子供法務省

りをか

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〇東京全景
  日本の犯罪件数は、一時減少したものの
  ある時を境に増加し続け、日本の治安は
  悪くなっている──。
  また、殺人事件も後を絶たない。
  求刑を言い渡された受刑者は、高い塀の中で求刑が終わる日を待ちながら与えられた仕事をこなす。
  そんな受刑者求刑に納得いかず、
  悔しい思いをする遺族も多数いる。
  そこで、遺族に代わって
  死刑を求刑してくれる場所がある。
  それが、”子供法務省”だ。

〇古い洋館

〇暗い廊下
A「はぁ、今日の仕事も上手くいったなぁ」
B「そうね。遺族の人も喜んでくれてたし」
C「10日経てば、あの受刑者は死亡する」
C「その受刑者の臓器は、 ドナーに当てられるって訳だ」
B「ある意味、私達って正義のヒーローよね?」
リーダー「その通り、私達のしている事には 全て意味があるのよ?」
A「”脳死刑”、素晴らしい求刑だな・・・」
  そう話していると、
「すみません。子供法務省はここでしょうか?」
リーダー「そうですが・・・」
花田 薫子「あの、こちらに行けば受刑者を脳死刑にしてくれると伺ったのですが・・・」
リーダー「ええ、出来ますよ?」
リーダー「その前に子供法務省の事は、法務省から 全て説明聞かれてますか?」
花田 薫子「いえ、あまり詳しくは 教えて頂けませんでした」
リーダー「なら、ご説明しますね?」
リーダー「ここ、『子供法務省』はMOJ(法務省) からの求刑に納得のいかない遺族の方々が 脳死刑を依頼する国の機関です」
花田 薫子「ですが、何故”子供法務省”という 名前なんですか?」
リーダー「子供の考えはピュアなものです」
リーダー「私達もテレビを見て、この求刑は おかしいと考える事があります」
リーダー「たまに、遺族の方が出来る事なら私が死刑にしてあげたい、殺してやりたいと仰る方がいますよね?」
リーダー「けど、実際にはそれが出来ない」
リーダー「そこで、遺族の気持ちに代わって 私達が死刑にする。それが、 『子供法務省』なのです」
花田 薫子「ちょっと待って下さい。 失礼ですが、あなた方は・・・?」
リーダー「はい。ここに居る者達は、全員子供です」
花田 薫子「こ、子供?」
リーダー「はい。しかも全員14歳未満の・・・」
花田 薫子「何故、14歳未満の子供達が?」
リーダー「14歳未満の子供達は、責任能力が無い為 罪には問われないのです」
花田 薫子「・・・なるほど。 それで、”脳死刑”と言うのは?」
リーダー「私達は、ただ単に死刑にするだけでは 物足りないと思っています」
リーダー「そこで、子供法務省が考えた処刑法が 『脳死刑』です」
リーダー「受刑者を脳死状態にし、臓器を ドナーに提供するのです」
リーダー「罪を犯した者は何かしらの形で 罪を償ってもらう」
リーダー「臓器には、何の罪もありませんからね」
花田 薫子「ですが、どうやって 脳死状態にするんですか?」
リーダー「事故によって、頭部を損傷させるんです」
花田 薫子「事故?事故を起こすのは誰が?」
リーダー「勿論、我々です」
リーダー「ここに居る者は、ちゃんと 特殊な訓練を受けております」
リーダー「臓器にダメージを与えない様に・・・」
リーダー「以上を踏まえた上で、脳死刑を ご希望ですか?」
花田 薫子「・・・・・・」
リーダー「失礼ですが、亡くなられたのは ご家族の方ですか?」
花田 薫子「娘です。娘には当時、交際相手が居たんです」
花田 薫子「ですが、娘は相手から DVを受けていて・・・」
花田 薫子「そのDVに耐え切らず、 別れ話を切り出したんです」
花田 薫子「そしたら相手が逆上して娘を・・・」
C「なるほど。テレビでよく見るやつだね」
リーダー「相手の求刑は?」
花田 薫子「・・・2年ちょっとです」
A「たったの2年?」
リーダー「それは短い求刑ですね」
花田 薫子「そうなんです。だから 私達家族は納得してないんです」
花田 薫子「大切な一人娘だったからこそ・・・」
  依頼者は泣きじゃくった。
リーダー「それは、大変お辛いですね。分かりました」
リーダー「では、脳死刑にして構いませんね?」
花田 薫子「はい。宜しくお願いします」
リーダー「では早速、承諾書を書いて 頂いて宜しいですか?」
花田 薫子「・・・分かりました」
  依頼者は躊躇う事も無く、
  承諾書にサインをした。
リーダー「ありがとうございます。脳死刑当日は、 ご遺族様の立ち会いが必要となりますが 大丈夫ですか?」
花田 薫子「立ち会いですか?」
リーダー「はい。ご遺族の方も色々言ってやりたい事があるんじゃないですか?相手に・・・」
花田 薫子「言ってやりたい事・・・はい、あります」
リーダー「なら、当日お待ちしていますね」
リーダー「日時が決まりましたら こちらからお電話差し上げますので、 それまでお待ち下さい」
花田 薫子「分かりました。宜しくお願いします」
  依頼人は会釈し、去って行った。
A「やっと、一仕事終わったってのに また仕事か・・・」
B「仕方ないよ。これだけの人が 求刑に納得してないんだから・・・」
リーダー「さっ、無駄話はこのくらいにして 日程を決めましょ?」
B「なら、一週間後はどう? さすがに今週二件はキツイわ」
リーダー「分かった。じゃあ、一週間後ね」
リーダー「早速、MOJに連絡して 受刑者に報告入れとくわ」

