はじめの一歩

里見夕貴

読切(脚本)

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〇簡素な一人部屋
  夢の中で母が静かに微笑んでいた
  社会人になってまだ数年だが
  目覚まし時計が鳴る前に目が覚めるようになった
  アラームを解除しながらぼんやりした頭で
  母の事を思い出していた
僕「髪が長かったから・・・ 小学生の時かな・・・ あの頃、母さんは何歳だったのかな」

〇渋谷駅前
  まだ出社には少し早いけれど
  起き出して渋谷に向かう
  スクランブル交差点に立つ
  信号が青になると一斉に沢山の人がそれぞれの目的地に向かって歩き出す
  沢山の人の中で深呼吸を一つして
  僕も歩きはじめる──
僕「(大切な目的地が自分も見つかるかもしれない)」
僕「(それは多分錯覚だし、歪んだ期待だとも分かっている──)」
  だけど──
  自分のペースで歩んでいくと
僕「(本当にやりたい夢が分かるのではないか)」
  ワクワクしてしまうのだ

〇異世界のオフィスフロア
  会社の始業時間の30分以上前についた
  同僚にはスクランブル交差点での僕のちょっとした儀式を話すと──
同僚「え?スクランブル歩いたからって そんなの見つかるものなの?」
  半分馬鹿にしたような反応が返ってくる
  大抵の人間の反応だ
僕「そうなんだけどね あそこに立つと何か行動を起こせる気がするんだよね」
同僚「なんで?」
僕「なんでかな? 活気があるからかな・・・ あと希望とチャンスにあふれている街だからかな」
  なぜスクランブル交差点ではやる気になるのか──
  かねてから感じていたことを同僚に打ち明けた
同僚「だけどさ 夢と希望もあふれているかもしれないけど 渋谷って暴力と欺瞞とも隣り合わせじゃん」
僕「うん・・・残念ながらそうだね」
  確かに──
  現実は甘くない
  でも
僕「でもさ」
  僕は小さく深呼吸をして
僕「自分の状態をよくしていれば そんなのとかに無縁でいられると思う」
  同僚は一瞬目を見開き微笑んだ
同僚「ふーん 前向きだし哲学的だね」
  同僚はコーヒーを飲み干すとゴミ箱にいれて
  にっこり笑って
同僚「お先!」
  デスクに戻っていった
  僕もそろそろ仕事を始めるか──
  
  忙しい日常がスタートする

〇渋谷のスクランブル交差点
  就業時間がすぎ帰路につく
  空は真っ暗だけれどネオンが溢れ
  昼間のような明るさだ
  呼び込みの声や人々の話し声喧騒の中を通り抜け渋谷駅に向かう
  相変わらず人でごった返すスクランブル交差点についた
  信号が変わる
  僕は一つ大きな深呼吸をして──
  しっかり顔を上げ歩き始めた
僕「(僕にはまだ明確な夢がない 何かしたいけれど── 何をしたいのかまだ分からない)」
僕「(だけど・・・何か本当の望みが見つかるかもしれない──)」
  淡い期待がスクランブル交差点に立つと湧き上がるのだ
僕「(人々に内に渦巻く欲望やの熱気がそう感じさせるのもしれない──)」

〇綺麗なダイニング
  保育士だった母は言っていた
記憶の中の母「人の最初の一歩ってね・・・ 『大好きなママに近づきたい』 っていう思いから始まるものなのよ」
記憶の中の母「そして一歩・・・ 足を出したら転んじゃうかもしれない」
記憶の中の母「だけどママが満面の笑みですごいね! 歩けたねって抱きしめてくれる」
  母は僕が幼い頃から僕にそう教えてくれた
  そして
  もう一つ──
  僕にとって大切な座右の銘になっている儀式も教えてくれた
  
  それは──
記憶の中の母「歩き始める時に『これからこの夢を叶えるんだ!』という意志をもって歩いていくことがポイントなの」
  と教えてくれた
  今はまだ僕は夢が分からない
  だけど──
僕「今から夢を見つけにいくんだ!!」
  スクランブル交差点を歩き出す時にそう決めて歩き始めることにしたのだ
  いつか必ず僕は夢を見つけ、夢を叶え、夢を生きる
  母に教えてもらった事を胸に今日も僕は歩き続ける

コメント

  • お母さんっていくつになってもお母さんなんですよね。
    自分が歩き出す時に、後ろから見守ってくれている…そんな感じがします。

  • 渋谷のスクランブル交差点ではないのですが、自分も信号ってなにかを後押ししてくれるように感じます。歩行者用の信号は特に。
    渡ることもできるし、渡らなくてもいい。けど渡らねば目的地にはいけない。
    そんな気持ちを再確認できました!

  • いくつになってもお母さんはお母さんで、子どもは子どもで、こんなふうに、一緒に過ごした記憶をいつもかかえながら生きていくのでしょうね。私も母と遠く離れたところに住んでいますが、彼と同じように母のことを日々思いだし、生きています。

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