第8話『現実』(脚本)
〇病室
花村大河「これ、プレゼントだけど大丈夫かな?」
雪島アイナ「ありがとう、嬉しい」
花村大河「良かった」
花村大河「花束とどっちがいいか悩んだんだけど 良かった」
雪島アイナ「病気の関係で、お花とか花瓶は飾れないの」
花村大河(宮森君ナイス)
〇アーケード商店街
花村大河「やっぱり、お見舞いといえば 花束かな」
宮森「いや、花束はやめておいた方がいいかも」
花村大河「そうなの?」
宮森「その子、咳き込んでたんだろ?」
花村大河「うん」
宮森「もしかしたら そっち系の病気かもしれないし」
花村大河「そうなんだ」
花村大河「そんなこと全然気にしてなかったよ」
宮森「うちの妹が喘息持ちだからさ」
宮森「どうせなら、ずっと残るものがいいと思うよ」
宮森「ぬいぐるみとかさ」
花村大河「確かに」
〇病室
花村大河「でも、こうして会うと不思議なもんだよね」
雪島アイナ「そうだね」
花村大河「そういえば、アイナちゃんに謝りたいことがあったんだ」
花村大河「俺、アイナちゃんのことを知らないで」
花村大河「友達いないの?とか 友達多そうとか言っちゃって」
花村大河「冗談でも言うべきじゃなかった」
花村大河「ごめん」
雪島アイナ「気にしてないよ」
雪島アイナ「私だって、大河くんのこと コミュ障とか言っちゃったし」
花村大河「俺も気にしてないよ」
雪島アイナ「だったらいいじゃん」
雪島アイナ「ねえ、大河くん」
花村大河「なに?」
雪島アイナ「私と友達になってくれないかな」
花村大河「えっ? もう友達じゃないの?」
雪島アイナ「そうなの?」
花村大河「1ヶ月も仲良くチャットやり取りしたんだから」
花村大河「それって友達だと思う」
雪島アイナ「そうだったんだ」
雪島アイナ「そうだよね」
花村大河(宮森君の受け売りだけど)
花村大河「そういえば」
雪島アイナ「なに?」
花村大河「その服とっても似合ってるよ」
雪島アイナ「ありがとう 嬉しい!」
雪島アイナ「いろいろ話聞かせてよ」
花村大河「いいよ」
〇大きい病院の廊下
大内加奈子「話が盛り上がってるみたいね」
大内加奈子「入りづら」
大内加奈子「でも、体調良さそうね」
〇病室
雪島アイナ「私も学校行きたいなぁ」
雪島アイナ「一応通信制はやってるんだけど」
花村大河「そうなんだ、ちゃんと勉強してて偉いね」
雪島アイナ「私と同じで3年生だっけ?」
花村大河「そう」
雪島アイナ「じゃあ、うまくいけば卒業かぁ いいなぁ」
雪島アイナ「卒業後は進学?」
花村大河「一応大学進学かな」
雪島アイナ「えっ? もう30分経った?」
花村大河「早いね」
雪島アイナ「あ、どうぞ」
大内加奈子「お邪魔してごめんなさいね」
大内加奈子「心苦しいけど、そろそろ時間よ」
雪島アイナ「30分なんて少ないよ」
大内加奈子「これでもギリギリまで長くしてあげたんだよ」
雪島アイナ「わがままは良くないよね」
雪島アイナ「ねえ、また会いに来てくれる?」
花村大河「もちろん」
雪島アイナ「加奈子先生、いいかな?」
大内加奈子「そうね、週に2回程度で1回につき30分」
大内加奈子「それだったら、いいわよ」
雪島アイナ「やったああ」
花村大河「良かった」
大内加奈子「もちろん、体調が悪い時は会えないから その点だけは覚悟してね」
雪島アイナ「うん」
花村大河「分かりました」
花村大河「じゃあ、また来るね」
雪島アイナ「またね」
大内加奈子「大河君、途中まで送ってくわ」
花村大河「はい」
〇大きい病院の廊下
大内加奈子「どうだった?」
花村大河「楽しかったです」
大内加奈子「なら、良かった」
大内加奈子「きっとアイナちゃんも同じはずよ」
花村大河「そうだったらいいですね」
大内加奈子「ねえ、まだ時間ある?」
花村大河「はい」
大内加奈子「少し付き合ってくれる?」
〇フェンスに囲われた屋上
大内加奈子「景色いいでしょ?」
花村大河「はい」
大内加奈子「ここはアイナちゃんの散歩コースなの」
花村大河「ここが?」
大内加奈子「彼女の世界は狭いのよ」
大内加奈子「彼女はいつもなら症状が悪い時の方が多いの」
大内加奈子「酸素吸入器が必要こともあるわ」
花村大河「そうなんですか?」
花村大河「まったくそうには見えませんでしたけど」
大内加奈子「あなたの前では元気なのよ」
花村大河「はい」
大内加奈子「毎日病院にいてやることといえば体調の検査 通信制学校のカリキュラムの消化」
大内加奈子「スマホ 読書 ゲーム テレビ 院内の散歩」
大内加奈子「体調が良ければ 病院の敷地内の散歩ぐらいは出来る」
花村大河「・・・・・・」
大内加奈子「だから」
大内加奈子「君たちみたいに友達と 遊びに行くこともできない」
大内加奈子「普通なら高校3年生なんて 部活に勤しんで放課後同級生とコンビニで買い食いしたり、休みの日はバイト、ライブやカラオケに行く」
大内加奈子「進学のためにみんなで勉強したり 塾にも通ってるかもしれない」
大内加奈子「そして、未来に夢を膨らませて 当たり前のように卒業をしていく」
大内加奈子「それも出来ず許されない」
大内加奈子「彼女はこれまで大事な時間を 病院で過ごして来た」
大内加奈子「どれだけストレスになるか分かるわよね?」
花村大河「はい」
花村大河「そう考えたら、俺、何てことしたんだろ」
花村大河「学校で友達いないとか 放課後すぐに家へ帰るとか愚痴ってたけど」
花村大河「俺の普通がアイナちゃんにとっては 普通じゃなかったんだ」
大内加奈子「そんな考えがその歳で出来る大河君は凄いわ」
花村大河「もしかしたら、アイナちゃんを 傷つけてたかもしれない」
大内加奈子「そんな素ぶり見たことないから大丈夫」
花村大河「なら、いいんですけど」
大内加奈子「それから誰もあなたを責めはしない」
大内加奈子「あの子だって、それを覚悟で アプリを始めたんだし」
大内加奈子「私もストレスになるようなら すぐに辞めさせるって伝えた」
大内加奈子「でも、彼女はアプリの試験に 参加し続けることを選んだ」
大内加奈子「それが彼女にとって狭い世界から 大きな世界に出る一歩だったのよ」
花村大河「はい」
大内加奈子「あと知っておいて欲しいことがあるの」
大内加奈子「本当は私の口から言うべきではなく アイナちゃん本人から聞くべきなんだけど」
花村大河「・・・・・・」
大内加奈子「”覚悟”だけはしておいてね」