〇祭祀場
  それから一週間後
  受刑者『松井洋介』は、
  子供法務省に連れて来られた。
松井洋介「一体、何だよ、 俺をこんな所に連れて来やがって・・・」
リーダー「松井洋介さんですね? ここは、子供法務省です」
松井洋介「子供法務省?何だよ、それ」
リーダー「あなたに、脳死刑の依頼が来たので、 これからあなたを”脳死刑”として 処刑いたします」
松井洋介「はっ?”脳死刑”?」
松井洋介「なんだよ、俺はな ガキの遊びに付き合ってるほど ヒマじゃねーんだよ!!」
松井洋介「さっさとここから出せ!!」
リーダー「この承諾書に見覚えありませんか?」
松井洋介「承諾書?たしかに名前は書いたよ。 書けって言われたから・・・」
リーダー「なら、そういうことです。 名前をここに書いてしまった以上、 あなたはこれに同意したという ことになります」
松井洋介「同意?ふざけんなよ!!俺は 何も説明されないまま、名前を書いたんだ」
リーダー「説明されないままにしても、承諾書を ちゃんと読まなかった あなたにも責任はあります」
松井洋介「俺は納得しねぇ!! 脳死刑なんかにされてたまるか!!」
リーダー「あなたがこれに納得しない様に、 あなたに殺された遺族の方々は もっとあなたの求刑に納得していないんです」
  松井は暴れるのをやめた。
リーダー「今回、脳死刑を依頼されたのは、 こちらの方です」
松井洋介「ユリの・・・お母さん?」
リーダー「そうです。この方は、あなたに殺された ユリさんのお母様です」
松井洋介「・・・・・・」
リーダー「花田さん、この受刑者に対して、何か 言いたいことはありますか?」
花田 薫子「はい、もちろんあります」
リーダー「分かりました。では、松井受刑者。 これから花田さんの最後の言葉を しっかりと胸に刻み、罪を償ってください」
リーダー「それでは、花田さんどうぞ」
  花田は深呼吸をし、松井の目を見つめた。
花田 薫子「娘をあんな目に合わせて、私は あんたを一生許さない」
花田 薫子「あんたに出会ってなかったら、娘は まだ生きてたのに・・・」
花田 薫子「あんたが刑期を終えて、 のこのこ生きてるなんて、死んでも ごめんだわ」
花田 薫子「反省してないんでしょ?裁判の時も、 ふてぶてしい態度でしたもんね」
花田 薫子「どうせ、全うな人間にはなれないんだから、 せめてドナーの為くらい役に立ちなさいよ!!」
  花田は目に涙を浮かべ、怒号混じりの罵声を松井に浴びせた。
リーダー「言いたいことは以上ですか?」
花田 薫子「はい、もう十分です」
  花田は肩で息をし、答えた。
リーダー「では、只今より『松井洋介』受刑者の 処刑を執り行います」

