ジョブ・フィクション~ありそうでない虚構の仕事~

編集長

鼻歌インフルエンサー(脚本)

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〇繁華な通り
女性「ふんふーん♪ふふーん♪」
取材班「あの人は違いますか?」
雨宮雫「違いますね」
雨宮雫「あれは普通に鼻歌を歌っているだけです」
取材班「んー、そうですか」
男性「あの」
取材班「はい?」
男性「ハンカチ落としましたよ」
取材班「あ、すみません、ありがとうございます」
男性「いえいえ。では、失礼します」
雨宮雫「気づきましたか?」
取材班「何がですか?」
雨宮雫「今のカップル」
雨宮雫「ハンカチを拾ってくれた男性の後ろに いた女性、インフルエンサーでしたよ」
取材班「え!だって、 全然鼻歌なんて聞こえなかったですよ」
雨宮雫「ハンカチに気を取られて 気づかなかったんですね」
雨宮雫「私たちはなるべく日常に溶け込むように 鼻歌を歌うので」
雨宮雫「ほら、何かのBGMが頭に浮かびませんか?」
取材班「いや、特には・・・ あれ、ちょっと待ってください!」
取材班「・・・ドキドキ・ホーテの店内BGMが 頭から離れないです」
雨宮雫「当たりです」
雨宮雫「さっきのインフルエンサーの方が 鼻歌で歌っていました」

〇黒
  『鼻歌インフルエンサー』

〇渋谷のスクランブル交差点
  今回密着するのは
  『鼻歌インフルエンサー』の雨宮雫、28歳
  鼻歌インフルエンサーは、街中で
  依頼された曲を鼻歌で歌う職業である
  彼らの鼻歌を一度聞いた人々は、
  無意識にその曲をリピートし、
  頭から離れなくなるのだ
  新曲を流行らせて欲しいという
  依頼はもちろん、
  店内BGMやCM曲を流し、
  店や商品の宣伝に利用する企業も多い

〇街中の道路
  その日取材班は、とある場所へ向かう
  雨宮にインタビューを行っていた
雨宮雫「昔から歌うのは好きでした」
雨宮雫「でも、歌手になろうとは 思わなかったです」
雨宮雫「大学でもマーケティングを専攻しました」
雨宮雫「そこで鼻歌インフルエンサーの 存在を知ったんです」
雨宮雫「とてもしっくりきました」
雨宮雫「自分の歌を生かして広告活動が出来る」
雨宮雫「一石二鳥だと思いました」
  すぐに鼻歌インフルエンサーの
  養成所に通い始め、
  2年後には事務所への所属が決まった
雨宮雫「うまく歌うのとは違う」
雨宮雫「いかにして人の頭に残るようにするか」
雨宮雫「心理学や音響学など、 学ぶべきことはたくさんありました」
雨宮雫「その一つ一つが楽しかったです」
取材班「まさに天職を見つけられたんですね」
雨宮雫「だと思ったのですが・・・」
取材班「?」
雨宮雫「着きました。ここです」
取材班「え、ここって・・・」

〇警察署の入口
警察官「それじゃあ、いまご説明した 渋谷地区のご担当をよろしくお願いします」
雨宮雫「はい。誠心誠意、 取り締まりに当たらせていただきます」
  雨宮は警察と協力して、
  違法インフルエンサーの
  取り締まりも行っていた
雨宮雫「インフルエンサーの宣伝を受けるには」
雨宮雫「日本鼻歌協会に登録料を払って、 楽曲を登録する必要があります」
雨宮雫「インフルエンサーは協会に登録された 楽曲以外の宣伝は許されていません」
雨宮雫「しかし昨今、 未登録楽曲の宣伝が増加しています」
雨宮雫「違法インフルエンサーが協会を通さずに、 未登録楽曲の宣伝依頼を受けているのです」
雨宮雫「協会の仲介料の分だけ ギャラの取り分が増えますから」
取材班「同業者の取り締まりも しなきゃいけないなんて、大変ですね」
雨宮雫「・・・それぐらいしか、 お役に立てないので」
取材班「え?」

〇渋谷駅前
雨宮雫「人一倍努力はしたつもりです」
雨宮雫「でも、どうしても 理想の鼻歌には届かなかった」
雨宮雫「理論を構築出来ても、 実践が追いつかなかったんです」
雨宮雫「このまま鼻歌インフルエンサーとして やっていけるのか、毎日不安でした」
  事務所のマネージャーから、
  違法インフルエンサーの取り締まり
  協力の打診を受けたのは、
  ちょうどそんなときだった
雨宮雫「私、耳だけは人一倍良かったんです」
雨宮雫「鼻歌の音色を聞き分けることには 自信がありました」
雨宮雫「だから、自分の能力を生かすためにも、 協力しようと思ったんです」

