スーツランナー物語

悠々とマイペース

泥の中の光(脚本)

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〇昔ながらの一軒家
  土の匂いが変わったのは、昼ごはんの少し前だった。
  庭でボールを蹴っていた俺の足にぬるっとした違和感がまとわりつく。
  先ほどまで硬かった地面の土が急に柔らかくなっている。
???「駿〜、ご飯だよ〜」
  いつもの母ちゃんからのご飯の合図がしたその時だった。
  山が唸った。

〇昔ながらの一軒家
  空気が揺れて、鳥達が一斉に飛び出す。
  次の瞬間には、茶色の壁が押し寄せてきた。

〇黒
  次に意識を取り戻した時、俺は真っ暗な世界に居た。
  今、自分の身体がどうなっているかも、母ちゃんや父ちゃんがどうなっているのかさえ分からない。
  暗い、寂しい、怖い・・・様々な感情が押し寄せて、いつしか涙が流れていた。
(ああ・・・きっと、この声は届かない)
  子供ながらに悟ってしまった瞬間だった──。

〇空
  バキンッという板を踏み抜いた音ともに最初に見えたのは、靴だった。
  普通の靴ではなく、 分厚い金属のフレームに覆われた足。
  泥の中でも沈まないように、底が広くて、ごつごつしている。
  その足が一歩踏み込むだけで、周りの木片や瓦礫が押しのけられた。
???「大丈夫だ、すぐ出す」
  全身を骨組みみたいなフレームと装甲で固めた“何か”が、狭い隙間からかがみ込む。
  ヘルメット越しの声は落ち着いており、俺を押しつぶしてた支柱を、その人は片手で持ち上げた。
???「坊主、動けるか?」
  黒いバイザーの奥で、視線が俺を捉える。
  痛くて苦しくて、今にも泣いて喚いてしまいそうだったけど、その時だけちゃんと声が出た。
「動ける」
???「よし。じゃあそのまま手を握れるか?」
  差し出された手を握ると、軽々と抱え上げる。
   金属の腕なのに、痛くない。
   胸の装甲が冷たくて、でも、不思議と安心した。
  母ちゃんも、別のスーツの人に支えられている。
  父ちゃんは担架みたいな板に固定されて、足に何か巻かれていた。
???「全員確保。外へ搬出する!」
  誰かが叫び、俺たちは崩れた家の隙間から運び出される。

〇黒
  外の世界は、さっきまでの町じゃなかった。
  泥と瓦礫と、泣き声と、サイレンの音。
   その中を、同じスーツを着た人たちが走り回っていた。
  パワードスーツ。
   あとでそう呼ばれることを知る、その“ヒーローの形”。

〇学校の体育館
  避難所にそのまま連れて行って貰った俺にさっき助けてくれた人が、俺の目線に合わせて片膝を付いた。
???「もう大丈夫。 ここからは、俺たちの仕事だ」
  その言い方が、すごくかっこよくて、不安な気持ちを全て吹き飛ばしてくれた。
「・・・・・・俺も」
  気づいたら口が自然と動いていた。
「俺もその服着たい!」
  ヘルメットの奥で、目が丸くなった気がしたあと、くすっと笑う声。
???「よし、そうか! なら、そのためにまずは生きろ」
  そう言ってその人は、俺を両親の元に送り届けてくれた。
  あの日。
   泥の中で見た光の形を、俺は一生、忘れない。

次のエピソード:坂の街のボロスーツ

コメント

  • 面白かったです。パワースーツに助けられ、男の子だったら憬れちゃいますよね。

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