エージェント姉妹の一存

Safaia

デリバリーの意味。(脚本)

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エージェント姉妹の一存
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〇島の家

〇城の会議室
歌夏(かな)「いやぁ、こうして四姉弟全員揃って食事すると清々しいもんだな?」
歌夏(かな)「秋羅。カツ丼のカツお代わり」
秋羅「はいよ、姉さん」
歌夏(かな)「・・・ぷっはぁっ! こいつはたまんねぇ匂いだなぁ!?」
小春「歌夏、口調が酔ったおっさんになってるわよ」
歌夏(かな)「いいじゃねぇか。小春姉だってオレと同じ顔してた癖に」
小春「他人に責任を押し付けるんじゃありません。そんな言い逃れなど私には通じないわ」
歌夏(かな)「ちぇっ?」
冬樹「・・・秋羅」
秋羅「ん?」
冬樹「今日のカツ、とても食べやすかった。またこれやって」
秋羅「そう? それは何よりだよ」
秋羅(以前同じメニューを出した時、冬樹姉さんは肉の厚みが広いせいで顎を悪くしたからな)
秋羅(念には念を入れ、衣も薄くして正解だった)
冬樹「秋羅。どうかした?」
秋羅「ううん、なんでもないよ」
冬樹「そうか・・・?」
小春「歌夏、さっきからカツばかり食べて丼に手を付けてないじゃない!」
歌夏(かな)「うるせぇなぁ、それぐらい別にいいだろう?」
小春「よくありません。それじゃあ『カツ丼』じゃなくてただの『カツ』でしょう?」
歌夏(かな)「ところで秋羅、今日はなんの肉だ?」
秋羅「スーパーの豚ロースだけど」
小春「話を逸らすんじゃなーい!」
冬樹「あの二人、何時も仲良し」
秋羅「そう? 僕は真面に喧嘩しているように見えるけど」
冬樹「甘いな冬樹。 真面に喧嘩する奴は全員仲が良いのだ」
秋羅「そうなの!?」
冬樹(私もよくは知らん)
冬樹「・・・それより秋羅、白米おかわり」
秋羅「え、まだ食べるの?」
冬樹「今日の依頼(オーダー)は精神的に疲れた。だからタンパク質と糖分をめっちゃ補給したい」
秋羅「そ、そっか」
秋羅(珍しいな。冬樹姉さんがお代わりを要求するなんて)
秋羅(今回の仕事は余程疲労が溜まるお仕事だったのだろうか?)
歌夏(かな)「秋羅、手が止まってるぞ」
秋羅「あ・・・ごめん」
秋羅「それじゃ姉さん、お代わり運んでくるから五分くらい待ってて?」
  秋羅は冬樹から丼を受け取ると、一目散に食堂を出て行った。
歌夏(かな)「お前がお代わり強請るなんて珍しいな?」
冬樹「別に強請ってない。糖とたんぱく質が欲しかっただけ」
歌夏(かな)「自分の体調に気を遣うくらいならオレの朝練に付き合えよ?」
冬樹「それは私への当てつけか?」
歌夏(かな)「んだと!!?」
小春「二人共、おやめなさい!」
歌夏(かな)「小春姉・・・でも」
  ピトッ!
歌夏(かな)「ひゃんっ!」
小春「歌夏?」
歌夏(かな)「冬樹テメェッ! 今、俺の膝に裸足のっけただろ?」
冬樹「歌夏は長い靴下履いてるでしょ。届かない」
歌夏(かな)「膝まではな!」
  堂々としらける冬樹を目の前に歌夏はこめかみに血管を浮かべる。
  小春はその様子を傍観しながらそっと両肩で息を吐く。
小春(全く、この二人ときたら?)
  以降、歌夏と冬樹のいがみ合いは秋羅が帰還するまで続いた。

