読切(脚本)
〇黒
住宅街の一軒家。
六畳余りの子供部屋で、小学生の姉妹が、布団を並べて寝ていた。
姉の瑠璃(るり)は掛け布団を蹴飛ばし、ぐーすかと深い眠りの底である。
一方、妹の真珠(しんじゅ)は何やらそわそわしており、眠れない様子。
真珠「世の中には、不思議なことがありますね・・・」
真珠「たとえば、心霊現象であったり、超常現象であったり・・・」
真珠「おのれの無力さを、まざまざと見せつけてくる、そんな不思議と、わたしは、今、隣り合わせています・・・」
真珠は、静かに起き上がると、瑠璃の蹴飛ばした掛け布団を取りに行く。
何の変哲もない花柄のカバーがほどこされており、いたって普通の布団である。
真珠「これを、姉の体に掛けます(戻します)・・・」
真珠「すると、どうでしょう・・・」
即座に、瑠璃の両目が開き、白目をむくのである。
真珠「白目を、むくのである・・・」
真珠「私は、これを薄闇で目撃したとき、卒倒しそうになった」
真珠「姉は、寝ている。熟睡している・・・」
真珠「勝手に別の布団で試したこともあるが、白目をむくのはこの掛け布団だけだった」
真珠「そして、姉は動じなかった」
真珠「証拠の画像を見せても、動じなかったのである」
ひと息つき、真珠も眠ることにする。
掛け布団を掛けると、そのうち真珠も白目をむく。
姉妹並んで、白目をむいている状態である。
〇研究開発室
ヒゲをたくさんたくわえた博士と、まだ若い研究員が、真っ白い研究室で、データを分析していた。
ここには、あらゆる分野からかき集めたビッグデータがおさめられ、日進月歩の最前線だった。
博士「例の布団の分析は出たか?」
研究員「はい。ごく一般的な掛け布団ですね。何の偽りもない掛け布団です」
博士「他には?」
研究員「必ず鼻血が出る布団なんてものも報告にあがっていましたので、これも分析したところ、普通の布団でした」
博士「共通点はあるか?」
研究員「思い込み、としか。人の心理は計り知れませんからね」
研究員は、おどけた仕草を見せる。
腕を組む博士。
ヒゲを撫でながら、思索する。
研究員「そういえば」
博士「何だ?」
研究員「個人的なことなんですが、良いですか?」
博士「駄目だ」
研究員が、えー、という顔をする。
博士「わかった」
博士が、時間差で、オーケーを出す。
研究員「・・・その人の死に顔を予知してるんじゃないかなって」
研究員「白目をむくなら、その人の最期が、白目をむく状態なんじゃないかなって。ただの思い付きですけど」
博士「ハハハ。鼻血なら鼻血を出す状況で死亡する、そういうことか?」
研究員「そういうことです」
博士「・・・恐いな」
研究員「・・・恐いです」
博士「えー、何か、知りたくなかったなー」
互いに、肩をすくめた。
ぴこぴことした電子音がひびく研究室で。
博士「で、結局のところは?」
研究員「何の偽りもない布団です」
(了)
最後ちょっとゾッとしました。怖いです!
でも、白目をむいて寝てたらびっくりしますよね。
鼻血とかになると、毎日洗濯が大変そうだなぁと思いました。
それにしてもまったく動じることのない姉は強いな。実は私も気づいてないだけで、寝てるとき白目むいてるかもなぁと読みながらドキッとしました。でもやっぱりお布団で眠るのは気持ちいいよね。
何か恐いラストになりそうでドキドキしましたが、そうでなくてホッとしました。