〇駅のホーム
不破誠（長い一日だった。 こんな生活一週間持つかどうか分からない）
不破誠（いや、明日辞表を提出しそうな気さえする）
不破誠（やはり俺に会社員なんて無理な話なんだ）
不破誠（なにがボーナスナックだ。笑わせるな）
「引退してもいいんですよ」
灰島竜也「どうも、レジェンド」
不破誠「・・・・・・」
灰島竜也「仕事放棄しようと考えてたんじゃないですか？」
不破誠「・・・・・・」
灰島竜也「図星ですか」
不破誠「・・・靴は変えたようだな」
灰島竜也「その節は忠告ありがとうございます」
不破誠「・・・・・・」
灰島竜也「あの時はボスの前だったから言葉を選んでましたけど、この際だからはっきり言わせてもらいますね」
不破誠「・・・・・・」
灰島竜也「邪魔なんだよ」
灰島竜也「あんたが失敗すれば組織の評判が下がって俺らの仕事が減る」
灰島竜也「だから消えてくれよ」
不破誠「・・・・・・」
灰島竜也「なんなら、俺が消してやろうか？」
不破誠「・・・・・・」
灰島竜也「おっと、今日はこの辺で」
結城あかり「やっぱり不破さんだ」
結城あかり「家、同じ方面なんですね」
不破誠（まさかの奇跡！ 運が俺に向いてきた）
結城あかり「お住まいはどちらなんですか？」
不破誠（これを逃したらダメだぞ不破誠。 落ち着くんだ）
結城あかり「すいません、詮索されてるみたいで嫌ですよね」
不破誠（くそ！ 何も言葉が出てこない）
不破誠（そうだ、来週誕生日というとっておきの情報があるじゃないか！）
結城あかり「あ、不破さんの歓迎会を開こうって皆で話してるんですけど、近々空いてる日あったりしませんか？」
不破誠（そんなもの永遠に開かなくていい）
不破誠（今はお前の誕生日だけが知りたいんだ）
結城あかり「そういうの苦手ですか？」
不破誠「・・・来週」
結城あかり「よかった、ありがとうございます」
結城あかり「来週歓迎会しましょうね」
不破誠（違う！ お前の誕生日のことを言おうとしたんだ俺は！）
結城あかり「電車来ましたよ」
不破誠（いや、ここで卑屈になってはいけない！）
不破誠（流れはきてる。俺はできる！）
結城あかり「不破さん？」
不破誠「知りたいです、あなたのこと」
結城あかり「え？」
不破誠（・・・求婚みたいになってしまった）
結城あかり「不破さんが同じ考えの人で嬉しいです！ 仕事は人間関係が大切ですよね」
不破誠「・・・・・・」
結城あかり「明日のお昼休みゆっくりお話しませんか？」
不破誠「・・・・・・」
結城あかり「電車、早く乗らないと扉閉まりますよ」
不破誠（上手くいったのか？）
不破誠（俺はこの女を誘い出すことができたのか！）
結城あかり「乗らないんですか？」
不破誠（ふふ、お前はもう完全に俺の手の中だ。 逃がさんぞ）
結城あかり「私、先帰りますけど・・・」
　　ドアが閉まり、電車が去っていく。
不破誠（さぁて、仕事の始まりだ）

〇占いの館
不破誠（時間が経ったら弱気になって、結局ここに来てしまった）
占い師「また悩みが増えてらっしゃいますね」
不破誠（全てを解消してくれ。あんただけが頼りだ）
占い師「女性の姿が見えます」
不破誠（やはりこの占い師には見えている。 さすがだ）
占い師「この女性と上手く接することで道が開けるようです」
不破誠（コミュニケーション力を磨くほかないのか）
占い師「不破さんのテリトリーに誘い込んでみるのはどうでしょう」
不破誠（テリトリー？）
占い師「力が発揮できる場所、落ち着く場所、不破さんが不破さんでいられる場所へ・・・」
不破誠（俺が俺でいられる場所）
占い師「・・・あの、いかがでしょう？」
不破誠（そんな場所あるのか・・・）
占い師「・・・私、お力になれていないのでは」
不破誠（あそこか！）
占い師「不満があるなら言ってください。 直しますから・・・」

〇ゴリラの飼育エリア
不破誠「俺が俺でいられる場所は、ここしかない」
不破誠「なぁ、ゴリ男よ」
ゴリラ「・・・・・・」
不破誠「・・・しかし」
結城あかり「あの、どうして動物園なんですか？」
不破誠（もっともな質問だ）
結城あかり「会社のすぐ裏にあるのに来たことなかったんですよね」
不破誠（昼休憩に来られる距離で助かった。 かなり不自然さはあるが・・・）
結城あかり「不破さん、動物好きなんですね」
不破誠（残念ながらそれは違う）
結城あかり「あっちにキリンがいますよ？ 見に行ってみませんか？」