見下ろしたら夢

チホ

エピソード1(脚本)

見下ろしたら夢

チホ

今すぐ読む

見下ろしたら夢
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇ボロい家の玄関
  そろそろ宝物を手放そうと思う
  夢をかき続けてきた日記帳
  もう、必要ないだろうから

〇住宅街の公園
白雪(三郎さんだわ 今日もステキな毛並み カッコイイ!)
白雪「あの、三郎さん・・・ よろしかったら、これ、どうぞ つまらないものですが」
野ばら「三郎さーん、待ってたわ これ、食べて 三郎さんのためだけに持ってきたの」
三郎「洋菓子屋の白雪さん、焼き芋屋の野ばらさん、ありがとう いただくよ」
白雪「いいんですのよ、これくらい 私の家にあそびにいらっしゃいませんこと?」
野ばら「ちょっと、白雪 三郎さんはね、洋菓子より芋派なんだから、じゃましないでよ ね、三郎さん、私の家に来てよ」

〇住宅街の公園
くまどん「君、すごいねー モテモテじゃん」
三郎「わっ、クマ!? うそ!?」
くまどん「おどろいた?ごめんごめん 山の上から見てたらさ、すっごいモテてるやついるなーと思ってね 秘訣を教えてもらおうかと」
とりきち「その秘訣、僕にも教えてよ」
ホース「拙者にも教えていただきたいものだ」
  俺はモテる、モテてしまう
  隣町のガールからもプレゼントが届くほどなんだ
  このスタイリッシュな毛並みのせいさ

〇古いアパートの部屋
  どこのトリミングサロンに行ってるのかって?
  そんなところに行ったことなんてないさ
  俺の主人のサチコが、俺の専属スタイリスト
  サチコは美容師なのかって?
  まさか、ちがうよ
  俺だって不思議だと思ってるんだ
  どうして、こんなに俺をピカピカにできるのか
  その理由を知ったのは、4月のある月曜日「燃えるごみの日」だった

〇桜並木
  玄関に置いてあるごみ袋に、あのノートが入っていた
  サチコが毎晩ながめていたノート
  ボロボロだけど大切なもの
三郎「サチコ、あのノートがゴミ袋に入っているぞ それは、ゴミじゃないだろ」
  俺はごみ袋を破いて、ノートを取り出した
  それは、長い間書き続けてきた日記帳だった
  俺は、サチコの夢を知った
サチ「三郎、何してるの、こんなに散らかして! それは、もういらないのよ」
  いらないって・・・
  サチコのあこがれの地「渋谷」
  そこでスタイリストになることが、サチコの夢だった
  サチコの夢は散ってしまったんだ
  17歳のサチコが夢見ていた将来
  半世紀以上がたった今も、サチコは忘れずにいる
  叶うことがなくても

〇SHIBUYA SKY
  日記帳の最後の一行には、こう記されていた
  「渋谷の街はどんなだろう」
  どんなだろう・・・
  きっとピカピカしてるだろうな、キラキラかもしれない
  俺の毛並みみたいにな
三郎「サチコ、渋谷へ行こう! そりゃ東京は遠いけど、飛行機だってなんだってあるし スタイリストにはなれなかったけどさ」
サチ「そうだねぇ、行けたらどんなにいいだろうねぇ」
  サチコは俺の言葉が聞こえたように答えた
  わかってるよ、サチコには、そんな遠くまでいける体力は残っていない

〇病室のベッド
  入院することだって決まってる
  だから、いろんなもの捨ててるんだろ

〇古いアパートの部屋
  今日はサチコの誕生日だ
  サチコと俺は、毎年、小さいケーキをわけ合って食べた
  それなのに、今年は・・・
  豪華なケーキだ、見たことがないくらい
  まるで、これが最後の誕生日みたいじゃないか
  俺からサチコへのプレゼントは四つ葉のクローバー
  渋谷への旅をプレゼントできたらどんなにいいだろう
  そう思った時だ
  玄関の方で、カタンと音がした
  ポストに入っていた封筒に入っていたもの
  「喜寿のお祝い 渋谷遊園地招待券」
サチ「喜寿のお祝い?役場から届いたのかねぇ」
  渋谷!?
  このへんにそんな名前の遊園地あったかな?
三郎「サチコ、行ってみようよ! 近くだからいけるよ 俺もついて行くからさ!」
サチ「渋谷に行くんじゃ服をさがさないとね」
  あの「渋谷」に行った気分になれるなら、悪くない。四つ葉のクローバーが幸運を運んできたのかもな。

〇土手
  サチコと俺は、遊園地を目指した
  見慣れた道を行くと、それは突然現れた

〇遊園地
サチ「渋谷に着いたね」
  こんなでかい遊園地
  いつの間にできたんだろう
  サチコがうれしそうだから、ま、いいけどな

〇空
  サチコと俺は観覧車に乗った
  どんどん登っていく、空が近づいてゆく
  街を見下ろすと・・・
  あれ、どったで見たような
サチ「渋谷⁈」
  そうだ!! 本物の渋谷の街だ
  テレビで見たあの街だ
  ってことは、ここ「渋谷」!?

〇観覧車のゴンドラ
  あれ、サチコ!!
  17歳になってる!?
  幻!?
サチ「ねぇ、スイーツ食べに行こうよ」
三郎「本物だ! 行こうぜ!」
  サチコと俺は、観覧車を飛び出して街へでた。

〇SHIBUYA109
  サチコ、俺は元気でやっています
  俺、渋谷に住んでるんだ、本物の
  今の飼い主さんが渋谷の人だなんて、びっくりだろ?
リック「ねぇ、君 イケメンだね、モデルでもやってるの?」
バードン「へぇ、きれいな毛並みしてるじゃないの」
  俺の毛並みは「渋谷」でも評判です
  ずっとサチコがトリミングしてくれてたからね
  サチコは一流のスタイリストだよ
  この街は、あの日、サチコと観覧車から見た景色と同じだよ
  やっぱり、あれは、本物の渋谷だったんだ

〇ハチ公前
  サチコ、待ち合わせはハチ公前にしよう
  時間は気にしないで
  いつまでも待ってるからさ
  サチコが来たら、久しぶりにトリミングしてほしいな
  それから・・・
  そうそう、スイーツ食べに行こうよ
  夢のようにおいしいらしいんだ
  あの日食べたのと同じくらいにさ

コメント

  • 憧れの渋谷は夢だったんでしょうか。
    夢でも最後に景色が見られてよかったです。
    毛づやのいい猫は、いっぱいサチコさんにかわいがられてたんでしょうね。
    切なくなりますがいいお話でした。

  • 夢が叶わなかったおばあさん。日記を捨てる気持ちがとても悲しかったです。人間と猫の会話は、強い絆と深い愛情でとても感動しました。

  • 沢山の猫達に人気の三郎はさちこに愛情たっぷり育てられたのでしょうね。三郎の自慢の毛並みはさちこの夢のように感じました。言葉は交わさずも人と猫が想い合う光景を想像しながら素敵な気持ちにさせてもらいました。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