九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第43回『満腹には程遠い…が』(脚本)

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〇城壁
  ──第43回『満腹には程遠い・・・が』
シャーヴ「・・・待ってました?」
フリートウェイ「誰かに言われずとも、オレはチルクラシアを待つさ」
  いくつか前の話のような怒りを見せなかったが、一人でチルクラシアを待っていたようだ。
  別に『寒さ』と『空腹』は感じていないし、自分が何か大きなことをするつもりも無かった。
フリートウェイ「あの人間に会ったんだろ?助かったぜ」
シャーヴ「いえいえ、私も『彼ら』のことは気になっていたので、直接見れて良かったです」
シャーヴ「レクトロ・ログゼが近くにいるせいで、これ以上のことはもう出来ませんでしたけど」
  目標だった『会うこと』と『話すこと』が達成されたのでかなり満足のようだ。
シャーヴ「お菓子を買いました。 彼女が目覚めたら食べましょう」
  高級そうなクッキーの缶をフリートウェイに投げ渡す。
フリートウェイ「・・・高そうなものを買ったな」
フリートウェイ「だが、オレが貰っていいのか?」
  せめて返金だけはしたい、のだが・・・
シャーヴ「はい。これは貴方のものですから」
シャーヴ「お代は結構。貴方を観察していると飽きないですから」
  代金は『フリートウェイそのもの』でいいらしい。
  シャーヴにとってフリートウェイは『観察対象』だ。
シャーヴ「──それでは、来るべき時にまたお会いしましょう」
  躊躇いなく城壁から飛び降りたシャーヴ。
  彼の姿を見ようと見下ろしてみたが、夜の影に消えていた。
フリートウェイ「・・・寝てる」
フリートウェイ「今度はオレの出番かい」
  規則正しく寝息を立てるチルクラシアを起こさぬように、フリートウェイは彼女を背負う。

〇おしゃれなキッチン
  ──翌朝の姫野家。
  ──現在の時刻は、午前6時30分。
  兄妹は、朝食を作るためにキッチンにいた。
姫野果世「今日から、貴方も学校を休むの?」
姫野晃大「無理無理、休めないよ」
  期末試験を二週間後に控えている晃大は、后神レクトロがしばらく居候することになったとしても、学校を休むつもりはない。
  ──否、休めない。
  成績の低下と追試験を恐れているからだ。
姫野晃大「それでも、后神様の食事は1品だけでも作りたくて早起きしてる」
  今日は一時間早い、午前5時30分に起きている。
  支度と朝風呂を済ませ、眠気と格闘しながら野菜を切り煮詰める。
姫野果世「・・・内申点稼ぎじゃないでしょうね?」
姫野晃大「えっ、そんなわけ無いよ!」
姫野晃大「僕の成績はいつも上の方だよ!」
  自分と妹が安心して休める時間を作るために成績をキープし続けているが、
姫野果世「シャレにならないのがひとつあるって言って無かったっけ?」
姫野晃大「ハイ、古典がヤバいです・・・」
  その妹に成績を把握されていた。
姫野果世「大丈夫よ、頑張ればどうにかなる」
姫野晃大「どうにかなんないから困るんだ・・・」
  古典以外の他の教科は、平均点以上の成績を取っているのに。
  少し憂鬱だ。
姫野果世「あ、7時半だ」
姫野晃大「ヤバいヤバい!遅刻しちゃう!!!」
  呑気に平和に話しているうちに、出発時間が来てしまったようだ。

〇シックな玄関
姫野晃大「今日の帰りは18時くらいかな」
姫野晃大「・・・古典の授業がちょっと憂鬱だけど、行ってきます!」
姫野果世「古典の授業、頑張ってね。 行ってらっしゃい」
  ──軽い挨拶をすませて、
  晃大はいつも通り、学校に行った。

