九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第37回『后神』(脚本)

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〇神殿の広間
  ──ロアに住まう者は、毎月九日に『后神』に決められた物を捧げなければならない。
姫野晃大「捧げ物に間違いはないよね・・・」
姫野果世「・・・しっかりしてよ。 家でちゃんと確認したし、授業でも習ったでしょ?」
姫野果世「──『子兎3匹と大麦のパン、蟹とホタテ貝』」
  妹は、授業の内容通りの捧げ物を用意していた。
姫野果世「最近は雨が多かったから、捧げ物の量はいつもより多くしてみた」
姫野果世「来月は、晴天が続くといいわね」
姫野晃大「そうだね」
  兄は妹の発言を肯定するが、本音は違った。
姫野晃大「着る服がそろそろ無くなるから、晴れてくれないとマジで困る!」
姫野晃大「全裸で過ごすのは嫌だ!」
姫野果世(・・・・・・・・)
姫野果世「それは家で言いなよ・・・」
  絶対この場で言うべきことではない。
  妹は、抜けている兄に呆れかえってしまった。
  だが、全裸で家中を動く兄を見たくなどないので、強く否定することも出来ない。
姫野果世「・・・貴方がモテない理由が分かった気がしたわ」
姫野晃大「半分は冗談で言ったつもりなんだけど!!!」
  ──妹は、兄を心底軽蔑するような表情をしている。
姫野晃大「そんな目をしないでくれ!」

〇神殿の広間
  ──第37回『后神』
  姫野兄妹が去ったことを確認したレクトロとシリンは、柱から顔だけを出す。
レクトロ「・・・もう出てきても、いいよね?」
シリン・スィ「あの人間達はいないわ。 もう大丈夫よ」
  姫野兄妹の捧げものを、シリンは興味深そうに、レクトロは恐る恐る見つめる。
レクトロ(──!)
シリン・スィ「今月は少し多いわね。 少しご飯が贅沢になるかもしれないから、嬉しいわ♪」
  食事量が多くなることに大喜びするシリンだが、隣のレクトロにいつもの明るさは消え去っていた。
  子兎を見て一瞬身体を強張らせた時から、ずっと無表情だ。
レクトロ「・・・シリンちゃん、1つ、頼んでもいい?」
レクトロ「兎達を、そのまま逃がして」
シリン・スィ「・・・・・・急にどうしましたか?」
レクトロ「──早く逃がせと言っている」
シリン・スィ「わ、分かりました!」
  有無を言わさぬ、どこか遊佐景綱に似ている迫力(と殺気?)を見せるレクトロ。
  怯んだシリンは、三匹の子兎を抱えて神殿を出て行った。
レクトロ(・・・・・・・・・・・・・・・)

〇城の廊下
  レクトロは、過呼吸になりながら城の中を走る。
  自分を透明にしていて、助かった。
  ・・・・・・今の状態では、顔と名前を知らない者をついうっかり攻撃しまいそうだから。
シリン・スィ「どこに行くつもりですか!!」
シリン・スィ(足が速いのよコイツ・・・!)
  内心不敬極まりない悪態を吐きながらも、シリンは、レクトロを視界から外すことなく追いかけていた。
  漸く、レクトロの片手を軽くつかめることに成功したが
  シリンの手を、視界を合わさぬままにレクトロは振り払う。
シリン・スィ「・・・!」
  レクトロは、ほぼ半泣きの状態だった。
  口元を無理やり三日月の形にして、
  目を細め、顔を少ししかめているような『表情』だ。
  色々な『感情』によって何とか出来ている”ソレ”は、強烈なインパクトを放っていた。
  普段はお道化て笑っていることが多いレクトロの、見たことのない顔に、シリンは目を奪われて足を一瞬止めてしまう。
シリン・スィ「待って・・・!」

