ぼくらの就職活動日記

大杉たま

エピソード6(脚本)

ぼくらの就職活動日記

大杉たま

今すぐ読む

ぼくらの就職活動日記
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇巨大ドーム
真田紅音「!」
真田紅音「すごい・・・」
若山柿之介「おおお、なんだべかこれ! 誰か来るだべか?」
真田紅音「僕たちだよ、みんなエリートピアの受験生を待ってるんだ!」
「赤坂だ、赤坂!」
「下北沢、次の会場は下北沢にあるわよ!」
「神保町だよ、ちょっと考えればわかる!」
真田紅音「・・・っ」
若山柿之介「はー、おらの村も夏はこんなんだ。 蝉の声しが聞こえねぐなんだ」
真田紅音「こんなんでよく落ち着けるな、こんな——」
「渋谷だよ、俺は答え知ってんだ!」
真田紅音「——嘘しかない中で」

〇川沿いの原っぱ
真田紅音「・・・はぁ」
若山柿之介「大丈夫だべか? 顔色悪いべ 今こそ梅干しだべ」
真田紅音「・・・・・・」
藤原一茶「なんや、えらいグロッキーやな」
真田紅音「・・・君、行ったんじゃなかったの」
藤原一茶「行ったで、そこのパン屋」
  手に持ったサンドイッチを、一茶(いっさ)がかじる。
藤原一茶「ランチタイム限定の卵サンド。 すぐ売り切れてまうねん」
若山柿之介「あ、おらも食いで」
  店の方へと走っていく柿之介。
藤原一茶「だから、売り切れとるっちゅうねん」
真田紅音「君は、どこが会場かわかってるの?」
藤原一茶「君いうのやめや。自分より4つも上や。 まあ一茶(いっさ)でええわ。藤原一茶」
真田紅音「4つ、上?」
藤原一茶「就職浪人いうやつ、今年でエリートピア受けんの4度目や」
真田紅音「・・・・・・」
藤原一茶「あの足の引っ張りあい見んのも、4度目や」
  紅音(くおん)が遠くの人だかりを見ると、人々が叫びあっている。
真田紅音「あれはなに、みんな嘘ばっかりで」
藤原一茶「実際に会場まで運んで応援するなんて、受験生の親ぐらいのもんや」
真田紅音「・・・・・・」
藤原一茶「自分の子にはチャットやらメールやらでこっそりホントの場所教えて、沿道からは嘘を吐き散らして、他の受験生を惑わす」
藤原一茶「就職戦争は家族みんなで乗り切りましょーという話やな」
真田紅音「・・・気持ち悪いな」
藤原一茶「はは、同感や」
真田紅音「自分の力でやんなきゃ意味ないだろ」
真田紅音「自分に自信がないなら、エリートピアなんか受ける資格ない」
藤原一茶「はっ、まあ、親が答えられるような、そんなショボい課題。エリートピアは出さん思うけどな」
真田紅音「え」
藤原一茶「自力でしか解けへんようになっとるやろ、当たり前やけど」
  スマホを見る一茶。
藤原一茶「お、ウチのオカンも答えわかった言うとる。 うちは絶対箱根が会場や思う、だと」
藤原一茶「めっちゃアホやん。そもそもあと50分じゃ物理的に行けへんっちゅうねん」
  慌てて腕時計を見る紅音。
  時計は「12:10」を指している。
藤原一茶「ほな、そろそろ行くわ」
藤原一茶「付いてきてもええで?」
真田紅音「・・・・・・」
藤原一茶「自分に自信が無いんやったら」
真田紅音「・・・まあ、もう場所の見当はついてるから」
藤原一茶「はは、人の嘘わかる言うとったくせに、自分めっちゃ嘘下手やん」
若山柿之介「売り切れでだ。卵さくれれば自分で作るって言っでも、くんねがった」
  しょんぼりして梅干しを食べる柿之助。
真田紅音「・・・君は、なんで僕についてくるの?」
若山柿之介「ん?」
真田紅音「僕らライバルでしょ、一応」
若山柿之介「なんでって言っても、おらこっちに知り合いもいねがら、友達がほしんだ」
真田紅音「ふざけてるのか」
真田紅音「試験中だよいま、内定選考の試験。 みんな、敵同士なんだよ!」
若山柿之介「・・・?」
真田紅音「・・・はぁ」
真田紅音「ホントに、友達になれると思ってるのが質悪い・・・」
若山柿之介「ん?」
真田紅音「君、名前は?」
若山柿之介「あれ、言っでながったか」
真田紅音「聞いたかもしれないけど、忘れたよ」
若山柿之介「若山柿之助(わかやまかきのすけ)」
若山柿之介「柿は、柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺、の柿だで。揚げたり醤油たらしたり、お腹痛くなったりする牡蠣じゃねえよ」
真田紅音「そうだと思ったよ」
真田紅音「僕は、真田紅音(さなだくおん)だ。 真紅の紅に、音楽の音」
若山柿之介「知っでる、見だもんな」
真田紅音「・・・ふっ」

〇駅前ロータリー(駅名無し)
  手帳を広げる紅音。後ろのページを開くと、路線図が載っている。
真田紅音「範囲は限られてる。センタードームから最大で一時間で行ける場所だ。そう遠くじゃない」
真田紅音「それに一時間、目一杯移動しないと着けない場所とは考えにくい。おそらく、最寄りの水道橋駅から30分ほどで行けるところ」
  紅音、水道橋駅を中心に、電車で30分圏内の場所をペンで囲う。
  一方、紅音にはお構いなしに、辺りをキョロキョロしている柿之助。
真田紅音「人事の人の話の中にヒントがあるのはわかってる。無駄話の中に出てきた駅の名前、たしか池袋、それと——」
若山柿之介「紅音さ、紅音さ」
真田紅音「なんだよ」
若山柿之介「スカイタワーって木はどれだ?」
真田紅音「・・・・・・」
若山柿之介「東京さ行ったら、これだけは見てこいっで言われたもんだども」
真田紅音「なんでこんなのと一緒に、ちっ」
  紅音の手帳を覗き込む柿之助。
若山柿之介「おー、おもっしょいのー。 おらの村は一本しか電車がねえがら、さすが東京だべ」
真田紅音「おまえ状況わかってるのか」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:エピソード7

成分キーワード

ページTOPへ