〇シンプルな一人暮らしの部屋
レクトロ「・・・あ、もしもし景綱君?」
  目を覚ましたレクトロは、遊佐景綱に電話をかけていた。
  妻やナタクに電話をしていないのは、単に『怒られる』のが嫌だからである。
レクトロ「体力の限界以上に活動したせいで、もう身体の維持に精一杯さ」
  深く寝たことが良かったか、身体が異常に重く怠いだけで済んでいる。
  食欲不振や眩暈などはない。
  動こうと思えばきっと動けるだろうが、それは体が許していない。
レクトロ「だから、とある人間の家で療養することになったんだけど・・・」
レクトロ「偶然か必然か、『彼ら』は僕たちの天敵そのものなんだよねぇ・・」
  崙崋に『天敵』と言われ、永遠に見逃されない一族、姫野家。
  人間として生きているが『固有能力』を持つ彼らは、抹消対象となっている。
レクトロ「それに、兄の方は両親を捜しているみたい。 もう会うことなど叶わないのにね」
レクトロ「彼らにはそのままでいて欲しいんだよ。 余計なことを考えないように何かしなきゃいけない」
レクトロ「それは僕が動けるようになってからにしてもらって」
レクトロ「この生活に適応するために、僕はしばらく『人間形態』でいることになったよ」
レクトロ「・・・だから、しばらく帰ってこられない」
  人間の感覚なら、最短でも1か月はかかるだろうか。
  この期間は、特に何もしないわけでは無いが何も予定が決まっていない。
レクトロ「申し訳ないけど、シリンのことは頼んだよ」
レクトロ「君の管理下なら、仕事の手抜きをすることは無いだろうからさ・・・」
  シリンは安全な遊佐邸にいてもらうことにして、自分はゆったり下界で過ごす。
  遊佐偃に『人の話を聞け』と怒られることになるだろうが、それは仕方がない。
レクトロ「うん、また夜にかけるよ。 またね」
レクトロ(兄妹は観察することにしよう パッと見だけど無害そうだ)
  まずは観察から始める。
  相手の情報が足りないのだ。
レクトロ(部屋を出る前に、相応しい姿にならなきゃ 身だしなみを整えよう)
レクトロ「こんなものかな、上手く化けれているかい?」
  種族:人間
  年齢:10代前半の少女を想定した姿に化けてみる。
  声はその姿に適応する、『幼さがある少女』のものになっているが
レクトロ「こっちの声の方が出しやすいんだけど・・・ この身体で出せる声色では無いよね?」
  穏やかな青年の声も出せるようになっている。
  『個性』が身体を変えても存在し続けていることに、レクトロは喜んだ。
レクトロ「人外的な雰囲気も消しておこう」
  なるべく『人間と同じ雰囲気』を纏い続けるようにしたいが、これを常にするには限界がある。
  レクトロは、燃費が非常に悪い。
  一回の食事量は人間の約7倍である。
  当然だが食費も常人の7倍かかるわけで・・・
  姫野家の生活費を圧迫するのは確定だろう。
レクトロ(考えることが多いなぁ)
  いつもなら考えないことばかり考える。
  食事量を気にする時が来るとは、正直あまり考えていなかった。
レクトロ「もう少し後で考えても・・・ いや、そうやって後回しにするから良くないんだ」
レクトロ「下に降りよう。妹が待ってる」

〇おしゃれなリビングダイニング
  ──午前8時
姫野果世「わーい、いっぱい出来た!」
  大量の料理を見てご満悦な妹だが、ふと思う。
姫野果世「デザートとスムージーも欲しいかな?」
  王族よりも数倍豪華な朝食を一人で作った果世だが、不思議と疲労感は無い。
  むしろ追加のデザートやスムージーを作る気だ。
  部活動で帰りが遅い兄のために、妹は1日のほとんどを料理に充てている。
  なので、味には一応自信があるのだが
姫野果世(冷蔵庫がほぼ空になってしまった・・・)
  つい熱が入り過ぎて、冷蔵庫を空にするまで種類を問わず料理を作ってしまう悪癖があった。
姫野果世「買い物行かなきゃ。 あはは・・・出費がヤバそうだ」
  冷蔵庫のドアに張られた封筒から、とりあえず3万円を財布に入れた。
  ・・・これだけあれば、多分足りるだろう。
姫野果世「──后神様、おはようございます!」

