33 そして今へ(脚本)
〇森の中
一門の女「はあ、はあ」
ハランは、一門の女が身をひるがえす間もなく、地面に組み伏せた。
ハランがスッと手をかざすと、女の袂(たもと)から道具が転がり出た。
一門の女「今さら回収しても無駄よ」
組み伏せられながらも、一門の女は不敵に笑った。
一門の女「「御霊の球」は捕縛の道具」
一門の女「大勢を安全に外に出す術がない」
一門の女「もう多くの人々が中に入っている」
一門の女「助けたければ、道具を運用するしかないわ」
一門の女「賽(さい)は投げられたのよ!」
ハランは道具を手に立ち上がった。
一門の女「姉君なら人々を見捨てず、道具を運用してくれる」
一門の女「慈愛(じあい)の人だもの」
ふと、女の眉間に寄ったシワがほどけた。
一門の女「ねえ」
一門の女「答えてください、ハラン様」
一門の女「生活の保証を求めることは悪ですか? 穏やかに生きることを望むのは、罪ですか?」
一門の女「貴女がどれほど厳しい道を歩んできたかは、存じています」
一門の女「だからこそ──」
一門の女「皆、貴女のように強くはなれないのです」
言い終わるや、一門の女はハランに躍りかかった。そして──
一門の女「私だってずっと、その道具が欲しかった!」
ハランは止めなかった。
ただ、地面に転がった道具を、両手で掬い上げた。
〇屋敷の一室
鈴蘭(リンラン)「道具の維持に、師姉(しし)の力を使う?」
姉君「「球」に私の力を預けます。そうすれば、少しは安定するわ」
鈴蘭(リンラン)「しかし、万が一道具が壊れでもしたら」
姉君「私の力──道具を創生する術を、失うでしょうね」
鈴蘭(リンラン)「でしたら──」
「代わりに私が」
その言葉を飲み込んで、鈴蘭は姉君の手を取った。
姉君の他に誰が、球の維持を務められようか。鈴蘭は握る手に力を込めた。
鈴蘭(リンラン)「私は「球」の中に入ります」
鈴蘭(リンラン)「姉君が外から制御して、私が中から補助をすれば・・・」
鈴蘭(リンラン)「「球」はより安定するでしょう」
姉君「そうね。お願いします」
盗まれた91個の「球」のうち、90個は回収した。
しかし、巷(ちまた)にはすでに「球」の模倣(もほう)品が出回っていた。
鈴蘭(リンラン)「模倣(もほう)品の作成まで仕込まれていたなんて」
姉君「特定の一派の仕業だけでは、ないでしょうね」
鈴蘭(リンラン)「・・・国が?」
姉君は手を上げて鈴蘭を制した。
姉君「ともかく」
姉君「人々が「球」に救いを求めたのなら」
姉君「助かるように努めましょう」
「球」はすべて一つの空間に繋がっている。
模倣品も例外ではなかった。
「球」には、人が増えるばかりだった。
姉君「貴女は「球」の中へ」
姉君は、組み紐を鈴蘭に手渡した。
姉君「模倣品は、別途対応しています」
姉君「貴女は「球」を頼みましたよ」
鈴蘭(リンラン)「はい、師姉」
〇森の中
シャラは、森の中を進んでいった。
朝露にぬれた草むらに、道具がぽつんと転がっていた。
シャラは足元の「球」を掴み上げ、光にあてた。
シャラ「・・・・・・バカが」
〇黒背景
そして、名もなき試作品──「球」は動き出した。
多くの人々の運命をのせて。
ミムレット「父さん!」
ハパルム「お兄ちゃん!」
シャラ「いつまであの女に縛られる?」
男性「最後まで、ここで過ごさせてもらうよ」
鈴蘭(リンラン)「「球」は、壊させないよ?」
ハラン「それでも──だからこそ私は」
ハラン「「球」を壊す」



様々な人々の思いが交差して切ないですね!!
我々も、地球という一つの球の中で生きていますが…
なかなか理解し合えない、争いは絶えないと実感します。
そうした寓意性のある傑作ですね😀