブル交差点
──半年後
ヒマ「ここが・・・渋谷っ!」
アタシは猛勉強(?)の末、東京の私立高校に受かった
まぁ、学力は平均より下だけど・・・
制服が可愛いからオッケー!
東京は、見たこともないほどの人で溢れていた
〇教室の教壇
クラスでは、一番目立つグループの子たちと仲良くなった
ねーねー、このリップ可愛くない?
この前TikTokであげた動画バズって〜
そこは、アタシが思い描いていたとおりの「東京」の世界があった
あ、今週の日曜暇?
みんなで原宿行かない?
ヒマ「行きたいっ!! 原宿初めてだぁ〜♪」
マジかぁー。いいね!映えるカフェあるから行こうよー
じゃ、11時に駅待ち合わせねー
〇ケーキ屋
ヒマ(ここ、芸能人のインスタで見たことある!)
何にするー?
この前パフェ食べたもんねー
パンケーキにしようかな
ヒマ「あっ、アタシも!」
ヒマ(げっ・・・ こんな小さいのに1400円!?たっか!!)
ほら、写真撮ろー!
ヒマ「うんっ!」
インスタにあげていいー?
あ、みんなインスタやってる?
やってるよー!
私もー。フォローするね!
ヒマ「あっ・・・えっと、アタシ、やってなくて・・・」
えっ!?
ヒマ「はは、ほら、うち田舎だったからさー。そういうのやってる友達も全然いなくて」
ヒマ「でも、今日からやってみる!!」
いいねー!
TikTokもやりなよー。面白いよ!
ヒマ「うん!家帰ったら登録するー♪」
本当は、インスタもTikTokもやっていたけど、言えなかった
それまでアタシが映えると思ってアップしていたものは、今見ると、とんでもなくダサかったから
〇川に架かる橋
ヒマ(うーん、この生活、お小遣いだけじゃ絶対無理だ・・・ バイトでも始めようかな?)
帰り道、登録し直したインスタを開くと、一つの広告が目に留まった
ヒマ「アイドルオーディション?」
ヒマ「・・・これだっ!!!」
昔から歌は好きで、よく友達とカラオケに行っていた
キラキラして、みんなに注目されて、お金も稼げる
ヒマ「よーし、さっそく応募してみよう!!」
〇女の子の一人部屋
──数ヶ月後
ヒマ(わぁ〜この服めっちゃ可愛い! でも1万円かー・・・無理だなぁ)
ヒマ(知らない番号。何・・・?)
ヒマ「もしもし」
それは、数ヶ月前に受けたオーディションの合格の知らせだった
ヒマ(さっっすがアタシ!! これでインスタやTikTokのフォロワーも増えるわ!)
このグループでは、それぞれに担当カラーを作るのだが、君は黄色でどうかな?
ヒマ「・・・えっ?黄色!?」
ん?あんまり好きじゃなかったか?
君の元気なイメージにぴったりだと思ったんだけどなぁ
ヒマ「い、いや・・・ なんか黄色って、脇役のイメージがあって」
ヒマ「赤とか青の子が他にいるってことですか?」
あぁ、なるほど。
それでは先に、このグループの方針を話しておく
グループ名は「Pass☆Tell」
絶対的なセンターやリーダーという役職はなく、全員にチャンスがあるグループにしたい
だから、担当カラーも赤や青のようなハッキリとした色は使わない
ヒマ「わかりました。じゃあ、黄色で」
それから芸名なんだが、担当カラーにちなんだ名前にしたい
黄色といえば、ひまわりなんだが・・・ちょっと呼びづらいよなぁ
ヒマ「・・・あっ、ヒマ! ヒマはどうですか!?」
おぉー、いい名前だね!
君が良ければ、「ヒマ」にしようか
ヒマ「はいっ!」
ヒマ(すごい・・・東京に出てきて、さっそく芸能界に入っちゃうなんて)
ヒマ「よし、絶対有名になってやるんだから!」