〇おしゃれなリビングダイニング
レクトロ(ふーん・・・)
レクトロ(人間と同じ外見になることは出来たから、少し安心していたけど)
レクトロ(『彼ら』は見破ることが出来るんだ・・・)
  緊急だが人間とほぼ同じ水準でしばらく生活することになった以上、レクトロはいくつかの『工夫』をする必要があった。
  『人間』とほぼ同じ外見を維持し続けること、『固有能力』と再生能力の発動を抑え続けること。
  人間に『異形体』や『ブロット』のことを知られてはならない。
  知ってしまえば、何が起きるか分からない。
  余計な一動作が理由で自分の正体がバレることもだ。
レクトロ(この身体には制約があまりにも多すぎる どこまで隠し通せるかな?)
レクトロ(この身体での『名前』を変えてしまうのも手だな)
  正体を悟られないように、人間達の前では『レクトロ』の名前とは全く別のものにしてしまおうとも考えた。
レクトロ(・・・名乗らなければいいだけか)
  こちらから情報を提供する必要はない。
  人間が自分のことを、深く知る必要もない。
  『后神』として扱われることは解釈違いだが、この地位に居続け人間達に恐れられるのも悪くは無いかもしれない。
レクトロ「朝から、こんな大量の食事をありがとう」
レクトロ(力さえ使わなければ、普通の人間だな)
レクトロ(・・・力そのものが無かった方が良かったかなぁ?)
  机に並べられた料理を見たレクトロは、自分のために時間と労力と金をかけた果世に、微笑みかける。
  複雑な心中であることは隠した。
  ──食事に、この『情』は必要ない。
「いただきます!」

〇スーパーの店内
レクトロ(ここが『スーパーマーケット』とかいう名称の店か)
  レクトロは果世の買い物に付き合うことになった。
  人間・・・『少女』を想定した姿で動いているが、自分が『后神』であると看破した人間は誰一人いない。
  それに助かってはいる。
  自分の正体が今ここで発覚してしまえば、カオスな空気になること間違いなしだろう。
レクトロ(『人は見た目が9割』とは言うけどさ)
レクトロ(案外、バレないものなんだね)
  『一時的だが人間として生きる』ことに不思議と抵抗は無かった。
  ──横目で果世を見る。
姫野果世「牛乳コーナーはどこだったっけ?」
姫野果世「あったあった」
  カゴには、大量の食料品が山積みになっている。
  冷蔵庫に入っていた食品がほぼ無くなってしまったからという理由で、片っ端から買うつもりなのだろう。
レクトロ(買い込み、というやつかな?)
  一歩前に踏み出した瞬間──
レクトロ「・・・・・・・・・」
  あるモノの気配に気が付いたレクトロは、果世に近づく。
レクトロ「ねぇ、果世ちゃん」
レクトロ「ちょっとトイレに行ってくるね。 具合が悪いわけでは無いよ」
姫野果世「・・・急にどうしたんだろう?」
  大人しく後ろを着いてきていたレクトロが、急に動き出した。
  彼女も、何となく空気の淀みと墨の臭いを感じている。
姫野果世「うーん・・・・・・」
  頭をモヤモヤさせているものはすぐに分かったのに、どうにも出来ないのは分かっているため、一人で悶々とするしか無い。
姫野果世「・・・お化けがいたりして」

〇スーパーの店内
レクトロ「あのさぁ・・・」
  トイレとは反対方向、野菜コーナーで立ち止まる。
レクトロ「人が常に多い所で、孵化しないでくれる?」
  両手を背中に隠し、遠回しに『仕事を増やさないで』と言っている。
  異形体が常に人がいるような場所にいるとは、思わなかったのは内緒だ。
レクトロ「・・・悪いけど、君の絶望を受け止める余裕はないんだよね」
  異形倒しはこちらしか知らないし出来ない。
レクトロ「僕は優しくないんだよ」
レクトロ「──この舞台から、消えてもらおうか」

次のエピソード:Another Act1『一時のしあわせ』

コメント

  • 何だか面白いことになってきましたね。
    次回も楽しみです。

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