〇応接室
  雨宮の担当マネージャーに話を聞いてみた
担当マネ「雫は別に音痴じゃないんですよ」
担当マネ「依頼もちゃんとこなすし、 クライアントも満足してる」
担当マネ「でもねぇ、自分に厳しいっていうか」
担当マネ「目標が高くて生真面目なんですよ。 どこまでも満足しない」
担当マネ「取り締まりも人一倍真面目にやって、 検挙率一番ですからね。頭が下がります」

〇センター街
雨宮雫「もしもし。 ・・・はい、神南地区ですね」
雨宮雫「すぐに向かいます」
  午後8時18分。渋谷神南地区にて、
  未登録楽曲のダウンロード数が
  異常に伸びているとの報告が入った
雨宮雫「警察は楽曲ダウンロードサービスの企業 と提携しています」
雨宮雫「なので、どこでどの楽曲がダウンロード されたかリアルタイムに確認できるんです」
雨宮雫「あまり有名ではない曲の ダウンロード数が急に伸びた場合、」
雨宮雫「インフルエンサーが宣伝している 可能性があります」
雨宮雫「行きましょう」

〇渋谷のスクランブル交差点
  金曜日の夜とあって、
  渋谷は多くの人で賑わっていた
取材班「こんなに騒がしいと、さすがに 見つけられないんじゃ・・・」
取材班「え、雨宮さん!?」
雨宮雫「すみません、ちょっとお話いいですか?」
男性「・・・はい?」
  戸惑う取材班をよそに、
  雨宮は迷わず一人の男性に声をかけた
雨宮雫「いま、楽曲の宣伝されていましたよね?」
男性「は? なんのことですか?」
雨宮雫「シンガーソングライターMakiseの楽曲 『ひまわり』です」
雨宮雫「鼻歌、歌ってましたよね?」
男性「いや、歌ってないですけど」
雨宮雫「録音してましたよ。 正直にお話していただけませんか?」
男性「・・・・・・」
雨宮雫「『ひまわり』が未登録楽曲だと いうことは、ご存じでしたか?」
男性「ちっ!」
取材班「あ、待て!」
  雨宮の質問に耐えかねた男は、
  咄嗟に逃走をはかった
取材班「雨宮さん、警察に連絡──」
  取材班が雨宮の方を振り返ると、
  もうそこに彼女の姿は無かった
取材班「えっ!?」
雨宮雫「ふっ!」
男性「!?」
  一瞬で男に追いついた雨宮は
  男の足を払って体勢を崩し・・・
雨宮雫「はっ!」
男性「ぐああああっ!」
  そのまま地面に組み伏せた
雨宮雫「すぐに警察が到着します。 それまで大人しくしていてください」
男性「ち、ちくしょう・・・」
取材班「あ、雨宮さん、大丈夫ですか?」
雨宮雫「どうも、お騒がせしました」
取材班「えっと、お強いんですね・・・」
雨宮雫「警察に協力するようになってから、 体を鍛えているんです」
雨宮雫「格闘技も習い始めました」
雨宮雫「こういうことがよくあるので」

〇警察署の入口
雨宮雫「では、後はよろしくお願いいたします」
警察官「ありがとうございます。 ご協力感謝いたします」
取材班「大変な夜でしたね」
雨宮雫「日常茶飯事です。まだ時間もあるので、 もう少し見回りをしてから帰ります」
取材班「え、今から・・・」
  取材の最後に、鼻歌インフルエンサー
  としての今後の目標を聞いてみた
雨宮雫「もっと多くの人が鼻歌インフルエンサーに なって欲しいです」
雨宮雫「とても魅力的で、 社会的な意義も大きい仕事なので」
雨宮雫「一方で違法者も増えると思うので、 取り締まりを強化していきたいです」
雨宮雫「・・・ちょっと鼻歌が聞こえるので、 行ってきますね」
取材班「え、はい、お疲れ様でした!」
雨宮雫「すみません、 ちょっとお話伺ってもよろしいですか?」
  今日も彼らは仕事へ向かう。
  ありそうでない、虚構の仕事へ

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