エピソード15 真相篇①(脚本)
〇制作会社のオフィス
奥根久志「ふうん、『エバーナイト/ネバーデイ』ねぇ・・・」
八代壬継「そうなんです。2年くらい前に撮影が進んでたホラー映画なんですが、なにかご存じありませんか?」
八代壬継「ネットで調べてみたんですけど、上手く見つからなくって・・・」
奥根久志「へぇ、よっぽどマイナーなのかな。でもさ、なんでそんな映画のことを知りたいの?」
八代壬継「えっと、それは・・・星那アリスが気になることを言ってたんです」
八代壬継「彼女、『その映画のせいで呪われた』って・・・」
奥根久志「ほほう、それはそれは。確かに興味湧くねぇ」
奥根久志「わかった、僕の方でも調べてあげよう」
八代壬継「すみません、お願いします」
八代壬継「本当は、星那アリスに直接聞けば早いんでしょうけど・・・」
由宇勇「阿呆、ダメに決まってるだろ」
由宇勇「ただでさえターゲットに素性が割れてるんだ。下手に接触でもして、俺たちの『仕掛け』がバレたらどうする?」
奥根久志「そうですよねー。 まず刑事罰は間違いなさそー」
八代壬継「それはもちろん、わかってますけど・・・」
由宇勇「それにな、あれから星那アリスは一切仕事に出てないらしい。あの体験がよっぽどショックだったんだろう」
奥根久志「うわそれ、所属事務所に訴えられたら、損害賠償まで不可避っすよ」
由宇勇「そういうこった。だから金輪際、あの女には近づくな。わかったか」
八代壬継「・・・はい」
俺たちが星那アリスを追い込んだのは事実だ。それなのに、どの面下げて彼女に会えるだろう?
でも・・・それでも。
俺は『エバーナイト/ネバ―デイ』について知りたかった。
あれから2年以上経って、ようやく見つかった手掛かりなのだ。
〇黒
みのりが死んだ、あの日から。
〇マンションのエントランス
八代壬継「・・・ははっ。 これじゃマジでストーカーだな」
由宇さんからあれほど止められたにもかかわらず、俺は星那アリスのマンション前にいた。
ここ数日見張り込んでみたが、星那アリスが部屋から出た気配はない。
あれほど強気だった彼女が引きこもるほどに、追い詰めてしまったのだろう。
それがわかっていながら、俺はあきらめきれなかった。
みのりがなぜ死ななければならなかったのか? それを知るために、この2年のすべてを費やしてきたのだから。
それを知るために、この2年のすべてを費やしてきたのだから。
深夜2時。星那アリスの部屋の電気が消えた。就寝したのだろう。
八代壬継「今日も収穫なし、か・・・」
そう思って帰ろうとしたとき、彼女の部屋のドアが開いた。
ぼさぼさの髪に、やぼったいトレーナー姿ではあったが・・・星那アリスが部屋を出てきたのだ。
八代壬継「あ、あのっ」
星那アリスがマンションから出たところで、声をかけた。
星那アリス「あんた・・・」
俺の顔をみた瞬間、彼女の顔が青ざめた。言い訳などできない。今の俺は完全に不審人物だ。
が──
星那アリス「あんた・・・生きてたの!?」
星那アリス「よかった・・・よかった・・・」
星那アリスは・・・いや、保科亜沙美は、その場で泣き崩れた。
〇ファミリーレストランの店内
保科亜沙美「ごめんなさい。私、あなたを見殺しにしたの。自分が生き残りたいばっかりに。本当にごめんなさい」
八代壬継「いえ・・・気にしないでください。 すべては夢の中の出来事なんですから」
保科亜沙美「ええ、そうよね。夢よね。 でも、それがずっと気がかりで」
幽々舎の思惑通り、保科亜沙美はあの一件を夢だと思っているようだった。
しかし、そうだとわかってはいても体験は強烈に残っている。
彼女は外を歩くことすら怖くなり、部屋に引きこもるようになったのだという。
夢の中で俺を見捨てて逃げたことを、彼女はひどく気にしていた。その罪の意識に付け込んで、俺は話を聞こうとしている。
そのことに、ちくりと胸が痛む。
八代壬継「それで、2年前の、信州での撮影のことなんですけど・・・」
保科亜沙美「うん。雑誌の企画でね。いろんな事務所の子と、合同でグラビアを撮ってたの。そこでみのりちゃんと会った」
保科亜沙美「そのとき泊ってた宿にね、偶然、ホラー映画の撮影スタッフもやってきてたんだ」
保科亜沙美「それで、エキストラとして参加してみないか、って話になって」
八代壬継「そのホラー映画というのが──」
保科亜沙美「うん。『エバーナイト/ネバーデイ』よ」
どういうわけか、映画の撮影にはトラブルが相次いだという。
機材トラブルは当たり前。
スタッフにも怪我やら体調不良が相次いだ。
保科亜沙美「私、気味が悪くなっちゃって。スケジュールも延び延びになってたし、だから一段落したところでさっさと帰ったの」
保科亜沙美「他のモデルの子もそう。でも・・・みのりちゃんだけは、最後まで付き合うことになった」
保科亜沙美「そのあとのことは・・・わからないの。 ごめんなさい」
八代壬継「いえ・・・充分です」
この程度のことすら、俺は知らなかったのだから。
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いよいよですね