ホラーコーディネーター

赤井景

エピソード12 星那アリス篇①(脚本)

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〇制作会社のオフィス
八代壬継「奥根さん、あの音声ファイルのことなんですけど・・・」
奥根久志「あれねー。僕も改めて聞きなおしたけど、ホントすごいよね。緊迫感がリアルで」
奥根久志「かえすがえす、元動画が手に入れられなかったのが残念でさぁ」
八代壬継「そもそもどういう動画だったんですか?  誰が作って、誰がアップロードしたんです?」
奥根久志「わからないなぁ。『マジでガチのやらせなし映像』って触れ込みだったみたいけど、まあ嘘くさいよね」
奥根久志「そうだ、鏡也氏、鏡也氏。何か知ってる? あのアングラサイト、鏡也氏が管理人だったよね?」
八代壬継「え、そうだったんですか!?」
筑紫鏡也「・・・一応。 でもほら、もう閉鎖しちゃったから」
奥根久志「ログくらい残してないの?」
筑紫鏡也「いやー、足がつくとヤバイものとかもあったんで、全部消したっす」
八代壬継「じゃあ、あの音声の元動画を手に入れることは・・・」
筑紫鏡也「ゴメン、無理」
八代壬継「そうですか・・・」
由宇勇「おう、お前ら。無駄話は終わりだ。 次の仕事が決まったぞ」
奥根久志「如月さんからですか?」
由宇勇「まあな。喜べ、野郎ども。 次のターゲットは久しぶりに女だ」

〇小さい会議室
由宇勇「というわけで、今回のターゲットは星那(ほしな)アリス。グラビアアイドルだ」
由宇勇「美人で体つきもエロい。 こりゃあウケる画が撮れるぞ」

〇黒
  星那アリス。24歳。
  本名は『保科亜沙美(ほしな あさみ)』。
  高校生のころに読者モデルとなり、事務所に所属。今は活躍の場をグラビアに移している・・・らしい。

〇小さい会議室
筑紫鏡也「軽くネットで評判を探ってみましたけど、相当性格が悪いみたいっすねぇ」
筑紫鏡也「後輩をいびったりとか、スタッフに横柄だったりとか、そういうのが日常茶飯事なんだとか」
由宇勇「ほう、いいじゃねぇか。 生意気であれば生意気であるほどいい」
由宇勇「そういう女の鼻っ柱を折るのはたまらんからな」
出水華「ちょっと、由宇さん。そういうの、表で言わないでくださいよ? ミソジニー丸出しすぎて確実に炎上しますからね」
由宇勇「はん、なにがミソジニーだ。 そんなもんを気にしてホラーが撮れるか」
由宇勇「だいたい、なんでホラーに女の子が付きものだと思う? なんでヒロインが散々ひどい目に遭うと思ってるんだ?」
由宇勇「そりゃあな、『女の子がきゃあきゃあ言いながら逃げ惑う』ってのに興奮するからだ」
由宇勇「そういうのが見たいっていう変態どもがいくらでもいるんだよ」
志摩礼香「・・・呆れた。女性どころか、ホラー愛好者まで蔑視してるんじゃない」
由宇勇「蔑視じゃねぇ。むしろ逆だ。人間が抱えてるのは、綺麗な感情ばっかじゃねぇだろ。表に出せないようなろくでもねえ衝動だってある」
由宇勇「俺たちはその糞みたいな衝動を『肯定してやる』のさ。変態どもが見たいと思っているものを映像化することでな」
由宇勇「『人よ、人の汚いところを愛せ』ってこった。むしろ人間賛歌だと言いたいね」
出水華「絶対違うでしょそれ・・・」
由宇勇「とにかく、せっかく画的に映えそうな姉ちゃんがターゲットなんだ。今回はとにかくビジュアルに凝りたい」
由宇勇「というわけで、そういう脚本を頼むぞ、礼香」
志摩礼香「はいはい。努力はしてみるわ」
志摩礼香「まあでも、まずは調査からね・・・」

〇レトロ喫茶
  数日ほどかけて、俺と礼香さんは「星那アリス」について調査を行った。
八代壬継「なんというか・・・すごいっすね、彼女」
  案の定というか、予想通りと言うか。
  少し調べただけで、彼女の悪評はすぐに聞こえてきた。
  しつこくいじめぬいて、自分より若くて有望な後輩を引退に追い込んだり。
  スタッフやマネージャーを下僕同然に扱ったり。
  それでいて、ある程度の力を持ったスポンサーやらプロデューサーにはあからさまに媚を売っていたり・・・。
志摩礼香「典型的な『同性に嫌われる女』ね」
八代壬継「ですよね」
志摩礼香「でも、彼女は『それだけ』だわ」
  そう。
  折野口や久里嶋とは、彼女は決定的に違っていた。
志摩礼香「星那アリスは、良くも悪くも、自分のことにしか興味がない」
志摩礼香「確かに目障りな相手には容赦なく攻撃をするけど・・・。相手が自分の視界から消えたとき、それでもう攻撃を止めるの」
志摩礼香「誰かを最後まで追い込むようなことはしなかった。少なくともこれまでは」
志摩礼香「なんだって如月さんは、彼女をターゲットに選んだのかしら?」
  これまで如月が指定してきたターゲットは、『誰かを死に追いやっておきながら、社会的な制裁から逃れている、ろくでもない人物』ばかりだった。
  しかし星那アリスは、誰かを踏みにじりはしているものの、決定的なところ──つまり「死」にまでは追いやっていない。
  彼女にイジメ抜かれた者は数多かったが、そのなかに自殺まで追い込まれた、という人間はいなかったのだ。
  それに、気になることはほかにもある。
  如月は俺に、『今度のターゲットは、きっと八代くんも気に入る』と言った。
  だが、星那アリスのなにをもって、如月は俺が『気に入る』と思ったのだろう?
  むしろ、これまでのターゲットの誰よりも、「ホラーを仕掛ける」ことに抵抗があるくらいなのだが。
志摩礼香「なんというか、あんまり乗り気がしないわね」

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