第125話 名前が持つ意味(脚本)
〇崩壊した噴水広場
2021年 イリノイ州 マディソン郡 イースト・セントルイス 西側エリア 広場
狙撃手「な、なんだあれ··· ··· ···人間···なのか?」
ライオネル・トンプソン「狼狽えないで!生物である以上脳も心臓も関節もある!なら倒せる!」
ライオネル・トンプソン「姫、予定変更!地上の奴の相手して!私達であの天使殺るから!」
刑部 常夜「よろしおす。ほなそういう訳やから···お兄はん方死にはってくれへん?」
ベリル・ノエル「普通に嫌だ···というかお前じゃ無理だよ···」
まもなく雨が強くなる。雨雲の羽を纏った天使が弦を引き、天へ向ける。そして
あの『息遣い』をした。
凪園無頼「マジで···?アレ···冗談っしょ?」
斎王幽羅「『ビート』だ···あの魔術師、ビート使いなのか!!?」
ライオネル・トンプソン「冗談でしょ!?なんで雨粒のエネルギーに弾丸のエネルギーが負けんのよ!」
ライオネル・トンプソン「というかこの呼吸···全員退避!急いで!」
ライオネル・トンプソン「『剣神』と『キックマスター』レベルのビートが来る!!」
アークエンジェル魔導天士「水のビート×天空魔術」
アークエンジェル魔導天士「『慈悲の槍雨』」
放たれた弦から飛んだ雨の矢は雨雲に溶け合い、雨雲から無数の穂先が顔を覗かせる
雨の槍が激しく地上に降り注ぎ、まさしく『槍が降った』のである
ライオネル・トンプソン「あーもう!こんな時グレゴリーでも居ればいい雨避けになるんだけどな!」
ライオネル・トンプソン「『焦燥弾』!!」
能力で弾倉全てを瞬時に撃ち尽くし、その熱エネルギーを保った状態で弾丸を放った
ライオネル・トンプソン「がっ···!はっ···はぁ···無事に帰れるかなこれ···」
身体中に刺された雨の槍は瞬時に形を崩し、残った物は『穴と血』だけだった
狙撃手「マスター!急いで中に、このままじゃ死んじまう!」
ライオネル・トンプソン「私が中入ったら誰が守んのよ···それに···奥の手だって···あるんだから···」
狙撃手「『魔の弾丸』を使う気か!?やめてくれ!!」
言葉が出なかった。あの剣神と渡り合った女が
あんな一瞬で重傷を負わされるなんて。あの魔術師は相当高位である事が理解できた
エンチャント魔導法士「がぁ···あぁ···!頭が···なんだ···!!」
封じ込める力に抗うように脳内が暴れる。記憶が思い出が感情が内側から荒々しく叩く
〇明るいリビング
2004年 アメリカ テキサス州 民家
あれは秋頃、ホームレスの女の子を拾った。善意とかではなく、ただの気まぐれだった
エンチャント魔導法士「何か食べるかい?あ、柔らかいものがいいかな。そうだな···うどんでも作ろうか」
必要な物を魔術で揃え、造形魔術でパパっと作り出した。あの子は驚いた様子だった
ホームレス「Can anyone do that?」
私は『学べばできる子もいる』と返答した。そして思い知った
エンチャント魔導法士(教会にも居らず、物乞いもせず···そうか···この子は···私と同じ···)
大した事情なんて知らなかった。それでも勝手に私は自分とこの子を重ねてしまっていた
エンチャント魔導法士「Does it have a name?」
首を横に振った。名前が無いと示したその子の前で膝を折り、同じ目線になり私は言った
エンチャント魔導法士「*君の名前はアンナ。アンナ・バージェス。どうかな?*」
あぁ···そうだ···あの子はここで初めて素顔を見せてくれた
不器用に、それでも少し幼さがある様な笑顔で、喜んでくれた
私の···ワシの···たった一人の···大事な娘。
この子の為に、ワシは魔術協会でカトリック狩りをやり続けた
アメリカにある白の教会を潰す。嫌なら参加しろ、エンチャント魔導法士
あの子が通う教会。思い出が、記憶が、想いが、詰まった場所。選択の余地は無かった
あの子にしてやれる事があるのなら···ワシは···
〇崩壊した噴水広場
2021年 イリノイ州 マディソン郡 イースト・セントルイス 西側エリア 広場
斎王幽羅「このままじゃヤバい···どうにか空気圧縮してでも雨を止めなきゃ···」
エンチャント魔導法士「どいてなさい。ワシがどうにかする」
刑部 常夜「アンタ···どないにウチの若返りの術を破りはったん?」
その言葉に返答はなく、斎王の警告も聞かずエンチャントは1歩外に出る。
