エピソード14 星那アリス篇③(脚本)
〇湖畔の自然公園
八代壬継「はあっ、はあっ、はあっ・・・。 星那さん、まだ走れますか?」
星那アリス「なんなのよこれ・・・どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」
八代壬継「泣き言はあとです。今は逃げましょう。 捕まったら殺されます」
八代壬継「いや、それだけならまだいい。 もし、あいつに殺されたら僕らも──」
星那アリス「言わないで! そんなこと、あるはずないんだから!」
八代壬継「でも、礼香さんはもう・・・。 きっと、当麻さんだって──」
筑紫鏡也「どこかなぁぁぁぁぁ? どこにいっちゃったのかなぁぁぁぁ?」
八代壬継「まずい。こっちに来てます。 今は走ってください」
星那アリス「う、うん」
筑紫鏡也「いいよぉ、鬼ごっこ、楽しいもんねぇぇぇぇ。がんばってにげなぁぁぁ」
筑紫鏡也「がんばってにげないと、しんじゃうよぉぉぉぉ。きひっ。きひひひひひひ!」
〇撮影風景
志摩礼香「ねえ、ちょっとやりすぎじゃない?」
由宇勇「なに言ってるんだ。 これくらいやらないと迫真の画が撮れんだろ」
志摩礼香「でも、このままじゃ勢い余って怪我人が出かねないわよ?」
由宇勇「はんっ、ちょっとくらいの怪我なんぞ、撮影には付きものだろうが」
由宇勇「いや、逆に怪我の一つや二つあったほうが、必死さに真実味が増すってもんだ」
由宇勇「おい鏡也、もっとやりたいようにやれ。 こんなんじゃ、前の方がよかったぞ」
志摩礼香「・・・最低ね」
〇木造のガレージ
八代壬継「ここが安全ならいいんですが」
そう言いながらも、俺はここが安全ではないことを知っていた。
すべては打合せ通り。星那アリスに対する「仕掛け」は大詰めに入っていた。
まず、礼香さんとカメラマンさんを、鏡夜さんが惨殺。当麻さんが鏡也さんを食い止めている間に、俺と星那アリスは逃げ、いったん身を隠す。
しかしそこに現れたのは、化物と変わり果てた礼香さん。その礼香さんを振り払ったのはいいが、また鏡也さんに見つかってしまい──という状況だ。
星那アリス「ううう・・・ぐずっ。 どうして・・・どうしてこんな・・・」
もちろんこれはすべて礼香さんの筋書き通りのものだ。惨殺シーンは血糊と仕掛けによるものだし、バケモノ化も特殊メイクの賜物である。
いったん身を潜めたのも、特殊メイクのための時間(急いでも一時間半はかかるらしい)を稼ぐためだ。
逃げるルートには、前もって隠しカメラが仕掛けられている。鏡也さんの胸ポケットに収まっているスマホでも、動画を撮影中。
あとでこれらをつなぎ合わせ、如月に納品するというわけだ。
星那アリス「どうして・・・どうしてこんな目に遭わなきゃならないの・・・」
かわいそうに、星那アリスは本気で怖がっているようだった。
無理もない。自分だって、これが「仕込み」だと知っていなければ、本当に怪奇現象に巻き込まれてしまったと信じ込んでいたことだろう。
それほどまでに、後を追ってくる鏡也さんの「ヤバさ」は真に迫っていた。
星那アリス「私・・・やっぱり呪われているんだわ。 あんな映画に出たせいで」
八代壬継「映画?」
星那アリス「『エバーナイト/ネバーデイ』よ、決まってるでしょ」
星那アリス「あんたの妹のことだって、きっとあの映画の呪いなのよ!」
八代壬継「ちょっと待ってください。じゃあ、妹が出ることになった映画っていうのは、それなんですか!?」
星那アリス「そうよ。でも、あのあとあんたの妹はあんなことになったし、あの撮影に参加した他の子だって──」
筑紫鏡也「みーつけた。 こんなところに、かくれてたんだぁ・・・」
筑紫鏡也「でももう、かくれんぼには飽きちゃった。 そろそろ終わりでいいよね?」
八代壬継「ま、待ってください鏡也さん!」
ようやく、ようやく手に入れた手がかりだ。
もっとその映画について、星那アリスから聞かなければ。
筑紫鏡也「だーめ。もう終わりー」
チィィィィィィィィィィン!
チェーンソー。
回転する刃が小屋の扉にあっさりと差し込まれ、やすやすと切り開いていく。
星那アリス「いやっ、いやっ、もういや!」
八代壬継「・・・星那さん、そこの窓からあなたは逃げてください」
八代壬継「僕が、鏡也さんを食い止めます」
星那アリス「で、でも・・・」
八代壬継「早く! もう時間がありません」
扉はもうズタボロになっていた。
鏡也さんはチェーンソーをいったん止めると、切り開いた扉の隙間から手を入れ、閂をはずそうとしている。
意を決し、星那アリスが窓枠に飛びついた。
どうにか体をねじ込み、外へ逃れる。
それと入れ違いになるかのように、鏡也さんがゆっくりと小屋の中へと入ってきた。
筑紫鏡也「あれ? キミだけ? 残念」
演技だ。そのはずだ。
そうだとわかっているのに、鏡也さんの表情を目の当たりにすると背筋が凍り付く。
この人、演技にのめり込みすぎて、本当にトンでるんじゃないだろうな?
そんな不安がぬぐえない。
筑紫鏡也「ま、いっか。まずはキミからね」
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焦らしますな。ワクワク