〇城壁
  シリンから逃げたレクトロは、城の屋上にいた。
レクトロ「・・・・・・弱っちゃったなぁ」
レクトロ「あの子を、心配させた。 さっきの『ACT』は間違いだったな」
レクトロ「──僕はどんな顔をすればいいんだい? どうしたら、いつも通りの表情になれる?」
  夜風に身を当てながら、余裕のない頭で考えすぎてしまう。
シリン・スィ「あの・・・ 顔色が悪すぎますが、大丈夫ですか?」
  自分を見つけてくれたシリンに、レクトロは苦痛混じりの笑顔を見せる。
  ・・・きっと、それは中々に酷いものだろう。
レクトロ「あ、あぁ・・・ 心配させちゃって、ごめん・・・」
レクトロ「・・・こうなる前のことを思い出してしまってから、ずっと気持ち悪くてさ・・・」
レクトロ「黒いのが、心の底で今作られてるの。 嫌だなぁ、もう・・・」
  何が原因で、レクトロが急に衰弱しているのか、シリンは分からない。
シリン・スィ(ここまでやられているのは、初めて見た)
シリン・スィ(・・・)
  だが、持ち前の勘の良さと強かさで、レクトロ本人から聞き出すことにした。
シリン・スィ「・・・過去に、何か『苦痛を感じたが、覆せない出来事』があったんですか?」
レクトロ「・・・このタイミングで、それを聞くのかい?」
  レクトロは、シリンの『踏み込み』ともいえる発言に一瞬息を詰まらせる。
レクトロ「君の察しの良さは、僕も理解はしているつもりさ」
レクトロ「君が欲しいものは、『確証』かな?」
レクトロ「・・・・・・まぁ、いいかな。 従者たる君に、僕の過去を少しだけ、語れる部分だけを話そう」

〇美しい草原
  ──何百年前のことだったかなぁ・・・
  ──確か、ナタ君が仕事の息抜きと言って
  僕を天界に連れて行ってくれたことがあったの。
  この頃は、まだ未来に希望を見出すことが出来ていた。
  だから、天界に行けたんだと、今は思う。
  ──ちなみに『天界』は、人間が言う『天国』というものだよ。
アリエル・フェルマレイア「お久しぶりです、ナタク様」
  僕達に向かって走ってきた女性は、背中に白い羽を生やしていた。
  ・・・下界に、そんな人はいなかったような気がする。
ナタク「およそ500年越しの再会だな、天使」
  天使・・・
  それは確か、天界でしかまともに生きていけない、繊細で勤勉で、何故か罪がない存在だっけ?
アリエル・フェルマレイア「天使だけど!そうだけどさ!!」
アリエル・フェルマレイア「今の私には『アリエル』という素晴らしい名前を付けられたんですけど?」
  服装を気にせずに地団太を踏む彼女は、誰かに与えられた名前で呼んでほしかったらしい。
  ・・・僕がこの天使の立場なら、ナタ君にツッコミの一つはしていただろうね。
ナタク「・・・ここに何人の天使がいると思っているんだ」
ナタク「この身体はヒトとほぼ同じものだ、万能じゃない」
  ナタ君がアリエルさんに言いたいのは、
  『人間の脳の記憶容量』について、だろう。
ナタク「それなりの制約や苦痛はある。 君もそれをよく分かって、ヒトの姿を選んだはずだろう?」
アリエル・フェルマレイア「ヒトとして生きることが、楽しいだけですよ!」
  彼女は、『明確な意思』を持った存在として生きることを謳歌しているようだった。
アリエル・フェルマレイア「天界は娯楽が無いから困るわぁ・・・」
  僕が思っている以上に、天界は下界と似ているか、つまらないらしい。
  ・・・もう少し、話を聞いてみよう。
アリエル・フェルマレイア「天使だから、仕事は無いと思ってた・・・」
ナタク「・・・・・・残念だが、如何なる存在でも、その日を生きるために仕事をしなければならないぞ」
アリエル・フェルマレイア「そんなぁ・・・ 私、ここでずっと仕事をしなきゃいけないの?」
ナタク「そうなるな・・・」
  下界に興味と関心と好奇心がある天使は、がっくりと肩を落としてしまう。
ナタク「俺の気が向いた時に、差し入れを送らせてもらうよ。そこまで気に病まないでくれ」
アリエル・フェルマレイア「エナジードリンクはダメですからね! あれ、私は飲めませんから!!」
  ・・・・・・え?
  ナタ君ってエナジードリンクを知ってたの?
  そういったものとは、無縁だと勝手に思っていたんだけど・・・
ナタク「・・・人間が飲めるのだから、天使が飲めないとは思えないのだが」
アリエル・フェルマレイア「無理なものは無理です!」