〇武骨な扉
  こうして、『松井洋介』は
  脳死刑として処理された。

〇要塞の廊下
花田 薫子「本当にありがとうございました。 これで娘にも、ようやく報告できます」
リーダー「松井は悪人でしたが、脳死刑を 受けたことで、これからは 世の為・人の為にいい善人になりますよ」
リーダー「なぜなら、脳死刑は そのためのものですからね」
花田 薫子「私は、素晴らしい刑だと思います」
リーダー「そう言って頂けると、大変嬉しいです」
花田 薫子「因みに、この刑を思い付いたのは 誰なんですか?」
リーダー「この刑を考えたのは私です」
花田 薫子「なぜ、この様な刑を?」
リーダー「・・・それを、お答えすることは できません。守秘義務ですので・・・」
花田 薫子「そうですか」
リーダー「10日もすれば、松井は脳死となり 松井の臓器は、レシピエントに提供される ことでしょう」
リーダー「ご存知ですか?松井の臓器で、 約11名の方が助かるんですよ?」
花田 薫子「そんなに多くの方が・・・?」
リーダー「はい。きっと、ドナーの方も 喜んでくれると思いますよ?」
リーダー「なので、こちらからも脳死刑を 依頼して頂き、大変感謝しております」
花田 薫子「この刑が、ちゃんと法として 認められることを願っています」

〇東京全景
  それから数年後──
  国は”脳死刑”を一つの処刑法と認め、
  死刑は脳死刑に切り替えられた。
  これによって、多くのドナーは
  長年待ち続けた臓器を、早い段階で移植することが出来る様になり、
  『子供法務省』は国から名誉賞を授与し、
  こうして子供法務省は解散する
  運びとなった。

〇ビルの屋上
リーダー「皆んな、今までありがとう」
B「ううん。こちらこそありがとう」
A「ところでさ、お前達これからどうすんだよ」
B「まだ決めてない。けど、そろそろ 普通の子供に戻りたいと思ってる」
A「”普通の子供に”って?」
B「だから、普通に学校に通って普通に 友達と遊んだり、しゃべったりするの」
B「憧れてたんだぁ。 恋バナってやつに・・・」
A「なんだ、そうだったのか・・・」
B「まっ。いきなりは無理かもしれないけどね」
C「たしかに、今までずっと悪い大人を 相手にしてきてたから、同年代と関わって みたいよな」
B「リーダーは?これからどうするの?」
リーダー「私は、どうしようかな・・・」
リーダー「今は考えたくないかも・・・」
C「俺さ、リーダーに一つ 聞きたい事があんだけど」
リーダー「何かしら?」
C「何で、脳死刑を発案したの?」
B「それ、私もずっと聞きたかった。どうして?」
リーダー「あまり言いたくはなかったけど、 今日で皆んなと過ごすのも最後だから、 この際話すわ」
  3人は、リーダーを見守り、
  静かに息を呑んだ。
リーダー「私には、妹がいたの」
リーダー「その妹は心臓が弱くて、長い間 入院生活を送ってきた」
リーダー「医者からは、移植手術をしないと妹は 助からないと言われ、私達家族は必死に なって移植にかかるお金を募金などで集めた」
リーダー「両親は、妹の為に必死になって お金を作った」
リーダー「海外でしか出来ない為、億単位のお金を 作るのは、並大抵のことじゃなかったわ」
リーダー「妹はレシピエントになり、ひたすら ドナーを待った」
リーダー「そしてついに、妹の順番が回って来た」
リーダー「・・・いや、回ってくるはずだった」
B「はずだった?どういうこと?」

