第十話 「兄とは関わりあいたく無い」(脚本)
〇雑居ビルの一室
ペーターとディーシャは夢中になってドアを蹴っている。
ドガドガずどずどドガずどドガずど!
二人の蹴りにじっと耐えているドアの向こうから声がした。
こらー! やめろ! 今ドア開けるから!
ディーシャ・バジュランギ「お?」
奥山ペーターゼン「フッ」
ペーターとディーシャは蹴るのをやめる。
ドアがゆっくりと開き、中から景介が顔を出した。
奥山ペーターゼン「なんだキサマか、ふざけるな」
間宮景介「ふざけてるのはどっちだよ! ドアを壊す気かよ!」
奥山ペーターゼン「フッ、その通りだ。 カギが開かないならドアごと壊せばいい」
間宮景介「ダメに決まってるだろ!」
ディーシャ・バジュランギ「どうやって入った?」
間宮景介「窓のカギが開いてたんです。 部屋はそのまんま残ってますよ」
奥山ペーターゼン「フッ、入るぞ」
景介たちが部屋の中へ入っていく。
〇散らかった研究室
研究室は8畳ほどの広さで、殺風景な事務所という雰囲気だった。
古い本が床に積み上げられている。
奥山ペーターゼン「フッ、せま苦しい部屋だ」
ディーシャ・バジュランギ「ソファーもあるし、寝泊りできるね」
間宮景介「登くんの行き先がわかる物があればいいんだけど・・・」
景介たちは部屋の中を調べたが、登の行き先がわかるようなものは見つからない。
ディーシャ・バジュランギ「なあ、さっきの年賀状の人に連絡してみたらどうだ?」
ディーシャ・バジュランギ「お兄さんはよく手紙を送っていたのだろ?」
間宮景介「確かに、何か知っているかもですね」
景介はスマホで大学の広報課を調べ、電話をかけた。
間宮景介「人文学部1年の間宮と言います」
間宮景介「ちょっと訳がありまして、去年までそちらにいた永倉彩乃さんの連絡先を教えてほしいんです」
広報課は個人情報保護のため教えられないと言う。
景介がなんとか教えてもらおうと粘っているとペーターがスマホを奪い、担当者と話し始める。
奥山ペーターゼン「おいキサマ、ごちゃごちゃ言ってるとブン殴るぞ」
間宮景介「やめろペーター!」
奥山ペーターゼン「さっさと連絡先を教えろと言っているんだ。教えるorダイ、どっちだ」
間宮景介「やめろってば!」
奥山ペーターゼン「フッ、切られた。腰抜け職員め」
間宮景介「あたりまえだよ!」
奥山ペーターゼン「フッ、これでキサマの名前は問題学生リストに太字で載ったな」
間宮景介「消してこい!」
ディーシャ・バジュランギ「景介、面白いものを見つけたぞ」
そう言ってディーシャはつまんだ指先を見せる。
間宮景介「なんです?」
ディーシャ・バジュランギ「長い髪の毛だ。寝室のベッドにあった。 これは間違いなく女の髪だぞ」
ディーシャ・バジュランギ「景介のお兄さんが永倉彩乃という女に好意を持ちながら、他の女をベッドに入れていたという決定的な証拠だ」
間宮景介「あの真面目な登くんがそんなことをするとは思えないけど・・・」
景介がふと時計を見ると、キャンパス方面へ帰る学内バスの最終便が出る時間だった。
間宮景介「しまった! 学内バス!」
一般キャンパスまでは歩ける距離ではない。
この日はここで一泊することとなってしまった。
〇散らかった研究室
夜になり、景介たちは小さな灯りの下に集まっている。
間宮景介「明日も授業あるし、ディーシャさんは朝のバスで帰ってください」
間宮景介「僕は2週間しかないのでここに泊まりながら登くんを探します」
ディーシャ・バジュランギ「ワは帰らない。 アニメは一気見したいタイプなんだよね」
間宮景介「どういうことです・・・?」
奥山ペーターゼン「フッ、2週間限定配信のアニメを、キサマが死ぬ最終話まで一気に見たいということだ」
間宮景介「なるほど・・・って、僕は死なないよ! 最終話はキラキラキャンパスライフだよ!」
ディーシャ・バジュランギ「授業行くよりこっち見てる方がおもしろいからこっちにいる」
間宮景介「ディーシャさんありがとう。 いてくれるだけで心強いです!」
ディーシャ・バジュランギ「楽しい展開を期待しているぞ」
やがて夜も更け、徐々にヒマを持て余し始める景介たち。
ディーシャ・バジュランギ「なあなあ、お兄さんってどんな人?」
間宮景介「登くんは真面目で優しくて、勉強もスポーツも得意で、僕は小さい頃から兄が大好きなんです」
ディーシャ・バジュランギ「仲良し兄弟だ」
間宮景介「でも、大学ではあまり関わらないようにしようと思ってたんです」
ディーシャ・バジュランギ「なんで?」
間宮景介「僕は今まで、親とか登くんの意見に流されてばかりだったんですよ」
間宮景介「父に言われて野球をやってたし、登くんに言われた通りのプレーをしてました」
間宮景介「高校も父の母校に登くんの誘いで入ったんです」
ディーシャ・バジュランギ「そしたら暗黒時代になってしまったのか」
間宮景介「そうなんです」
間宮景介「僕をこんな地獄に追い込んだのは父や登くんだと恨んだんですけど、それって違うなと気づいたんですよね」
間宮景介「いくらでも自分の意見を言う機会はあったんですよ」
間宮景介「言わずに周りの意見に流されたのは僕自身です」
間宮景介「それなのに他人のせいにして他人を恨むなんてクソ野郎ですよ」
奥山ペーターゼン「フッ、大バカクソ野郎の甘ったれ僕ちゃんだ」
間宮景介「自分の意志で物事を決められる人になりたいと思ったんです」
間宮景介「なのにまた兄と同じ学校へ来てしまいました」
ディーシャ・バジュランギ「お兄さんの影響なのか?」
間宮景介「違うと思いたいです」
間宮景介「憧れのキラキラキャンパスライフを送るためにベストな大学を自分で選んだつもりです」
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