〇城壁
レクトロ「今の僕が話せるのはここまでかな・・・」
  途中で切り上げたレクトロの表情には、疲労の色が滲んでいた。
レクトロ「昔が、嫌になるくらい懐かしいよ」
  天界らしからぬ内容だったナタクとアリエルの会話は、今のレクトロにとって一種の救いとなっていた。
  謎がさらなる謎を呼ぶことになってしまったレクトロの断片的な過去のお話は、シリンにとっても
シリン・スィ(さっきの話は、私のために、幸せだった時だけを抜粋している)
シリン・スィ(『語れる部分』がこれならば、『まだ語れない部分』はどんなモノなんだろう?)
  ささやかな幸福と闇が深い秘密の存在を察することになった。
レクトロ「みんなは先へ進む選択をするけど、僕は進めない」
レクトロ「僕の時間は、とっくのとうに止まっている。 秒針は錆びて、歯車は直せない程に欠けた」
レクトロ「『僕』にとっては、解釈違いでしかないの。 だけど、人間達は僕を『神』だと思い込んでいる」
  何か言いたげのシリンの唇を、レクトロは指でそっと押す。
シリン・スィ(──あっ)
レクトロ「・・・ちょっと疲れちゃっただけだから、大丈夫」
  シリンの唇に置いた指を、ファスナーを閉めるように速やかに端まで移動させた。
レクトロ「別に、嘘をついているわけじゃないんだ。 体を壊さない程度に、上手くやるよ」

〇城壁
  ──しばらくは互いに無言を貫き、夜空を見つめていた。
  ・・・出来れば、このまま少しずつ落ち着きたかった。
レクトロ「・・・・・・うぁっ」
  その場に崩れ落ちたレクトロは苦痛で顔を更に歪ませる。
シリン・スィ「レクトロ様!?」
レクトロ「い、痛い・・・!」
  喉元を両手で抑え、声にはノイズが走っている。
シリン・スィ「え、何何!!?」
シリン・スィ(声がおかしなことになってた・・・!)
シリン・スィ「どうしよう、どうしよう・・・!!」
  パニックになったシリンは、レクトロの手を喉からどかす。
シリン・スィ(携帯は? 無いなら、他の手段を使って・・・!)
  レクトロの懐から灰色の紙が出てきたため、
  雑に詳細を書いて、紙飛行機にして飛ばすことにした。
シリン・スィ「届いて!!!」

〇御殿の廊下
  自然現象らしからぬ音が耳に入ったナタクは、廊下の真ん中で足を止める。
  無言で外を見つめ、違和感しか無い音を聞く。
ナタク「・・・・・・・・・」
  窓の隙間から、灰色の紙が落ちてきた。
  綺麗に窓から入ってきたことに不審に思いながら、紙を広げるナタク。
ナタク「・・・誰の文字だ?」
  文字があまりにも崩されていたため、送り主の特定はすぐには出来なかった。
  慌てながら書いたのだろう、と思いつつじっと見つめる。
ナタク「・・・・・・送り主って、まさか・・・」
  ふにゃふにゃの文字で書かれていた内容は、彼が思っている以上に深刻なものだった。

〇貴族の部屋
  ──ナタクにシリンの手紙が届いた頃。
  落ち着いたが眠れないフリートウェイは、空気が重くなったことに首を傾げていた。
フリートウェイ「・・・?」
フリートウェイ「何だ?」
フリートウェイ「・・・どこからこの音はしている?」
  ベッドから降り、部屋の中をゆっくり歩いてみる。
  ・・・携帯電話と音が鳴るモノは無かった。
  不思議に思いつつドアに手を欠けたその時。
チルクラシアドール「ねぇねぇ」
  目を覚ましたチルクラシアは、ベッドから飛び降りフリートウェイの右腕を後ろから軽く掴む。
チルクラシアドール「レクトロを、助けに行こう」
フリートウェイ「レクトロに何かあったのか?」
チルクラシアドール「何か、大変なことに、なっているかも」
フリートウェイ「大変なこと?」
  言葉が思いつかないのか、彼女は間を開ける。
チルクラシアドール「寝やすいけど、今日は違うみたい」
チルクラシアドール「今なら、動けそうな気がする」
  目がいつもより冴えているようだが、
  気力はいつも通り少ないらしい。
  それでも、レクトロのために動こうとはしているらしく珍しく積極的になっている。
フリートウェイ「・・・とりあえず、行ってみようか」

次のエピソード:Another Act1『一時のしあわせ』

コメント

  • フルボイスだぁー(゚∀゚)(∀゚)(゚ )(  )( ゜)(゚∀)(゚∀゚)
    どうなるレクトロ!?

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