カフェと銃と期末テスト『テスト週間と拳銃の音』(脚本)
〇教室
月曜日。午前8時10分。
いつも通りの朝――の、はずだった。
「おはよう、西村くん♪」
登校して教室のドアを開けた瞬間、俺はげんなりする。
そこには、満面の笑みを浮かべた美少女のスパイが立っていた。
西村京太郎「なに? いきなりどうした?」
山川涼音「ううん、別に? 今日から“公式に”チームだし、ちょっと早く来てあいさつしようかなって」
西村京太郎「いや、やめて? その爽やかさ、見てるこっちが寒い」
山川涼音「ひねくれてるのは体質なんだね・・・・・・うん、知ってた」
やっぱり、こういう軽口を叩ける関係は悪くない──
――なんて油断してたら、すぐ地獄が始まった。
1限、英語。伊沢先生の授業。
伊沢啓二「さて、来週から定期テストだ。勉強してない者は死ぬと思え。俺の担当教科は手加減なしだ!」
〇教室
西村京太郎「・・・・・・地獄が始まった」
山川涼音「そうだね、地獄の入口だね。英語70点以下は“補習+監視任務強化”って決まってるし」
西村京太郎「待って!? 補習はともかく、監視任務って何だ!?」
山川涼音「さすがに英語できない補佐官は、信用問題になるの」
山川涼音「だから、私がスパルタで教えてあげるね!」
西村京太郎「・・・・・・あーあ、これからの人生、下り坂しかない気がする」
〇図書館
放課後の図書館
――通称、任務室002
西村京太郎「で、涼音。今日の任務って何なんだ?テスト勉強しかしてないけど」
山川涼音「うん、今日はテスト勉強」
山川涼音「と見せかけて、裏任務がある」
西村京太郎「やっぱあるのかよ・・・・・・」
涼音は、テーブルに資料を広げた。
そこには都内の某有名カフェチェーンの写真。
「サン・クロノ・ラテ代々木店」――俺でも名前を聞いたことある大手店だ。
山川涼音「ここ、私たちの組織が情報中継地点として使ってる場所なんだけど──」
山川涼音「不正アクセスがあったの」
西村京太郎「え、カフェがハッキングされたってこと?」
山川涼音「正確には、店内Wi-Fi経由で機密コードの一部が傍受された形跡がある」
山川涼音「そのコードは、“私の身元”に直接関わるデータ」
西村京太郎「つまり──」
西村京太郎「お前の正体がバレかけてるってこと・・・・・・?」
涼音はこくりと頷く。
山川涼音「明日の午後、私と一緒にこのカフェへ行って。現地で監視カメラとデバイスの異常を確認するわ」
山川涼音「場合によっては・・・・・・物理的対処が必要になるかもしれない」
西村京太郎「“物理的”って、お前・・・・・・まさか」
彼女は、スカートの内ポケットから小型のハンドガンを取り出した。
本物だった。
音もなく、しかし確かに存在する“それ”は、俺の胃に鈍い重さをもたらした。
山川涼音「スパイ活動は、時に命のやり取りになる」
山川涼音「でも大丈夫。京太郎くんは私が守るから」
西村京太郎「いや、そもそも連れてくなよ!? 平和主義なんだよ俺は!!」
山川涼音「うん、でも現地でしか解析できない機器があるの」
山川涼音「それに、君が傍にいれば、私は堂々と『高校生カップルのデート』ってことで潜入できるわよ」
西村京太郎「え!?そのデート全然嬉しくない!」
山川涼音「じゃあ、明日の13時に代々木駅集合ね。テスト勉強も持参で」
西村京太郎「待って! 話を! 終わらせるな!」