〇コンサートの控室
「今日香？」
明日美「あ、いや、あたしは──」
「・・・なーんてね」
真里亜「はじめまして」
真里亜「明日美ちゃん──」
明日美「真里亜さん！」
明日美「はじめまして・・・園山明日美です」
真里亜「あら、名前を知られているとは光栄だわ」
真里亜「天下の朝ドラヒロインに──」
明日美「あ、姉からお名前は よく聞いていたので・・・」
真里亜「そう・・・今日香とは 同じ時期のデビューだったから」
真里亜「ずいぶん親しくさせてもらっていたわ」
明日美（・・・そうでもなかったけど）
真里亜「今日香、すごかったなぁ」
真里亜「あっと言う間に売れて、 わたしを置きざりにして どんどん遠くにいっちゃって・・・」
真里亜「まさかそのまま あの世までいっちゃうなんてねぇ──」
明日美「・・・」
真里亜「まぁでも、いなくなった人は もうしょうがない」
真里亜「これでやっと、わたしの時代が来る」
真里亜「・・・そう思ってたら」
真里亜「双子の妹ですってぇ？」
真里亜「そして、妹もあっと言う間に売れて──」
真里亜「・・・ねぇ」
真里亜「あなた、本当は今日香なんでしょ？」
明日美「い、いや、あたしは明日美──」
真里亜「結局見つかってないんですってね、 今日香の遺体」
明日美「う、海は広いですから・・・ 捜索しても・・・なかなか・・・」
真里亜「それにあなた、 今日香に似過ぎじゃない？」
真里亜「姿や声は双子だからって言われれば そうかもしれないけど・・・」
真里亜「演技力まで似るかしら？」
真里亜「悔しいけど、あなたのお芝居 とってもすばらしいわ」
明日美「こ、光栄です ありがとうございます・・・」
真里亜「なんでも演じ切ってしまうその姿」
真里亜「・・・まるで今日香みたい」
真里亜「ねぇ、今も双子の妹の明日美を 演じてるんじゃないの？」
真里亜「ねぇ、今日香──」
「失礼します！」
修次「はじめまして！」
修次「『おいなりさん』で 共演させていただきます」
修次「青川修次といいます」
真里亜「なによいきなり・・・」
修次「すいません、真里亜先輩、 大事な初顔合わせなので」
修次「ちょっとはずしていただけますか？」
真里亜「なっ・・・」
真里亜「なんなのよ、最近の若手は！」
修次「・・・」
修次「改めまして、はじめまして明日美さん！ 青川修次です」
明日美「は、はじめまして、園山明日美です」
修次「・・・やんなっちゃいますよね、 ああいうイヤミな先輩って」
明日美「えっ！あ、いや、まぁ・・・」
修次「それに・・・」
修次「イヤですよね、 きょうだいで比べられるのって──」
修次「明日美さんは明日美さん、 今日香さんは今日香さんですもんね」
明日美「そう・・・ですね」
修次「それじゃ、本当に時間がないので 今日はこのへんで」
明日美「えっ」
修次「また現場でゆっくりお話しましょう 朝ドラ、よろしくお願いします！」
明日美「・・・」
明日美（あたしを・・・助けてくれたの？）
田所「おい明日美、取材依頼が山のように・・・」
田所「明日美？」
明日美「・・・」
田所「青川修次、か──」

〇黒
　　朝ドラの撮影は順調に進んだ

〇商店街
爺「よいか、おいなりさんの道は 一日にしてならずじゃ」
明日美「おじいちゃん──」

〇黒
　　あたしも日々充実していた

〇結婚式場のテラス
明日美「ふぅ・・・」
明日美「おいなりおいなりっ！」

〇黒
　　女優としても

〇SHIBUYA109
修次「超えてゆけ、おれのおいなりさんを──」
修次「そうすべば・・・」
「カーット！」
修次「ごめんなさーい、噛んじゃいましたー」
明日美「もー、修次さん！」
修次「ごめんごめん！」
「ふふっ！」

〇黒
　　それ以外も・・・

〇撮影スタジオのセット
明日美「無事にクランクアップを 迎えることができて」
明日美「嬉しいような、寂しいような・・・」
明日美「今はそんな気持ちです──」
明日美「えー、皆さん・・・」
明日美「本当にありがとうごさいました！ 素晴らしいチームでした！」
爺「お疲れ様！」
スタッフ「お疲れ様でした！」
修次「お疲れ様、明日美さん──」
明日美「・・・」
修次「・・・」

〇黒
　　そして──

〇シックなバー
「乾杯──」
修次「クランクアップ以来だね、明日美さん」
明日美「そうね」
修次「いよいよ明日は最終回の放送日」
明日美「なんだか感慨深いわ」
修次「そうだね・・・」
修次「よし、じゃあもう一回乾杯しよっか！」
明日美「え？」
修次「『おいなりさん』最終回と・・・」
修次「僕たちが出会えたことに──」
明日美「・・・うん」

〇黒
「乾杯──」

〇街中の道路
修次「いやー、結構飲んだね」
明日美「ええ・・・」
修次「酔い醒ましに少し歩こうか」
明日美「うん」

〇川沿いの公園
修次「そういえばさ、 朝ドラでキスシーン・・・あったよね」
明日美「あったね」
修次「あの時・・・ほんと緊張したなぁ」
明日美「そうだったの？」
修次「ねぇ」
修次「今ここで、もう一度させてくれないかな ・・・キスシーン」
明日美「・・・え？」
修次「あの時の 俳優としての演技じゃなく・・・」
修次「ひとりの男として──」
明日美「・・・」
明日美「はい」

〇黒
「ん──」

〇黒
　　久しぶりの恋──
　　二度とすることなどないと思っていた
　　恋──

〇黒
　　つ　づ　く