第10話 お祭りの夜、鳥居のそばで(脚本)
〇神社の石段
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈境内へはこちらの階段からどうぞー!〉」
長谷川「英田〜!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「来てたんだ!」
長谷川「煌一のキツネダンス、拝んだろ思てな」
伊藤「明日イジる気まんまんやな」
小川「英田くん、袴ええ感じやん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「小川くんこそ、浴衣すごく似合ってる」
伊藤「さすが、未来の坊さんは和服が似合いますわ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「坊さん?」
小川「言ってへんかった? 俺、寺の息子」
伊藤「俺も、寺の息子」
長谷川「俺、医者の息子」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ、へぇ」
おゆき「ノアさん! 昨日はどうも」
英田 乃亜(あいだ のあ)「おゆきさん!」
長谷川「英田、舞妓さんと知り合いなんか!?」
おゆき「おともだちやんなぁ?」
伊藤「マジ!? 俺、17年京都住んでるけど舞妓さんの友達なんておらんぞ」
長谷川「俺も神社でバイトしたいぃ・・・」
長谷川「あの、ボクもおともだちに・・・」
小川「はいはい、行くで」
伊藤「英田、また学校でな〜」
英田 乃亜(あいだ のあ)「うん、また!」
おゆき「もうすぐ、煌ぼんの狐踊りの時間やなぁ」
おゆき「見に行かはるんやろ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、いや」
おゆき「行かへんのん?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕は、あの」
英田 乃亜(あいだ のあ)「案内で忙しいので・・・」
おゆき「ノアさん、なんか無理してへん──」
参拝客「〈子どもが迷子に・・・!〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈お伺いします!〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「おゆきさん、また!」
おゆき「なんかあったんやろか・・・」
〇和室
参拝客「ダディー!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ふぅ、よかった」
社務所の窓越しに、巫女舞の厳かな笛の音が聞こえてくる。
英田 乃亜(あいだ のあ)「次、か」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いや、仕事仕事・・・」
松尾のじいちゃん「英田くん、おったおった!」
松尾のじいちゃん「交代や交代、チェンジ!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「大丈夫ですよ! 松尾さんこそ、休憩──」
松尾のじいちゃん「煌ぼんの踊り、始まるから。行ってきなはれ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・松尾さんが、見てきてあげてください」
英田 乃亜(あいだ のあ)「その方が、荒木くんも喜ぶと思います」
松尾のじいちゃん「ははは、そんな訳あるかいなぁ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「だって、松尾さんは昔からコウイチを知ってて──」
松尾のじいちゃん「なんや煌ぼん、なんも言うてへんのかいな」
英田 乃亜(あいだ のあ)「?」
松尾のじいちゃん「狐の踊りな。煌ぼんはやりたないて、これまでずっと断ってはったんやで」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そうだったんですか?」
松尾のじいちゃん「でも今年は自分からやる言わはったんや。なんでやと思う?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・わかりません」
松尾のじいちゃん「英田くんに、自分以外の狐は見せたくないんやて」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ?」
松尾のじいちゃん「なんや、狐はオレの専売特許やとかなんとか」
松尾のじいちゃん「よーわからんけど?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ・・・」
〇森の中
オレ、狐やねん
〇和室
英田 乃亜(あいだ のあ)「あの日の・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「松尾さん、僕──」
参拝客「〈また子供がどっかいっちゃった!〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あっ」
松尾のじいちゃん「サッ」
翻訳アプリ「また、私の娘が迷子になりました」
英田 乃亜(あいだ のあ)「翻訳アプリ!」
松尾のじいちゃん「ハイテク松尾じいちゃんや!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・行ってきます!」
〇神社の本殿
英田 乃亜(あいだ のあ)「はぁ、はぁ・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「人、多い・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「!」
〇祈祷場
〇神社の本殿
英田 乃亜(あいだ のあ)「ふっ・・・ほんとに、狐になってる・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチ・・・」
参拝客「〈ねぇ、あなた〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ、僕?」
参拝客「〈あなた。あれは何の踊りなの? 動物?〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈あ、えっと〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈稲荷神社の神の遣いである狐に扮して、神様に奉納する舞を踊っているんです〉」
参拝客「〈なるほど〉」
参拝客「〈踊ってる方、ダイナミックで素敵ね〉」
参拝客「〈豪快で、でも指先にまで神経が行き届いてる〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈あぁ・・・彼は、運動神経がすごくいいから〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈2階の窓から、教室に入ってこれちゃうくらい〉」
参拝客「〈あらまぁ。お知り合いなの?〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈そうです・・・僕の知ってる人です〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈彼は僕の、日本で初めての友人で〉」
参拝客「〈そうなのね〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈僕、初めは友達なんていらないと思ってたけど、やたら話しかけてきて〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈世話を焼いてくれて、最初はなんなんだよって思ったけど、彼のおかげで馴染めて〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈いつも豪快で、ふざけてて、でも優しくて〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈この人は、僕の──〉」
〇祈祷場
僕の、好きな人
〇神社の本殿
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈だけど、どうせ、離れなきゃいけないから──〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・ッ」
〇山道
〇村に続くトンネル
〇森の中
英田 乃亜(あいだ のあ)「くっ・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「うぅ・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈京都なんて、来なきゃよかった・・・〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈コウイチ・・・〉」
「何?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ヒィ!!」