〇ビルの屋上
リーダー「私達は、アイツらに・・・ あの家族に、順番を横取りされたの・・・」
A「横取り!?」
リーダー「そうよ。病院の医師は、そいつから 多額のお金を貰い、私達より先に、 そいつを優先した」
リーダー「結局、新しい心臓は妹の手に 渡ることは無く、妹はしばらくして この世を去ったわ・・・」
リーダー「父も、母も、私も悔しくて、 いっぱいいっぱい涙を流した」
リーダー「あの時、アイツらさえいなければ、 妹は生きていたのに」
リーダー「それからしばらく経って、妹の担当医師が 線香を上げにやって来たの」
リーダー「私達家族は問い詰めたわ。なぜ、 アイツらを優先したんだって」
リーダー「そしたら医師は、こうする事しか できなかったと」
リーダー「法務省のお偉いさんなんだって。 誰か分かる?」
C「お偉いさんってことは、 トップの人間だよな?」
リーダー「そう。法務省の大臣『金山剛史』よ」
B「”金山剛史”!?」
リーダー「金山の孫も、移植をしなければ 助からない病気だったの」
  3人は、何も言えずにいた。
リーダー「いい世の中よね。 地位、お金、名誉があれば、 何でも思い通りに人を動かせる」
  リーダーは、鼻で笑って、そう言った。
B「それからどうなったの?」
リーダー「私は週刊誌に、この情報を売った」
リーダー「けど、ちゃんとした証拠がない為、どこも この情報を買ってはくれなかった」
リーダー「だから私は、匿名で法務省に電話を掛け、 大臣を脅したの」
リーダー「初めはシラを切ってたけど、医師の名前を 出したら、何も言えなくなってた」
リーダー「私は金山に、死刑法を変える様言ったわ」
リーダー「絞首刑じゃ無く、脳死刑にしろと」
リーダー「それが出来ないのなら、私を 法務省の傘下に置けと言った」
リーダー「金山は、子供なんかに人を裁かせることは 出来ないと言ってきたが弱点を付いたら、 私の指示にすぐに従ってくれたわ」
リーダー「こうして子供法務省は出来たのよ」

〇ビルの屋上
C「リーダーにも、そんな 過去があったんだね・・・」
リーダー「人は、色んな過去を持ちながら生きてる」
リーダー「あなた達にも、言えない過去の 一つや二つあるんじゃないかしら」
A「一つや二つって、俺達まだ子供だぜ? そんなもんあるかよ」
B「そっ、そうだよ」
リーダー「確かに、あなた達が過去を作るのは、 これからかもしれないわね・・・」