〇城の会議室
  それからまた程なくして。
「ごちそうさまでした!」
歌夏(かな)「いやぁ、こうして四姉弟全員揃って食事すると清々しいもんだな?」
歌夏(かな)「特に飯を平らげた後は格別だなぁ」
冬樹「それ、食事中にも言ってた」
歌夏(かな)「え、オレそんなこと言ったか?」
冬樹「言った」
歌夏(かな)「・・・ほうか」
秋羅「姉さん」
  コトッ・・・。
歌夏(かな)「秋羅、これはなんだ?」
秋羅「茶碗蒸しだよ。今日牛乳を使って作ったんだ」
歌夏(かな)「え、オレ頼んでねぇけど?」
秋羅「だって姉さん、三週間前の火曜日に『一度でいいから料亭の碗蒸し食ってみてぇ』って言ってたじゃない」
歌夏(かな)「覚えててくれたのか?」
秋羅「うん」
秋羅「料亭のじゃないけど、よかったら食べて?」
歌夏(かな)「秋羅、お前はいい奴だな! 見直したぜ!」
小春「全く、食事が終わると大人しいんだから」
秋羅「いいじゃないか姉さん。人間腹を満たせば誰しもああはなる」
小春「そりゃそうだけど、あの子の場合、もう少し大人しくしてほしいわ」
秋羅「本人には言わないの?」
小春「言える訳ないでしょう?」
小春「そんなこと言ったら・・・『小春姉だって三杯お代わりしたじゃねぇか!』とか反論されるのがオチよ」
秋羅「ははは・・・・・・」
秋羅(でも、歌夏姉さんが言うように、こうして四人集まるなんて何日ぶりかな?)
秋羅(姉さんたちにはとても言えないけど・・・やっぱり家族が揃うのって心地いい)
  ジリリリッ!
小春「あら、誰かしら?」
秋羅「僕が出るよ。一番近いし」
  秋羅は小春に一言断ってから電話に近づく。
秋羅「はいもしもし・・・どちらさまでしょうか?」
秋羅「え、デリバリー? うちはなにも頼んでませんけど」
秋羅「あの・・・失礼ですが、番号間違えてません?」
小春「あ、ああ、秋羅!」
小春「その電話は私が対応するから、貴方は部屋を出てもらえる?」
秋羅「でも、これ僕が取ったものだし」
歌夏(かな)「秋羅。オレ明日は鍋が良いなぁ!」
歌夏(かな)「最近妙に鈍っちまってよぉ、また今日みたく精がつくものが食べたいんだわ」
冬樹「私も歌夏に同意」
秋羅「そう? それじゃあ食材足りてるか見てくるよ」
  秋羅は小春に受話器を託した後、そそくさとその場を後にした。
  やがて足音が聞こえなくなると、小春は受け取った受話器に耳を当てる。
  歌夏は秋羅の出た扉の鍵を閉めながらその様子を伺う。
歌夏(かな)「こ、小春姉!」
小春「・・・冬樹、歌夏」
小春「仕事よ」
「サーッ!」
  小春の言葉に反応した冬樹は先が伸びたチャッカマンでテーブルの真ん中にあるキャンドルに火をつける。
  歌夏はその間に慣れた手つきで扉にロックをかけると三つある窓のカーテンを瞬時に閉め切った。
小春「・・・えぇ、わかりました。ただちに」
  電話の主の対応をしていた小春は受話器を電話台に戻すと、緊張を遺した表情で歌夏の隣の席に着く。