斎王幽羅「エンチャントさん!!ん?···あれ?雨が···普通?」
イヴァン司教「エンチャント魔導法士···その姿···『50代頃』ですね?」
ベリル・ノエル「マズイ···天空魔術の弱点を知ってる。伸縮魔術すら使えないはずなのに···」
エンチャント魔導法士「雨の魔術は断続的に雨雲を作り、雨を武器に戦う。しかし体力消費も激しいのが難点」
エンチャント魔導法士「だからこそ水のビートを使う発想なんだろうが、水のビートも元は『空気中の水分』」
エンチャント魔導法士「『雨が降っているのに空気はカラカラ』という異常事態ができる。するとどうなる?」
エンチャント魔導法士「体を貫く雨が体温に負けて『蒸発』する程弱くなる」
イヴァン司教「良くお知りなようで···エンチャント魔導法士!」
瞬時に目の前に出現し造形魔術でナイフを生成。今まさに刺そうとした瞬間
エンチャントはただ強めにイヴァンの体を押して制する。イヴァンはまた
元の位置に瞬時に移動し、ありえない。という表情をしながらエンチャントは見つめた
エンチャント魔導法士「空間魔術の転移だな?AからBの空間を一時的に圧縮して瞬間移動」
エンチャント魔導法士「相手に攻撃してAに戻り、空間魔術が自動解除。だが弱点として圧縮できる時間が短い」
エンチャント魔導法士「冠位取得者ですら僅か5秒程しか圧縮を維持できない。だからちょっとした事で躓くと」
エンチャント魔導法士「この魔術は無意味に終わる。というところだ」
イヴァン司教「知りすぎてる···あれは異常です、どうなってるのでしょうか···」
ベリル・ノエル「識別魔術···恐らく冠位クラスだ」
イヴァン司教「識別魔術···?死角を補うくらいしか使い道がないはずです」
ベリル・ノエル「高位になればなるほど理解できない物を理解できるようになると言われてるけど」
ベリル・ノエル「14世紀でハサド・ムハンマドという学者が識別魔術をたまたま習得」
ベリル・ノエル「それにより、初歩とはいえ空間魔術や天空魔術を理解できたと言われている」
イヴァン司教「じゃあなんです?エンチャント魔導法士は炎、造形以外にも識別の冠位も取得している?」
ベリル・ノエル「だろうね···まぁ魔術を理解できたとして···能力は防げるかは別だけど」
ベリル・ノエル「『既読の空白!!』」
胸を抑えその場に膝を落とす。徐々に白くなる顔色に勝ちを確信していた
しかし、それはすぐに『間違い』だと気付かされることになる
イヴァン司教「立ち上がった···?肺に隙間を作り続けて酸素が入らないようにしてるはず···」
ベリル・ノエル「··· ··· ···肺を『作り直した』か」
エンチャント魔導法士「どうせ伸縮魔術で小細工してくると思ってな。それで?内臓系は効かないとわかったら」
エンチャント魔導法士「次はどうする?査問官ベリル」
頭上から大きな声が広がった。雨音に負けないその声はエンチャントを名指しした
アークエンジェル魔導天士「エンチャント!今ここでアンタがどれだけ非力かわからせてやるわ!」
手綱を取り、雨雲の馬と共に真っ直ぐに突進を始める彼女はギリリと弓の弦を引き絞る
彼女の羽は大きく広がり、やがて雨は上から下にではなく
エンチャントに対して『シャワーでも使ってるかのように』集中的に降り注いだ
アークエンジェル魔導天士「水のビート+天空魔術!」
アークエンジェル魔導天士「『絶えない涙!』」
嘶きと共に馬、弓、羽、雨雲から放たれた無限に思える『殺意』は
エンチャントに迷わず向かっていった。
アークエンジェル魔導天士「無限の殺意に貫かれなさい、エンチャント魔導法士!!」
エンチャント魔導法士「うむ、良い練度だ。高位魔術を長時間持続させ、いざとなればこの様な魔術をも使える」
エンチャント魔導法士「成長したなアンナ。水のビートを習得するのも苦労したろ」
エンチャント魔導法士「しかしだ、一つだけ教えておく。神王さんがよく言っておった事だ」
エンチャント魔導法士「技名なんか言ってる暇あったらサッサと決めちまえ、だ!」
アークエンジェル魔導天士「嘘でしょ!?なにあれ!!?」
ベリル・ノエル「シールド魔術の様に造形魔術を展開、あらゆる方向から来る雨の矢を全て」
ベリル・ノエル「『霧』に再変換か···流石造形魔術を極めた魔術師···」
エンチャント魔導法士「斎王!今のうちにライオネルの所へ行け!これだけ濃い霧なら居場所は掴めん!」
To Be Continued··· ··· ···