〇新緑
  ──20年後──

〇ビルの屋上
  リーダーは久しぶりに法務省を訪れた。
  ビルの屋上である男を待つ。すると・・・
「君か?私をこんな所に呼んだのは」
  振り返ると、そこには年老いた
  ”金山剛史”が立っていた。
リーダー「はい。お待ちしてました」
金山剛史「君は一体誰だね?」
リーダー「お孫さん、お元気ですか?」
金山剛史「・・・孫?」
リーダー「心臓移植をされたお孫さんですよ」
金山剛史「あぁ、孫なら元気にしてるよ」
金山剛史「5年前に結婚して、子供もいてな。 私も今では、曽祖父だよ」
リーダー「・・・幸せに暮らしてるんですね」
金山剛史「君は、孫の知り合いか?」
リーダー「この様子じゃ、お忘れの様ですね」
リーダー「私はあなた方に、妹の命を奪われた者です」
金山剛史「奪われた?一体どういう事だ?」
リーダー「私には、5つ離れた妹がいました」
リーダー「妹もあなたのお孫さんと同じ様に 心臓が弱く、長い入院生活を送っていました」
リーダー「治療法が無い妹の心臓は、移植手術という 方法でしかなく、私達家族は必死になって、お金を集めた」
リーダー「海外でしかすることの出来ない億単位の お金を集めるのには、相当な時間と労力が 必要でした」
リーダー「父も母も仕事を終えては、夜に別の仕事をし寝る暇を惜しんで妹の為に必死で働いていたのを今でも覚えています」
リーダー「そして遂に私達の努力が実を結び、妹に やっと移植手術のチャンスが巡って来ました」
リーダー「私達家族は、嬉しくて、早くこの事を 妹に伝えたかった」
リーダー「けど、それを伝える事は出来なかった。 何故だか分かりますか?」
「・・・それってつまり・・・」
リーダー「そう。妹の移植手術の順番を、あなた方が 奪ったからですよ」
金山剛史「・・・・・・」
リーダー「金も地位も名誉もあるあなたは、あの医師に多額のお金を握らせ、あなたの孫の移植手術を優先した」
  金山は顔色を変え、すぐ様
  医師に電話を掛け始めた。
リーダー「あの医師に電話するおつもりですか? 無駄ですよ?」
リーダー「だって、あの医師はもう ここにはいませんから」
金山剛史「いない?どういうことだ」
リーダー「あの医師は、私によって処刑されました。 といっても、死に追い込んだだけですけどね」
金山剛史「証拠は?私があの医師に 多額のお金を握らせた証拠はあるのか!?」
金山剛史「そんなものないだろ?」
リーダー「ありますよ。この ボイスレコーダーが証拠です」
  リーダーは金山に
  ボイスレコーダーを見せた。
リーダー「この中に、あの医師が語った真実が隠されています。 お聞きになりますか?」
金山剛史「お前の望みは何だ?金か?いくら欲しい!?」
リーダー「あーあ、これだからイヤなんです。 金さえ払えば何でも許されると思ってる」
リーダー「だから、政府の悪事が減らないんですよ」
リーダー「お金?そんなもの要りません」
リーダー「今ここで、私の妹、それから 先立ちした父と母に謝罪し、 私のいる目の前で死んで下さい」
金山剛史「死んで下さいだと!? バカなことを言うんじゃない!!」
リーダー「私は本気ですよ?」
リーダー「応じてもらえないのなら、私が 処刑するしかありませんね・・・」
  リーダーは鞄から大量の紙を出す。
金山剛史「何だ、コレは?」
リーダー「これは、明日発売される、週刊誌の 記事の一部です」
リーダー「今からこれをバラ撒いて、沢山の方々に 見てもらいましょうか」
リーダー「どうせ、今日見せるも明日見せるのも 同じでしょう」
リーダー「そしてあなたは、贈収賄の容疑で逮捕される」
リーダー「悲しむでしょうね。 だって、お孫さん知らないんでしょ?」
リーダー「孫の心臓は、金で奪った 心臓だってことを・・・」
金山剛史「やっ、やめてくれっ!!謝罪はする」
金山剛史「だが、死ぬのだけは勘弁してくれ!!」
金山剛史「明日は、孫の誕生日で、盛大に お祝いするって孫と約束してるんだよ」
金山剛史「だから頼むっ!!」
リーダー「へぇー、誕生日ですか。 誰かの命を奪っておきながら、 その命で誕生日のお祝い?」
リーダー「こっちは妹を失った悲しみで、 ずっと私は児童養護施設で不幸な日々を 送っていたのに・・・」
  リーダーは怒りに満ちていた。
金山剛史「君の妹さんに対しては、 本当に申し訳ないと思ってる」
金山剛史「だから、謝罪はする。だが、 命だけは勘弁してくれ」
  金山は土下座し、リーダーに頭を下げた。
リーダー「そうだ。金山さん、お孫さんに今から 電話で誕生日のお祝いメッセージでも 言ったらどうですか?」
金山剛史「えっ、今から?」
リーダー「はい。どうせ、今日言うも明日言うも 同じでしょう?お孫さんの電話番号 ご存知ですよね?」
金山剛史「知ってはいるが・・・」
リーダー「さぁ、早く。お孫さんに電話を・・・」
金山剛史「わっ、分かった・・・」
  金山は、孫の芽亜理に電話を掛け始める。
「もしもし、芽亜理か?」

