読切(脚本)
〇渋谷の雑踏
今日の大学での授業を終えて、俺は同級生の友人と渋谷にいた。
彼とは受講する講義も同じものが多く、最近はよく行動を共にしている。
今日も帰りにメシでも食おう、という流れになり大学から程近い渋谷の街に繰り出してきた。
が、まだ少し夕食には早い時間のため、今はスクランブル交差点を見下ろせるカフェで時間を潰しているところだ。
〇カウンター席
席についてコーヒーに口をつけながら、スクランブル交差点を眺めていると、おもむろに友人がこんな話を始める。
友人「なあ、そこの渋谷スクランブル交差点。 都市伝説というか、とある噂話があるの知ってるか?」
俺「いや、特に聞いたことないな。 どんな都市伝説だ?」
たいして興味も無かったが、スクランブル交差点の人の流れをぼんやりと眺めたまま、相槌がてらに問い返した。
友人「まず渋谷スクランブル交差点には中央のエリアを囲うように4本の横断歩道があるな?」
友人「そしてハチ公広場から対角線、中央エリアを斜めに渡る横断歩道の計5つの横断歩道がある」
俺「・・・なるほど。あるな」
あらためてスクランブル交差点の横断歩道に目をやる。
確かに5つの横断歩道があり、上から見ると長方形とその対角線のように見える。
友人「この横断歩道の白線の本数なんだがな。 5つともその本数が”素数”になってるんだ」
俺「”素数”っていうとあれだな? 「1」と「自身の数」でしか割り切れない数字っていう・・・」
友人「そう、その素数。 ここの横断歩道の白線の本数はそれぞれ、 17本、19本、23本、31本、37本ある。 どれも素数だ」
俺「へぇ・・・どれも本数が違うのか。 でもそんなのたまたま、偶然だろ」
友人「横断歩道の白線とその間隔は、共に45cmと決まっている」
友人「道幅によってその本数が決まるわけだから、まあ偶然と言える」
友人「だがな。 その本数すべてを足すと」
友人「17+19+23+31+37=127」
友人「これまた素数になる」
文系の自分には数学的にそれが珍しいことなのかわからなかったが、
確かに少し不思議なことのように思えてきた。
友人「こういうあまりに ”人工的に整ってしまった場所”っていうのは、」
友人「とにかく不思議なコトが起こりやすい スポットになる、ってことらしい」
俺「そこでいよいよ都市伝説ってワケか。 いったい何が起こるんだ? 神隠しにでも遭うのか?」
友人「そうそう神隠しで人がいなくなったら、 もうちょっと騒ぎになるだろうな」
俺「じゃあ・・・」
友人「人が消えるんじゃない・・・」
友人「”増えるんだ”」
俺「!!!!!!!」
〇渋谷のスクランブル交差点
いつの間にか日は落ち、
スクランブル交差点もすっかり夜の帳に包まれていた。
俺「増える、ってどういうことだ!? ・・・ あれか? アニメやゲームでよくある、 異世界から召還的な、そんなやつか!?」
正直、都市伝説の内容は予想外だった。
少し驚きながらも、茶化したように訊き返す
友人「いいや。 ただ増えるんだ」
いつしか友人の表情からは笑みが消え、
真剣なまなざしで先を続ける。
友人「渋谷スクランブル交差点を渡った人間 ・・・ その人間がもう一人、増えるんだ!!」
俺「そんな・・・ 俺だって何度も渡ってるけど、 増えたのなんて見たこと無いぞ!!」
俺はムキになって言い返す。
友人「もちろん目の前でいきなり増えるわけじゃない。 いつ、どこで増えているのかはわからない」
友人「だがそいつは、いつか必ず本人の前に 姿を現す」
友人「この世界に同じ人間は2人もいらないからな」
俺「・・・ まるで見てきたような言い方だな」
友人の口調は熱を帯び、空気も張り詰めてきた。
俺もすっかり気圧されてしまっている。
友人「・・・ 信じられないような話だと思うが」
友人「本当のことだぜ」
友人「俺が・・・」
友人「俺がその”増えた人間”だからな!!」
俺「!!!!!!!!!!」
俺「・・・ 何を言ってるんだ!!」
俺「じゃあ何か。 どこかにもう一人、本物のお前がいるってことか!?」
怒鳴る俺に、友人は静かに言う。
友人「さっきも言ったろ? この世に同じ人間は2人もいらない、って」
俺「そんな!!!!!! ・・・・・・じゃあ!?」
友人「ああ・・・ 俺がもう一人の自分を襲って・・・消した」
友人「気が付いたときには、もう俺は俺で・・・」
友人「ただ、もう一人の自分がいて、そいつを消さなければ生きていけない、 その思いだけが強くあった」
友人「だから俺はその通りにした。 そしてこうやって、ただ一人の自分として 生きている お前と出会うより前の話だ」
冗談を言っているとは思えない・・・
しかし、なぜそんな話を自分に・・・
友人「都市伝説の風を装って話を始めたのは、 とにかくまず話を聞いて欲しかったからだ」
友人「突拍子も無い話だからな」
友人「だが本題はこれからだ」
友人「俺がお前に本当に伝えたかったことは・・・」
何だ・・・?
何があったんだ?・・・
何を言おうというんだ・・・?
友人「・・・ 今日、大学でもう一人のお前を見かけたんだ!!」
俺「!!!!!!」
俺「そんな・・・・・・まさか・・・ 嘘だろ!?」
友人は首を横に振る。
友人「お前は俺が”ただ一人の俺”になってから、 初めてできた友達だ」
友人「だからどうしても伝えたかったんだ」
友人は席を立ち、その去り際に言った。
友人「生き残るのが”お前”の方であることを 祈っているよ」
友人の言葉が真実なら、私は逆にもう一人の自分に逢ってみたいし、なんなら共存したいです。悪用するとかではなく、辛い時など本当にその状況を分かち合える唯一かもと考えるからです。
興味深く面白かったです。
交差点の素数の話は初めて知りました!そんな風になってたんですね。
どっちも彼だけど、今自分が話してる彼に生き残って欲しい…って言うのはわかる気がします。
すごい才能ですよね、うらやましい。読み進めながら、なぜかドキドキするような、、、なんか不思議な作品でした。まだ続きがあれば読んでみたいです。