16 償いの行方(脚本)
〇闇の要塞
見る間に白く変わる地面を踏みしめて、砦らしき場所を探し当てた一行。
ハパルム「本格的に降ってきたね」
ミムレット「何でもいいから、中に入るぞ!」
ミムレットは、ハランの袖をつかんで引っ張った。
ミムレット「さっきからハランが「寒い」しかいわないんだから!!」
ハパルム「確かに寒いけど、そんなにかな?」
ハパルム(あ!そうか。ハランさんは人間)
ハパルムが慌ててミムレットへ、耳打ちした。
ハパルム「具合が悪くなっちゃったんじゃ?」
ミムレットは片耳をハランの方へ向けて、首をかしげた。
ミムレット「足取りはしっかりしてるけどな」
ハパルム「我慢してるだけかも」
ハパルム「荒野は、やっぱり人間には過酷なんだね」
ミムレット「あの様子だと」
ミムレット「人間だからっていうより」
ミムレット「ハランが寒がりなのかもな!」
ハパルム「えぇ、大丈夫かな」
雪はますます降り積もっていった。
仲良く絡む二人をみやって、ハランはため息をついた。
ハラン「雪の中、元気だこと・・・」
その時、ひときわ強く風が吹いた。
ハラン「うっ・・・寒い・・・」
ハラン「・・・しかし、これほどの綻びとはな」
ミムレット「置いてくぞ!ハラン」
ハラン「ああ」
ハラン「・・・寒い」
ミムレット「しょうがないやつだな、もう」
〇要塞の回廊
ミムレットが先陣を切って建物に入った。
ミムレット「ここも、もぬけの殻か?」
突然、物陰からモンスターが現れた。
ミムレット「ニャッ──」
ミムレット「フシャァァア!!」
ミムレット「フッ―」
ミムレットは、尻尾をボワッと膨らませたまま、モンスターを撃退した。
ミムレット「なあ、ハラン」
ハラン「うん?」
ミムレット「前に言ったよな?」
ミムレット「「街の中にはモンスターは居ない」って!」
ハラン「基本は、な」
ミムレット「居るじゃないか!あっちこっちに!」
ミムレット「どうしてだ?」
ハラン「それは・・・そうだな・・・」
ハランは、珍しく言葉を濁した。
ハラン「モンスターは、基本的には街に入ってこない」
ハラン「筈なんだがな」
ミムレット「今いたじゃないか」
砦の紋章を見つめていたハパルムが、二人の元に戻ってきた。
ハパルム「・・・街の中でモンスター化した、から?」
ミムレット「街の住人が、ってこと?」
ハパルム「よそから来た人も」
ハパルム「街の中でモンスター化したら、街の中だけをうろつくモンスターになる」
ハパルム「・・・私の街では、そうだったよ」
ハパルム「お兄ちゃんも、他の人も」
ハランは、ハパルムとミムレットを交互に見やると、短く息を吐いた。
ハラン「そうだよ」
ハラン「君は、良く観察している」
ハラン「前に言ったな。人が諍いを起こすと、モンスターになると」
ハラン「モンスター化する、諍いの条件は」
ハラン「人を殺(あや)める行為だ」
ハパルム「人を」
ミムレット「殺める・・・」
ハランは刺すような隙間風に身を屈めた。
ハパルム「と、とにかく休みましょう?」
ミムレットは、遠ざかる二人の背中を見つめた。
ミムレット「じゃあ、アタシの街にいたモンスターは」
ミムレット「父さんを、殺したやつらだった?」
ハパルム「ほら、ミムレットも行こう?」
ハパルム「ミムレット?」
ミムレット「ハパルム」
ミムレット「モンスターって、後悔とかするのかな」
ハパルム「えっ」
ハパルム「私は・・・」
ハパルム「私は、人の心が残っていない。 と信じたい、かな」
ハパルム「お兄ちゃんが倒れた瞬間まで、モンスターとして、空っぽであって欲しい」
ハパルム「お兄ちゃんが、最期まで苦しんだなんて、考えたく・・・ない」
ミムレットは、胸元から指輪を取り出した。
ミムレット「アタシは、父さんを殺された」
ハパルム「そう・・・だったんだ」
ミムレット「「球」の中だったかも分からない。でも」
ミムレット「でも、アタシの「故郷の街」をうろついてたやつらが、仇(かたき)だったなら」
ミムレット「アタシは・・・父さんを殺したやつらが、モンスターになろうがどうしようが」
ミムレット「目一杯後悔して、苦しんで、苦しみ抜いて、消えたって、思いたい」
振り乱すように頭(かぶり)を振って、自身の髪をぐしゃりと掴んだミムレット。
ミムレット「アタシの手で」
ミムレット「あいつらに、償わせてやったんだ、って」
消え入るような声は、大粒の涙と共に地面へと落ちていった。
ハパルムは、ゆっくりと腕を伸ばし、ミムレットを抱き締めた。
かつて、ミムレットがそうしたように。
ハパルム「そうだと良いね」
ハパルム「お互いに」
ミムレットは腕で涙を払うと、立ち上がった。
ミムレット「泣くのはおしまいだ」
ミムレット「ハランの様子を見てやらなきゃ」
ハパルム「うん」
歩きかけて、ミムレットは振り返った。
ミムレット「ありがとな、ハパルム」
ミムレット「話を聞いてもらえるって、良いもんだな」
ハパルム「そうでしょ?」
走り去る銀髪に、ハパルムは叫んだ。
ハパルム「ミムレットが、教えてくれたからね!」