〇おしゃれなリビングダイニング
芽亜理「おじいちゃん?どうしたの?」

〇ビルの屋上
金山剛史「・・・芽亜理。誕生日、本当におめでとう」

〇おしゃれなリビングダイニング
芽亜理「ありがとう。けど、誕生日は明日だよ?」

〇ビルの屋上
金山剛史「そうだけど何となく 先に言っておきたくてな、」
金山剛史「芽亜理、今幸せか?」

〇おしゃれなリビングダイニング
芽亜理「うん、とっても幸せだよ」
芽亜理「私ね、正直自分の人生を諦めてたの」
芽亜理「けど、諦めなくて良かった。だって、こんな私でも結婚できて子供だって出来たんだよ?」
芽亜理「本当におじいちゃんと、私に心臓を 提供してくれた人には心から感謝してる」

〇ビルの屋上
金山剛史「・・・芽亜理、お前の心臓はな・・・」

〇おしゃれなリビングダイニング
芽亜理「おじいちゃん、ごめん。愛理が泣いてるから そろそろ切るね」
芽亜理「明日の誕生日パーティー、楽しみにしてる」

〇ビルの屋上
  芽亜理はそう言って、電話を切った。
リーダー「お孫さん、何とおっしゃってましたか?」
金山剛史「私と心臓を提供してくれた人に 感謝してると言った」
リーダー「・・・そうですか」
金山剛史「これで用件は済んだだろ?」
金山剛史「だったら、私はそろそろ 失礼させてもらうよ?」
リーダー「いいえ、用件はまだ終わってませんよ。 誰が、”許す”と言いました?」
金山剛史「えっ?だって、孫に誕生日の お祝いメッセージを言ったらどうだって のは、そういうことだろ?」
リーダー「私はそんなつもりで言ったわけでは ありません」
リーダー「最後になるから、言わせたのです」
金山剛史「そっ、そんな・・・」
リーダー「やっぱり私は、あなたを許せません」
リーダー「あなた達も、そうでしょ?」
A「ああ、そうだな。 謝罪だけして自分だけが助かるのは 正直、俺は納得できない」
B「私も同じ意見よ」
C「”悪い大人が嫌い”。それが、 『子供法務省』の定義だからな」
金山剛史「子供・・・法務省?まさか、お前達が?」
リーダー「そうです。私達が、子供法務省です」
金山剛史「・・・おっ、お前達が・・・」
リーダー「金山さん」
リーダー「大変気の毒ですが、3人の意見が 可決した為、これより死刑を求刑致します」
  3人は、リーダーの合図により、
  大量のビラを屋上から撒き散らした。
「よせっ、やめろぉー!!!!」
  金山は大量に撒かれた紙と共に
  ビルの屋上から転落した。

〇ビルの屋上
リーダー「皆んな、今日は集まってくれて 本当にありがとう」
リーダー「そしてこうして再び 出会えたことにも感謝してる」
B「当たり前でしょ」
B「だってリーダー、解散する前 私達に言ってたじゃない」
B「『もう一人、処刑したい相手がいる』って」
リーダー「確かに、そんな事言ってたわね」
リーダー「けど、その相手は私一人で ケリをつけようと思ってたの」
リーダー「あなた達に、イヤな過去を作ってもらいたくなかったから・・・」
A「なぁに言ってんだよ。今更そんなこと」
C「リーダー、本当にこれでよかったんだよな?」
リーダー「ええ。これで満足よ」
B「ところでリーダーは、今まで 何をしていたの?」
リーダー「・・・私?」
リーダー「私はね、法律を勉強する為に大学へ行き、 いつかは政治の道へ進もうと思ってる」
リーダー「そして内閣の一員となって、いずれ私は 法務大臣になるわ」
リーダー「これからも悪い大人を処刑するために・・・」

〇古い洋館
  ──完──

コメント

  • 読了しました。

    子供法務省のリーダーが発案した脳死刑ですが、僕は反対の意見です。
    記憶転移によって人格が変化する事例が考えられますから。
    被告人の嗜好が反映されては危険です。
    明確に意思表示したドナーから臓器提供されるべきです。

    大人になったリーダーは果たして国を変えれるのか。
    いずれにせよ、妹さんの代わりに救われた誰かさんに恨まれるのに変わりないでしょうが……。

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