〇城の会議室
  そして小春の動きとタイミングを合わせるように部屋の天井の灯が落ちて、火のついたキャンドルから男の影が現れる。
マスターチーフ「ごきげんよう。我が娘たちよ」
小春「ごきげんようマスターチーフ。ご要件は?」
マスターチーフ「その前に確認だが・・・冬樹、例のケースは?」
冬樹「ここにある」
冬樹「中身もこの通り」
マスターチーフ「うむ、ご苦労だったな」
歌夏(かな)「しっかし、ケースの中からそれが出た時ド肝抜いたぜ」
歌夏(かな)「あの町一番の医者が求めてた代物だというから何かと思えば──」
小春「言葉を控えなさい歌夏! マスターの御前よ」
歌夏(かな)「お、おう」
小春「申し訳ございませんマスター、妹が失礼を」
マスターチーフ「よい。お前たちの行動は全て予測済みだ」
  小春が席から立ち上がってマスターに頭を下げる。
  それを見て歌夏はその光景を横目で見ながら疑問符を浮かべた。
歌夏(かな)(小春姉。親父の前だと物腰弱くなるんだよな?)
歌夏(かな)(つーかオレらの行動が読めてるなら、わざわざ秋羅が居る状況で掛けてこないでほしいぜ)
マスターチーフ「歌夏よ。今私が余計なことをしたと考えているな?」
歌夏(かな)「ドキッ!?」
小春「歌夏、貴方って人は・・・」
歌夏(かな)「やだなぁ、オレがそんなこと考える人間と思う?」
小春「思うから言ってるんでしょ」
歌夏(かな)「ですよねぇ」
マスターチーフ「・・・先も話したように私はお前たちの動きを日々把握している」
マスターチーフ「故にこの私が下手なことを起こすなど微塵もありえない」
小春「それは常々承知しております」
小春「ですが一つ腑に落ちないのは、何故秋羅が居る上で私たちに連絡を入れたんですか?」
マスターチーフ「今回の話の本筋はそれだ」
小春「は?」
マスターチーフ「今回、お前達に課すのはファミリーミッションだ」
歌夏(かな)「ふぁ、ファミリーミッション!?」
冬樹「!!」
  ファミリーミッション――それは、三姉妹の絆が試される最難関。
  一見、親しみやすい響きの裏側には、息をのむような危険と期待が潜んでいる。
  どこか懐かしささえ感じさせる合図に、三人の心が静かに高鳴り始める。
歌夏(かな)「ファミリーミッションって、秋羅をこの家に迎え入れる前にやって以来だよな」
歌夏(かな)「・・・という事は、もう十数年ぶりになるのか」
小春「えぇ、そうね」
小春「秋羅が中学に入った辺りからまた来るのではないかと思っていたのだけれど、まさかこんなタイミングで起こるなんて」
小春「――で、マスター。概要については?」
マスターチーフ「うむ、しかと心して聞くがいい」
マスターチーフ「と、意気込みたいところだが、今回の任務は極めて明快。尚且つ単純である」
小春「明快、且つ単純・・・?」
歌夏(かな)「どういう事だ?」
マスターチーフ「お前達も察知している通り、昨今のエージェント社会は人手不足に悩まされてきている」
マスターチーフ「その上で如何にオーダーに徹底的に対応するかが求められる。 分かるな?」
小春「えぇ、それはもう」
マスターチーフ「そこで、我がユグドラシルにも新しい人材を推薦し、迎え入れようという計画が立った」
歌夏(かな)「おぉ、それは本当か? 親父」
小春「歌夏、少しは落ち着きなさい」
歌夏(かな)「だってよぉ、ここに来て家族がまた増えるんだぜ」
歌夏(かな)「秋羅の時もそうだったが、新しい可能性を迎え入れられるのは嬉しいもんじゃねぇか?」
冬樹「私も歌夏に同意する」
小春「冬樹」
冬樹「新しい人材が増えるのは、私にとってメリットしかない。とても助かる」
小春「冬樹・・・」
歌夏(かな)「それで親父、次の新人はいったいどんな奴なんだ?」
マスターチーフ「それは・・・」
歌夏(かな)「下手なタメを入れなくていいからさ。早く教えてくれよ」
マスターチーフ「お前達のすぐ傍にいる」
歌夏(かな)「・・・・・・は?」
歌夏(かな)「親父、ちょっと言葉の意味が分からねぇ」
小春「歌夏。マスターはお前達のすぐ傍にいると言ったのよ」
歌夏(かな)「そんなこと言ったってよぉ」
歌夏(かな)「ここにはオレと冬樹、それから小春姉しか居ないぜ」
歌夏(かな)「それに今日ユグドラシルなんてこの家に招いた覚えすらねぇ・・・それも新人なぞ」
マスターチーフ「歌夏よ。お前の傍に置いてあるのはなんだ?」
歌夏(かな)「あぁ、これか? これは茶碗蒸しと言ってだな・・・」
マスターチーフ「それを提供したのはいったい誰だ?」
歌夏(かな)「おいおいおいおいおい・・・・・・マスターさんよ」
歌夏(かな)「それはあまりにもあんまりってものじゃねぇのか?」
小春「歌夏、どうかしたの?」
歌夏(かな)「どうしたかって? 主に小春姉に言いてぇよ」
歌夏(かな)「小春姉の方が親父の傍に居るというのに、この言葉の意味が解らねぇのかってんだ」
小春「はぁ?」
冬樹「つまり、マスターと歌夏が言いたいのは」
冬樹「今回迎え入れる家族は既に私達が迎え入れているということ、だ」
小春「・・・・・・」
小春「・・・・・・」
小春「・・・・・・!」