荒木 煌一(あらき こういち)「そんなびっくりせんでええやん」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・なぁ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・コウイチ!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「お、踊りは!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「抜けてきた」
英田 乃亜(あいだ のあ)「はぁ!? 大丈夫なの」
荒木 煌一(あらき こういち)「いや、まぁ、大丈夫ちゃうな」
英田 乃亜(あいだ のあ)「何やってんの!? 儀式の途中で・・・神様に失礼だろ!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「だって、ノアが見に来てくれた! と思ったら急にどっか行くから」
英田 乃亜(あいだ のあ)「来ないでよ! もう、諦めようと思ってたのに」
荒木 煌一(あらき こういち)「諦めるて、なにが」
英田 乃亜(あいだ のあ)「もう諦めようって、アルバイトもやめようって」
英田 乃亜(あいだ のあ)「どうせ離れちゃうならって・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「どうしてん、ノア」
英田 乃亜(あいだ のあ)「なのになんで、追いかけてくるんだよ! 彼女もいるくせに・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「ちょー待って、なんの話!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「宇治に行った夜、一緒に帰ってた!」
荒木 煌一(あらき こういち)「えぇ、あれ!? 姉ちゃんのこと?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「え、お姉ちゃん?」
荒木 煌一(あらき こういち)「せやで」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・それに、標準語イヤだって言ってた!」
荒木 煌一(あらき こういち)「東京の大学行って、調子乗ってんねんあいつ!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕も標準語だよ・・・!」
荒木 煌一(あらき こういち)「いや、あれはバリバリ京都人の姉ちゃんやから、って話で」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアの標準語は、きれいな発音やし」
荒木 煌一(あらき こういち)「好きやで、オレ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「好きって」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、発音ね。僕の」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、ごめん。オレあのとき、回りくどすぎた」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へっ。ちょ、近い・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「他の人とか、前のことはどうでもええんや」
荒木 煌一(あらき こういち)「オレが、ノアと付き合いたい」
荒木 煌一(あらき こういち)「男同士やったとしても」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「う、嘘だ!! また嘘じゃないの、狐とか言って」
荒木 煌一(あらき こういち)「うそちゃうて、好きな子ちゃうかったら、踊りほっぽってこんなとこ来ーへんて」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いや、京都一の神社の息子の煌ぼんならする! 誰にでも優しいから!」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、今日めちゃくちゃ喋るやんか」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕だって喋るよ! 英語だったらもっと言ってる!」
荒木 煌一(あらき こういち)「じゃあ、英語でええよ」
荒木 煌一(あらき こういち)「英語で、今の気持ち聞かせて?」
荒木 煌一(あらき こういち)「オレ、ノアのこともっと知りたい」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアは?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕は、」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕は──」
僕も
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈君のこと、知りたいよ。すごく〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈もっと一緒に、京都で時間を過ごして、一緒に色んなことを経験して──〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチのこと、知りたい・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「おおきに」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・なぁ。ずっとしたかったこと、してもええ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ん・・・」
〇森の中
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、雨!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「狐の嫁入り、やな」
英田 乃亜(あいだ のあ)「やっぱり、狐の神様が怒ってるんだよ! 天罰だ、たたりだ!」
荒木 煌一(あらき こういち)「なんでやねん、嫁入りやからむしろ天啓やろ」
荒木 煌一(あらき こういち)「オレらのこと、祝福してくれてんちゃう?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「はぁ!? そんなわけ──」
荒木 煌一(あらき こういち)「なぁ、もっかいしよ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ちょ、雨が──」
荒木 煌一(あらき こういち)「ん〜」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ふっ、もう・・・」
〇森の中
〇神社の本殿
煌一の母「煌一〜!! どこ行っててんあんたー!!」
荒木 煌一(あらき こういち)「やばっ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「来てたんだ」
母「ノア、びしょびしょじゃない」
父「狐が逃げるやなんて、面白いもん見たわ」
父「しかも乃亜が連れ帰ってくるとはな」
英田 乃亜(あいだ のあ)「お父さん、お母さん・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あの、僕・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「アメリカには行かない」
英田 乃亜(あいだ のあ)「このまま、京都に残りたい」
父「・・・なんやて?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「し、知りたいんだ。京都のこと」
英田 乃亜(あいだ のあ)「色んな世界を知るのも、大事かもしれない、けど」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ひとつのことを、深く、知ってみることも」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕には、必要かもしれないって・・・」
母「ノア・・・」
父「もう、手続きは進めてるんやけどな」
父「僕たちは、仕事があるからアメリカには行かなあかん」
父「お前は、着いてくるしか──」
煌一の母「ええやん、ノアくんだけ残ったら!」
荒木 煌一(あらき こういち)「おかん、痛いて! ひっぱらんといて」
父「あんた・・・!」
煌一の母「ご無沙汰してます」
煌一の母「高校生や、一人暮らしくらいできはるやろ」
父「そうは言うてもやな」
煌一の母「心配? せやったら」
煌一の母「うちで面倒みましょか?」
父「・・・は?」
母「そ、そんなご厄介になるわけには」
煌一の母「いえいえ! 部屋余ってるし、煌一もいるし」
煌一の母「どうです? ノアくん、荒木家で下宿生活〜!」
「え・・・」
「えぇ〜!?」
完結おめでとうございます〜!
煌一くんの狐舞、物凄く神聖でした!🦊
乃亜くんも僕も気になっていたあの女性は、煌一くんのお姉さんだったんですね。誤解が解けて良かった。
そしてタイトルの通り、鳥居のそばでキス……!⛩️👨❤️💋👨
爆発してしまいますわ〜!!💥💥💥
最後は煌一くん母のお陰で2人の同居決定!
これからの2人に幸あれ!!