小春「まさか、秋羅を!?」
マスターチーフ「そうだ」
小春「待ってください。これは私も異議があります!」
小春「私達が秋羅をこの家に入れたのは日常的な補助に必要だからで、決してそのような理由ではありません」
マスターチーフ「許可していないのに私に意見するのか?」
小春「で、でも・・・」
マスターチーフ「まぁ、お前の言い分も現実的に言えば最もだ。許そう」
小春「・・・・・・」
マスターチーフ「先も説明した通り、今のエージェント社会において人材が不足しているのが最大の問題点だ」
マスターチーフ「主に一目見て必要性が割り出せるような輩など、そう居ない」
歌夏(かな)「その点に置いて、秋羅は違うとでも?」
マスターチーフ「そうだ」
マスターチーフ「お前達も経験しているだろう? 他とは違う彼の規格外な才能を」
歌夏(かな)「規格外な才能・・・」
  歌夏は目を伏せて考えつく。
歌夏(かな)「そういや秋羅の奴、オレが三週間前に茶碗蒸しの事を話したのを覚えていたな」
歌夏(かな)「オレ自身仕事に夢中で忘れていたのに、あいつは・・・」
冬樹「今回のかつ丼も、肉が厚かったわりに衣が細くて食べやすかった」
冬樹「以前、私が同じものを食べて顎をおかしくしたのを反省していたのだろう」
小春「言われてみると、意外と思い当たる節はあるのね」
マスターチーフ「おおかた腑に落ちてくれたようだな」
小春「はい」
小春「ですが、完璧に納得したわけではございません」
小春「お言葉を返すようですが、秋羅は私達にとって必要な存在です」
小春「それはエージェントとしてではなく、私達が在るべき理由である為」
歌夏(かな)「オレも小春姉に同じく」
歌夏(かな)「さっきは新しい可能性とかなんとか言ったが、秋羅をエージェントの未来に担う者として迎えたつもりはねぇ」
マスターチーフ「一度とならず二度までも私に口出しするのか」
歌夏(かな)「あぁ」
小春「如何なる処分を受ける覚悟も出来ております」
小春「それが、あの子の為になるのなら・・・」
マスターチーフ「くどいな。処分を考えるだけ時間の無駄とする」
マスターチーフ「それにこの件は既に私とお前達だけの問題ではない」
歌夏(かな)「なに、どういう事だ?」
冬樹「簡単な話」
冬樹「秋羅をエージェントとして迎え入れるこの企画は、既にユグドラシル全域に広がっている」
冬樹「元よりその根は太く、私達の手の届かない範囲にまで伸びている」
歌夏(かな)「それじゃあ、企画が立案された時点でどうしようもないって事か?」
冬樹「九割がたそうなる」
歌夏(かな)「何をそんな冷静に分析しているんだよ!」
歌夏(かな)「冬樹。お前はこの件に何も思わねぇのか?」
冬樹「何も思っていないわけではない」
歌夏「それじゃあ・・・」
冬樹「私はこの件には賛同すべきであると考える」
歌夏「!?」
小春「理由を教えて頂戴」
冬樹「先程の話よりも極めて単純」
冬樹「秋羅はこの家に入った時点で、その運命は決まったのも同然だった」
冬樹「何時の日かこの展開に至る前提を考慮し、あの時秋羅の教育を行うのに同意したまで」
小春「そう」
マスターチーフ「どうやら全員が愚者だったわけではなさそうだな」
小春「はい。今一度腹に落ちました」
マスターチーフ「そうか、明確な判断でなにより」
マスターチーフ「歌夏。お前はどうしたい?」
歌夏(かな)「うっ・・・」
マスターチーフ「お前一人の意見でこの状況が覆らないのは誰よりも分かっている筈」
マスターチーフ「しかし、このまま強引に判断を通せば禍根が残る」
マスターチーフ「よって、お前の意見を聞き入れようというわけだ」
歌夏(かな)「それはあくまで施しのつもりか? 実にありがてぇな」
小春「で、結局のところどうなの?」
歌夏(かな)「小春姉が聞くのかよ」
歌夏(かな)「・・・確かに親父の言う通り、オレは組織の意向が分からねぇ程に頭は悪くない」
歌夏(かな)「だがな、実戦経験もねぇ奴をいきなりこの世界に取り入れようとするのは腑に落ちない」
マスターチーフ「ほう」
歌夏(かな)「だからよ。あいつをどうするかについての最終的選択権はオレらに譲ってくれねぇか? 親父」
小春「歌夏、貴方って人は・・・!」
歌夏(かな)「小春姉は黙ってろよ!」
小春「ぐぐっ!?」
歌夏(かな)「親父、こんな我が儘がまかり通らない事は百も二百も承知だ」
歌夏(かな)「しかし秋羅はオレらの事情をくまなく探ろうともせず、それどころか今までずっとオレらの表向きの姿を信用し、ついて来てくれた」
歌夏(かな)「その秋羅が、本当にオレらの裏向きの姿を見ていいのか。それはあいつを育てたオレ達が決めるべき」
歌夏(かな)「違うか?」
マスターチーフ「・・・・・・」
マスターチーフ「・・・・・・」
マスターチーフ「良いだろう。その提案を受け入れる」
歌夏(かな)「それじゃあ・・・」
マスターチーフ「但し、私からの条件をお前達が受け入れられればの話だがな」
歌夏(かな)「条件?」
  次回へ続く。

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